劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ポンコツスパイが再び日本へ……


それぞれの情報

 カノープス少佐が船で日本に向かうのを見送った後、リーナは日本行の飛行機へと乗り込んだ。普通の飛行機ではなく、USNA軍が所有するプライベートジェットだ。

 

「少佐、分かっているとは思うが、今回の日本行をよく思っていない上官たちも沢山いる。結果が出なければ君の立場が危うくなると思うように」

 

「分かっています、バランス大佐。必ずやタツヤの尻尾を掴んでみせます」

 

 

 自分の秘密は早々に達也に知られてしまった事を棚に上げて、リーナは意気込んで見せた。その根拠のない自信がどこから湧いてくるのか、バランスは心配そうにリーナを見送ったのだった。

 

「やはり、シリウス少佐は日本に行かせるべきじゃなかったかもしれないわね……」

 

 

 リーナが達也に好意を抱いている事を逆手に取り、四葉内部の事を調べようと考えたバランスだったのだが、リーナは致命的に諜報能力が無いのだ。下手に探りを入れて、逆にリーナの秘密を四葉に知られるようでは、USNA軍の秘密まで知られる恐れが高い。バランスは、今更ながらリーナを使おうと考えた自分に呆れてしまい、成果よりも失敗しなければいいがと不安を募らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バランスが自分の事で不安を募らせているなどと露知らず、リーナは日本行の飛行機の中で通信端末を開き目的の番号に電話を掛けた。

 

『久しぶりね、リーナ。また一段と痩せたんじゃない?』

 

「そんな事ないわよ。むしろ太っちゃったくらい」

 

『シェイプアップしたのね。羨ましいわ』

 

「それって嫌味かしら? ミユキだって、前に見た時よりもきれいになってるじゃない」

 

『そう見えるなら、多分そうなのだと思うわ。だって、叶わないと思ってた想いが叶いそうなんだもの』

 

 

 リーナは、深雪が達也の事を想っている事を知っている。むしろ深雪と行動を共にして、その事に気付かない人間などいないだろうと思っていた。

 

『それで、いったい何の用で電話をくれたのかしら? シェイプアップした身体を自慢したかったわけじゃないんでしょう?』

 

「当たり前よ。これからまた日本に行くことになったから、その報告に」

 

『リーナが? もしかして、また何か問題でもあったのかしら?』

 

 

 深雪は、リーナが戦略級魔法師でありスターズの総隊長であることを知っている。正確に言うならば、達也から聞かされて知ったのだが、そんなことは些末事だ。

 

「問題と言えば問題かしらね……」

 

『お兄様――達也さんと代わった方が良いかしら?』

 

「ううん、ミユキに用があるからミユキの番号に掛けたのよ。タツヤに用だったらタツヤの番号に掛けるわよ」

 

『それで、私に用と言うのは何かしら』

 

 

 リーナが改まった空気を醸し出したのを感じ取り、深雪の方も居住まいを正した。ヴィジホン越しではあるが、最低限の礼儀として、リーナも深雪に倣い姿勢を正した。

 

「九島家を介して、私、アンジェリーナ・クドウ・シールズは、四葉家次期当主である司波達也殿に婚約を申し込みます」

 

『貴女までなの!? でも貴女は……』

 

「そういう目で見られるのに嫌気がさしてね。USNA軍を抜け出してきちゃった」

 

 

 もちろんこれは嘘だが、深雪にその事を確かめる術は無い。これが達也なら瞬時に見分けられるのだろうが、深雪は達也程相手の本質を見抜くことが出来ないのである。

 

「私だって十七歳の女子なのよ? それなのに、毎日訓練だ説教だって、嫌になるのも当然だと思わない?」

 

『……怒られるのは貴女に問題があるのじゃなくて?』

 

「うっ……訓練で物が壊れるのは仕方ないじゃない! それをいつまでもぐちぐちぐちぐちと!」

 

 

 溜まっていた鬱憤が爆発したのか、リーナは深雪にこの後愚痴を垂れまくったのだった。深雪も自分でつついてしまった手前、会話を打ち切るタイミングが掴めず、リーナが満足するまで愚痴に付き合わされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪がリーナと会話をしている頃、達也にも電話が入っていた。

 

『ごめんなさい、たっくん。今、大丈夫だった?』

 

「問題ありません、母上。それで、わざわざ俺の部屋の回線につないだと言う事は、深雪に知られたくない事ですね」

 

『さすがたっくん。話が早くて助かるわ。崑崙方院の生き残りが日本にやってきてテロを企ててるという報告を受けました。四葉家としては、この生き残りを排除する方向で動くのだけど、師族会議が控えている今、人員を多く割く事が難しいのよ』

 

「捜索を手伝うのは問題ありませんが、俺にはその崑崙方院の生き残りという男の情報がありません」

 

『それくらいなら葉山さんに用意させて持って行かせるわよ。データで送ると問題ありそうだから、今回も紙媒体になると思うけど、たっくんなら一回見れば覚えられるわよね』

 

 

 高校入学の前、魔法協会関東支部が入るビル内で捕まえた強化実験体魔法師の事を思い出し、達也はそれくらい政治色が強い案件なのかと思い直した。

 

『それから、これは今回の事件とは別なのだけど』

 

「まだ何かあったのですか?」

 

『USNA軍スターズ総隊長で戦略級魔法師でもあるアンジェリーナ・クドウ・シールズがたっくんとの婚約を申し込んできたの。何か裏があると思うから、十分に気を付けてね』

 

「リーナが何をしようと、俺の情報は引き出せませんよ。彼女は決定的に汚さが足りませんから」

 

『たっくんが汚れすぎてるだけだと思うけどね。いくら軍人とはいえ、たっくんほど擦れた十七歳がいるとは思えないもの』

 

「母上がそれを言いますか? いろいろな経験を俺に積ませた貴女が」

 

 

 達也の言葉に、真夜はニコリと笑いながら視線を逸らした。自覚してる分だけ、その事を指摘されると困るのだろうと、達也は画面越しに母親の心理を読み取った。

 

『とにかく、九島家は藤林響子さんに続き、アンジェリーナさんも候補に挙げてきたわけだから、どっちにするかはたっくんの好みで決めてもいいわよ』

 

「リーナが嫁ぐ事になるのは、ありえないと分かっているでしょう? 精々何を探りに来たのか調べてみますよ」

 

 

 そう言って、達也は一礼して通信を切ったのだった。久しぶりに来る問題だらけの知人の顔を思い浮かべ、達也は苦笑いを浮かべたのだった。




これでリーナの出番が増える
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