勉強会も数日経てば、大体誰に質問すれば良いか分かってくるものだ。
「美月、これって如何やるの~?」
「エリカちゃん、少しは自分で考えようよ」
「達也、此処教えてくれ」
「レオも少しは考えてから聞いたら如何だ?」
二科生でありながらも座学だけなら一科生にも匹敵するであろう達也と美月に、エリカとレオは質問する。そして一科生はと言うと……
「お兄様、此処なのですが……」
「達也さん、スミマセン、私も同じところが分かりません」
「ゴメン達也さん、私も……」
「実は私も分からなかったり……」
全員が達也に質問するのだった……
「達也さん、実は私も同じところが分からなくて……」
「あっ、そこアタシも分からない」
「俺もだ」
「……全員分からないんだな」
一科生の中でも成績優秀者の深雪たちが分からないものを、エリカたちが理解してるとは思って無かった達也だが、実際に全員に質問されると気分が重くなるのだ。
「それじゃあ纏めて説明するが……」
達也の即席授業に全員が真剣に耳を傾ける。中でも深雪とほのかは熱心とは少し違った理由で達也を見ているような気もしてたのだが、とりあえず聞いてるので達也はツッコミを入れなかった。
「……と、言う訳だが、今の説明で分からなかった人は居るか?」
一通りの説明を終え、達也が全員を見渡し聞いたが、全員が首を左右に振った。つまり全員理解したと言う事だ。
「スゲェな達也、今すぐにでも魔法学の先生になれるんじゃねぇの?」
「そうね。アンタと意見が被るのは気に食わないけど、達也君ならすぐにでも人気教師になれるよ」
「あのな、俺は実技が苦手だから魔法科高校の教師にはなれないぞ」
「ですが! 達也さんなら特例でなれそうですよ!」
「うん、ほのかの言う通り達也さんなら実技が苦手だとか関係無く良い先生になれると思う」
「私も、達也さんの授業なら理解出来ると思う」
一科生三人にも言われ、達也は少し困ったように頭を掻いた。教師になれない別の理由に心当たりのある深雪は、達也が困ってるのを見て少し気まずそうに視線を逸らした。
「美月? 如何かしたの? さっきから固まってるけど」
「いえ……達也さんってどんな勉強をしてるのか気になりまして……」
「どんなって、普通の勉強だが? それこそ美月たちと同じ授業を受けてるんだから」
「達也君、このまま行けば理論のトップも狙えるんじゃないの?」
エリカは冗談めかしているが、この発言に一科生四人が反応した。
「確かにお兄様ならトップも狙えるでしょうね。むしろトップを取ると思います!」
「達也さんなら学年トップでも誰も驚かないと思います!」
「でも、一科生男子は怒るかもね」
「いい加減達也さんの事を認めれば楽になれるのにね~」
「ホントそうよ! 誰だっけ? あの森……森山? とか言う男子も達也さんの事を馬鹿にしてるし」
「ほのか、アイツは森崎だ」
風紀委員の同僚である森崎を、一応フォローしておく達也。クラスメイトであるはずのほのかに覚えられてないとはさすがに彼が可哀想だと思ったのだろう。
「お兄様は少しお優しすぎるんですよ」
「そうだね。あんなヤツの事までフォローしなくて良いと思う」
「私はクラス違うから良く知らないけど、話聞く限り最低な男だね」
「あっ、森崎って入学したての頃達也君が蹴っ飛ばしたアイツ?」
「ああ、アイツか! すっかり忘れてたぜ」
「お前らもか……」
森崎の存在感の無さにさすがの達也も同情した。
「えっと、森崎君って誰でしたっけ?」
「………」
「これが美月よね」
「良い感じに止めだな」
「え? あれ? 私変な事言いました?」
「ううん、美月は変な事言ってないわよ」
「むしろ良い事言ったと思う」
「それが世間の彼の評価」
「これで達也さんが優しすぎるって証明出来たね」
「今度見にいってみよーっと」
この場での圧倒的不利を感じ取り、これ以上森崎の事は口にしないでおこうと決心した達也。本人不在でこれ以上彼の評価を落とすのは可哀想だと思ったのかは定かでは無い。
「話が大分逸れたが、実技は兎も角理論は一科生と二科生に差は無いんだし、そこまで気にしないんじゃないのか?」
「ですがお兄様、一度自分の方が優れてると勘違いした人間は、それが何であろうと負けたくないと思うものなのですよ」
「そんなもんか? そもそも順位など気にしてないヤツの方が多いんじゃないのか? 理論よりも実技優先なんだから」
「でも、達也さんに負けたってなれば一科生は口惜しがる」
「殆どの男子は達也さんを見下してるもんね。私口惜しいです!」
「ほのかが口惜しがる事無いと思うんだが……まぁそう言う事情なら口惜しがるかもな」
自分が優れていると思って無い達也にとって、負ける事が口惜しいものなのかと首を傾げたくなるのだ。彼が生きてきた世界では、負け=死だったから。
「何時までもしゃべってないで勉強を再開しよう。時間は有限だぞ」
「ちぇー、せっかく息抜き出来てたのに」
「達也はホント、良い先生になれると思うぜ」
「まだ言ってるのか、兎も角俺は教師にはならん。今だって勉強会で教えるのがやっとなんだから、大勢に教えるなんて俺には出来ないさ」
若干自虐する事で周りを納得させようとしているのだと、深雪だけが分かった。達也が自分自身を否定する事を嫌う深雪としては、この発言に意義を申し上げたいところなのだが、せっかく達也が話を上手く纏めたのに自分が引っ掻き回して迷惑を掛けるのを嫌ってこの場では我慢したのだった。
「それにしても、達也さんって本当に魔法理論得意なんだね~。私最初は不安だったけど、達也さんになら安心して教われるよ」
「教わるの前提で話をしてないで、少しは考えような?」
「は~い。やっぱり達也さんはお兄ちゃんなんだね」
このエイミィの発言に深雪の肩がピクッと動いたが、達也以外気付かなかった。
「達也君、此処教えて~」
「俺も!」
「……お前らも少しは考えろ」
エリカとレオが再び質問してきたので、達也は頭を抑えながらも質問箇所の説明を始める。言い出せなかった人も数人居たようで、達也の説明を熱心に聞いているのだが、その中で深雪だけが心中穏やかでは無かった。
「(お兄様の妹は私だけ。お兄様は私のお兄様なのだから)」
不機嫌オーラが教室中に充満し、他の人が不思議そうにキョロキョロし始めたのを見て、達也がアイコンタクトで深雪を諌めた。その事で充満していたオーラが綺麗さっぱり消え、その事でまた全員が不思議そうにキョロキョロしたのだった。
そろそろ本編に入れるかなぁ