劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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揺れる乙女心……


七草家での一幕

 七草家に戻ったミアは、久しぶりに再会したリーナの事を思い出していた。パラサイトに身体を乗っ取られていた時の記憶は、ミアには無い。だが、話を聞く限りでは、リーナに相当な迷惑を掛けたのだ。

 

「ミアさん、何か悩み事かしら」

 

「いえ、久しぶりにリーナに会ったものですから、ちょっと感慨深かっただけです」

 

「シールズさんとミアさんは、付き合いが長いんですよね? 何時頃から付き合いがあるんです?」

 

「私が高校生の頃に、リーナと出会って、そこからずっとですね。立派な腐れ縁です」

 

 

 ミアの答えを聞いて、真由美は少し羨ましそうな表情を見せた。その表情がどのような意味を成すのか分からなかったミアは、直接真由美に尋ねる事にした。

 

「腐れ縁と呼べる相手がいる事が羨ましいのですか?」

 

「えっ? いや、そうじゃないですけど……」

 

 

 歯切れの悪い返答にミアは首を傾げる。普段の真由美は、はっきりと答えを返してくれる相手なのに、この質問にだけは明快な回答をしてくれなかったのだから、疑問に思っても仕方ないだろう。

 

「シールズさんの境遇は、なんとなくだけど知ってるのよ。それでもミアさんのように付き合ってくれる相手がいるっていうのがね。私はそういう相手が少なかったから」

 

「渡辺摩利さんは違うのですか?」

 

「摩利は腐れ縁というより悪友だからね。互いにからかったりからかわれたりだったし、相手の事を本気で心配しても、それを口に出すことは無かったから」

 

「境遇をご存じなら分かるかと思いますが、リーナは立場上外部に知り合いを作ることが難しいのです。また、年の近い相手もほぼいないので、私みたいな下っ端とも仲良くしてくれたのですよ」

 

 

 下っ端と言ったミアを、真由美は驚いた表情で見つめる。真由美は、ミアも重要な役職についているものだと思っていたのだから、仕方ないと言えばそれまでだろう。だが見つめられたミアは、何故真由美が驚いたのかが分からず、再び首を傾げた。

 

「ミアさんって、結構偉いんだと思ってました」

 

「そんな事ないですよ。リーナの方が、よっぽど偉いです」

 

「そうだったのね」

 

 

 そう答えてから、真由美はふと別の事が気になった。何か企んでいるような表情を浮かべられては、ミアも居心地の悪さを覚えても仕方ないだろう。

 

「な、何でしょうか」

 

「ひょっとしてだけど、ミアさんも達也くんの事が気になってるのかしら?」

 

「気になっているとは?」

 

「ほら、ミアさんはパラサイトに取りつかれていたじゃないですか。その時の記憶は無くても、達也くんに助けてもらったというのは分かってますよね」

 

「ええ。どうやったのかは分かりませんが、彼が私からパラサイトを引きはがしてくれたとリーナから聞いています」

 

「助けてもらった恩が、恋愛に変わったとか無いのかなと思いまして」

 

 

 真由美が冗談めかして告げると、ミアの表情がみるみる真っ赤に染まっていった。

 

「あれ?」

 

「な、何ですか?」

 

「ミアさん、顔真っ赤ですけど……もしかして」

 

「ち、違いますよ! 私が司波達也さんの事を好きなんてありえません!」

 

「……私、まだ何も言ってませんが」

 

「あっ……」

 

 

 盛大に墓穴を掘ったミアは、先ほど以上に顔を真っ赤に染め上げるのだった。その表情を見て、真由美はまたライバルが増えたと嘆いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉がそんなことを考えているのと、時と場所を同じくして、香澄は泉美の部屋で悶々とした気分で世間話をしていた。

 

「泉美ちゃん、七宝のヤツが光井先輩に告白まがいな事をしたって聞いてる?」

 

「ええ、身の程知らずと北山先輩が切り捨てたとか」

 

「どうやら七宝のヤツ、光井先輩に対しての未練を断ち切る為に告白しようとしたらしいよ」

 

「そうなんですか。ですが、光井先輩の気持ちを考えると、七宝君の言動は自己満足でしかありませんね」

 

 

 双子の姉が何を言いたいのか気になっている泉美は、しばらく香澄の世間話に付き合う事にした。だが、何時までも他愛のない話ばかりなので、泉美の方から切り出すことにしたのだった。

 

「香澄ちゃん、何か気になっている事でもあるのですか?」

 

「えっ、何でそんなことを?」

 

「先ほどから何か言いたそうだけど、なかなか切り出せない雰囲気を醸し出していますし、香澄ちゃんが七宝君の事を気に掛けるなんて、普通の状態ならありえませんから」

 

 

 随分と酷い言い草だが、泉美の言っている事はもっともだった。一学期のあの争いだって、七宝が過干渉してきたから勃発したのであって、香澄の方から突っかかる事はあまりなかったのだ。

 双子の妹に諭されて、香澄は覚悟を決めたような表情を浮かべ――

 

「な、何にもないよ」

 

 

――ヘタレた。

 そんな香澄の態度に呆れたのか、泉美は盛大にため息を吐いて、香澄の正面まで移動し、そこに腰を下ろした。

 

「私に隠し事をしようとしても無駄です。香澄ちゃんとは、生まれる前からずっと一緒なんですから」

 

「はは、敵わないな……分かった、正直に言うよ」

 

 

 漸く言う決心がついたのか、香澄は大きく息を吐いて、泉美を正面に見据えた。

 

「ボク、司波先輩の事が気になってるんだ」

 

「お兄さんの方ですよね?」

 

「当然だろ。ボクは泉美と違って同性愛者じゃないから」

 

「私だって違いますわ。ただ、深雪先輩が好きなだけなんですから」

 

「………」

 

 

 泉美の言い分に、香澄は呆れた表情で双子の妹を見つめた。だが、相談すると決めたのだから、ここで脱線している場合ではないと思い直し、咳払いをして話を続けた。

 

「司波先輩が四葉の人間で、お姉ちゃんの相手だって事は分かってる。でも、ボクも立候補したいって気持ちがあるのも確かなんだ」

 

「なら、すればいいじゃないですか。司波先輩の状況は特殊なんですから、香澄ちゃん一人くらい増えたからといって、そう問題になるわけはないと思いますけど」

 

「でも、お姉ちゃんと気まずくなるのは避けたいし……」

 

「お姉さまだって、そこまで心が狭い訳じゃないと思いますよ。それに、司波先輩を一人占めしようなんて、考えるだけ無駄だと理解しているでしょうし」

 

 

 泉美の言い分に、思わず納得してしまった香澄は、覚悟を決めて弘一に自分の気持ちを打ち明ける事にしたのだった。




香澄の気持ちも考えなければ……

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