劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにあのキャラが


卒業生の来校

 昼休みになり、達也はいつも通り生徒会室に向かおうとしたが、エリカに呼び止められ二年A組まで連れていかれた。魔工科生である達也は兎も角、二科生であるエリカが一科生の教室に行こうなどというのは珍しい事なので、達也もいささか面食らっていた。

 

「深雪、ほのか、雫、ちゃんと連れて来たわよ」

 

「さすがエリカね。でも、端末で知らせてくれればこっちから行ったのに」

 

「先に終わったのがあたしなんだから気にしないで。まぁ、なんとなく居心地は悪いけどね」

 

 

 周りの視線に対し嫌味を言うと、エリカを見ていた一科生たちはすごすごと逃げていった。それだけ今のエリカの視線には凄みがあったのだろうと、達也は一科生たちに同情した。

 

「それで、俺をここに連れてきた意味を教えてくれ」

 

「達也くん、最近は深雪のお弁当ばっかだったでしょ? だから深雪だけズルいって事であたしたちも達也くんにお弁当を作ってきたのよ。後はエイミィとスバルが来れば移動できるわね」

 

 

 確かに婚約者候補が大勢いる中で、深雪だけ手作り料理を食べてもらえる回数が圧倒的多いのは不平等だろう。だが家族として過ごしてきたのだから、今更その事を指摘されても、達也としてみれば深雪の料理を口にするのは当たり前で、特別な感情があるわけではないのだ。

 その代わり、他の女子の手作り料理を食べる機会となると、達也でも若干緊張する節が見られる。照れているのではなく、深雪と比べてしまわないかと自分の中に不安を感じるのだが。

 

「達也さん、今日は私がお弁当を作ってきたので、ぜひ食べてください」

 

「ああ、期待させてもらうよ」

 

 

 ほのかの意気込みに応えるように、達也もあえてプレッシャーを掛けるようなことを言った。ほのかは下手に繕ったコメントを返すより、こうして発破をかけるような事を言った方が成長するタイプだと、達也は思っている。実際その通りで、ほのかは少し緊張した面持ちに変わったが、それ以上に達也の感想を待っているような雰囲気にも感じられた。

 

「お待たせー! いや~、授業がちょっと長引いちゃって」

 

「エイミィが何度も失敗するからだろ。僕はさっさと終わってたのに」

 

「だってさ~。あっ、達也さんもごめんなさい」

 

「別に構わない。それで、何処で食べる気なんだ?」

 

 

 達也の問いかけに、深雪が自分の端末を達也に手渡した。深雪の端末には、応接室の鍵がダウンロードされており、そこに来客があるようなことを告げられた。

 

「そこの教室へ。お兄様に会いたいという方がお待ちですので、ほのかのお弁当を持って向かってください」

 

「来客? また家の人間か?」

 

「いえ、OGです」

 

「卒業生か……七草先輩か?」

 

「行けば分かるよ。それじゃあ達也さん、明日は私がお弁当を作ってくるから、楽しみにしてて」

 

 

 雫がそう告げると、深雪たちは生徒会室へと向かっていった。何故この場に連れてこられたのかがイマイチ理解できなかったが、達也は端末に表示された部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 応接室に到着した達也は、深雪から渡された鍵を使って中へ入ることにした。だが一応礼儀として扉をノックして、中に誰かいないかどうかを確かめた。

 

『どうぞ、入ってください』

 

 

 返された声は、達也にとって懐かしいものだった。昨年まで生徒会で一緒に作業していたが、それほど深い交流は無かった相手の声だった。

 

「失礼します」

 

「やぁ、久しぶりだな」

 

「渡辺先輩と七草先輩もご一緒でしたか」

 

「リンちゃんが返事したほうが、達也くんも意外感を持ってもらえると思ってね」

 

 

 真由美の悪戯っぽい笑みを見て、達也は『精霊の眼』を使うまでも無く誰がいるか分かっていた事を隠す事にした。扉一枚程度では、達也から隠れ通せるはずもないのだ。

 

「それで、どのようなご用件でしょうか? 七草先輩なら、なんとなく分かるのですが渡辺先輩と市原先輩までご一緒となると、ちょっと用件に見当がつかないですね」

 

「あたしはただ、面白そうだからついてきただけだ。用があるのは真由美と市原だ」

 

 

 そういって摩利は、面白がってるのを隠そうともしない笑みを達也に向けた。その笑みを受けて、達也は真由美と鈴音へと視線をずらした。

 

「それで、七草先輩と市原先輩はどのようなご用件で」

 

 

 達也の言葉には『放課後ではなく、わざわざ昼休みに訪ねて来るような用件があるのか』という非難が込められている。その事は真由美にも鈴音にも伝わったが、彼女たちも色々と用事があるのというありふれたコメントでその非難を無視した。

 

「えっとね、達也くんはリンちゃんの家の事情を知ってるんでしょ?」

 

「数字落ち――『一花家』の人間であると言う事は存じておりますが、それが何か」

 

「司波君は、四葉家次期当主の地位を確保しても、熱核融合炉の実験を止めないと真由美さんから聞きました」

 

「まぁ、止める理由がありませんし、魔法師の社会的地位を確立させるためにも、止める訳にはいきませんので」

 

「その実験、私にも手伝わせてもらえないでしょうか」

 

「市原先輩が手伝ってくれるのなら、喜んで歓迎しますが、何故その事をここで?」

 

 

 そんなことは電話でも良いだろ、という感じの達也に、鈴音はもう一つ決心していたことを告げる。

 

「パートナーとしてではなく、四葉の一員として手伝わせていただきたいのです」

 

「つまり、達也くんのお嫁さんになりたいって言ってるのよ。リンちゃんはストレートに物を言えないみたいだからね」

 

「でしたら、魔法協会を通じて四葉家に言ってください。直接、俺に言われてもどうする事も出来ませんので」

 

「分かりました。ご検討のほどをお願いします」

 

 

 頭を下げた鈴音に、達也は何も声を掛けずに真由美へと視線を移した。

 

「ん、なに?」

 

「それで、七草先輩の用件は何なのでしょう?」

 

「えっと……名前で呼んでほしいなーって」

 

「はっ?」

 

「だって、深雪さんは兎も角としても、北山さんや光井さん、千葉さんに明智さん、里見さんまで名前で呼んでるのに、私だけ苗字で呼ばれてるのは不公平じゃない? 聞けば響子さんや津久葉先輩の事も名前で呼んでるらしいじゃない」

 

 

 どこで調べたんだというツッコミを堪えて、達也はため息を吐くことで気持ちを落ち着かせた。まぁ、荒ぶるほどの感情は、達也には備えられていないのだが。

 

「真由美だって気にしてるんだ。達也くん、呼んでやってくれないか」

 

「はぁ……真由美さん、そんなに気にすることではないと思うのですが」

 

 

 達也が名前で呼んだことで、真由美は上機嫌になって、達也が持ってきたほのかのお弁当を達也に食べさせると言う行動に出て、その事をどうやって嗅ぎ付けたかは分からないが、深雪にこっぴどく怒られたのだった。




リンちゃん正式参戦!?

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