劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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仲が良くてよろしいですね


騒がしい昼食

 午前の授業を終えた達也の許に、エリカがやって来た。廊下を見れば、深雪や雫、ほのかやエイミィといった一科生の姿も見受けられる。

 

「どうしたんだ?」

 

「話し合った結果、達也君を一人占めするんじゃなくって、共有しようって事になったのよ。だから、お昼もみんな一緒に食べましょう」

 

「つまり、何時も通りと言う事か。美月も行くか?」

 

「い、いえ……私は今日、部活のミーティングがありますので」

 

 

 普段通りに振る舞おうとしているのは分かるが、どうしても美月には達也に対する恐怖心が見て取れる。達也自身は気にしていないのだが、エリカにはどうにも気になってしょうがなかったのだった。

 

「そう言えばエリカ、レオや幹比古はどうした?」

 

「レオも新学期のミーティングだってさ。ミキは会ってないから知らない」

 

「会ってない? エイミィ、今日幹比古は来てないのか?」

 

 

 幹比古と同じクラスのエイミィに尋ねるが、彼女の顔は複雑そうな表情を浮かべている。

 

「来てることは来てるんだけど、授業が終わったらさっさと風紀委員会本部に行っちゃったみたい」

 

「忙しいのか。風紀委員長ともなれば、当然か」

 

 

 達也は先代、先々代の風紀委員長を思い浮かべ、あの二人は下に仕事を丸投げしてたなと改めて思ったのだった。

 

「そうじゃなくて、どうも達也さんの事を避けてる感じがしてて……」

 

「どうせあれでしょ。達也君が四葉の縁者だってことに恐れてるだけでしょ。達也君は達也君だって割り切れないなんて、それでも友達だって言えるのかしらね」

 

 

 エリカの毒に、達也は苦笑いを浮かべエリカを教室から廊下へ押し出す。実はそのような反応を見せているのは、幹比古や美月だけではなく、このクラスにいる人間にも、少なからず存在していたのだった。

 

「とりあえず、あまり目立たない方が良いだろう。この時期なら屋上に人は来ないだろうから、そこで飯にしよう」

 

「こそこそする理由は無いと思う。千代田先輩と五十里先輩は、堂々といちゃいちゃしてる」

 

「あの二人は、入学する前から婚約してるからな。この状況と同じだとは考えない方が良い」

 

 

 少し不満そうな雫の頭をポンポンと叩き、達也は屋上へと向かう廊下を進んでいく、その後ろには、深雪がすかさず着き、少し遅れてほのかやエリカたちも続いた。

 

「ところでお兄様――達也さんは一科に転籍しないのですか?」

 

「三年になるときには分からないが、魔工科で十分だと思うぞ。俺は魔工技術を教わる為に学校に来てる感じだからな」

 

「ですけど、私は達也さんと一緒に授業を受けてみたいです」

 

 

 積極的に前に出るほのかに、達也は苦笑いを浮かべる。

 

「一科に転籍して、他の男子と軋轢を生むのは避けたいからな。ただでさえ睨まれてるのに」

 

 

 以前までは、好意を向けていても最終的には一人だけだからと高を括っていたのだが、政府が特例を認めるかもしれないという噂の所為で、達也に向けられる敵意の視線は鋭さを増していたのだ。だが、達也が実は四葉の縁者で、しかも自分たちを遥かに凌ぐ――深雪以上とも言われている魔法力の持ち主だということが、直接攻撃に出れない一つの要因にもなっていた。

 そして達也本人より問題なのが、その周りにいる女子の能力の高さだ。深雪はもちろんの事、雫やほのかも学年上位の成績で、エリカは一科生でも敵わない剣術の達人だ。その女子が好意を寄せている達也に、攻撃でも仕掛けようものなら、一瞬で袋叩きに遭うと男子たちも理解しているのだ。

 

「そう言えば達也君、最終的には何人くらい達也君のお嫁さんになるのかしら?」

 

「さぁな。そこらへんは家が決めるんじゃないか? 応募者全員を受け入れるはずもないんだし」

 

「でも、達也さんならそれくらいの包容力がありそう」

 

 

 雫の言葉に、エイミィとほのかが力強く頷き、深雪が当然だとばかりに微笑んだ。

 

「噂じゃ、一色のご令嬢も達也君に婚約を申し込んだみたいじゃない。一色家をどうするのかは知らないけど、凄いモテモテよね」

 

「七草先輩も達也さんに婚約を申し込んできたって噂も聞いたよー。達也さんって前から七草先輩と仲良かったもんねー」

 

 

 エイミィの無邪気な感想に、深雪の機嫌が下降していく。真由美と達也が仲が良かったという事実は、彼女の中には無いのだ。

 

「そう言えば深雪、まだ達也君の事『お兄様』って呼んでるんだね」

 

「だって、つい最近まで実の兄妹だと思っていたのだもの。いきなり呼び方を変えろと言われても難しいわ。エリカだって、修次さんがお兄さんじゃないって言われても、いきなり変えられないでしょ?」

 

「な、何で修次兄貴の事を!」

 

 

 エリカが慌てている理由を、深雪と達也以外は知らない。彼女が隠れブラコンで、修次の彼女である摩利を目の敵にしてる事を。彼女が修次の前では緊張して、お嬢様っぽい話し方をする事を。

 

「とにかく、そう言う事よ。実は従兄妹でしたと言われても、私の中では達也さんはお兄様なんですから。こうして意識して呼べば変えられるけど、無意識ではまだ『お兄様』って呼んでしまうのよ」

 

「そうなんだ。私も未だに司波君って呼びそうになるけどね」

 

「エイミィはすぐに変えられたじゃない。その性格、羨ましいわ」

 

「そうかな? エリカだって、私とあまり変わらない性格じゃない?」

 

「胸は大分違うけどね」

 

 

 雫が呟いた言葉に、この場の空気が凍った。

 

「し、雫? 何で今胸の話を?」

 

「持つ者と持たざる者の差。達也さんはどっちが好き?」

 

「別に女性の魅力はそこだけでは測れないだろうし、俺は別に気にしない」

 

「ほのか! 雫がいじめるよ~!」

 

 

 

 冗談で泣きついたエイミィだったが、ほのかの豊な胸に顔をうずめた途端、弾かれたようにほのかから離れた。

 

「な、なに?」

 

「分かってたけど、ほのかって凄いね」

 

「な、なにが?」

 

 

 じっと自分の胸を見てくるエイミィに、ほのかは背筋に冷たいものを感じる羽目になったのだった。




若干自虐的な雫……

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