劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一色も考えたんですけどね……


師族会議 後編

 烈の発言を受けて、どうやってと問う者はいない。師族会議の発言は対外秘がルールだが、会議の模様を様々な手段で外部に漏らしているのは九島家だけがやっている事ではなかったからだ。

 

「皆が弘一を責めるのは当然だ。だが、責任を問うのは待ってもらいたい。反魔法師運動を煽動したことについては、私も弘一から相談を受けていた。そして私は弘一を止めなかった」

 

 

 円卓を囲んで視線が飛び交う。真夜、弘一、真言を除く、剛毅、舞衣、元、勇海、温子、雷蔵、克人は、烈の真意を測りかねていた。

 

「それに、周公瑾と関係を持ったのは、我が九島家も同様だ。弘一は周公瑾と結託しても陰謀を語り合うだけで具体的な行動は起こしていないが、私はパラサイトを利用した無人魔法兵器に周公瑾から提供された技術を使い、罪もない若人をその実験台にしようとした。真夜の息子が止めてくれなかったら、取り返しの付かない事になっていたかもしれない」

 

 

 烈から視線を向けられ、真夜は微かな笑みを浮かべて頷いた。彼女は弘一を徹底的に叩くつもりでいたが、その事に強く執着していたわけではない。烈が弘一を庇うというのであれば、その師弟愛を台無しにするつもりは無かった。

 

「私がしたことに比べれば、弘一の行いは陰謀ごっこに過ぎない」

 

「しかし、老師」

 

 

 剛毅が言いかけた言葉を、烈が目で制する。

 

「九島家は、十師族の座を退く。それでこの場は収めていただけまいか」

 

「先代……」

 

「真言、お前には周公瑾に直接便宜を図った罪がある。周公瑾から送り込まれた道士の件で、四葉殿のご子息にも一条殿のご子息にも迷惑を掛けている。本来であれば、私ではなくお前が言い出さなければならない事だったのだ」

 

「先代……父上!」

 

「真言、お前には失望した」

 

 

 呆然と父親の顔を見上げる真言に、苛烈な眼差しを向けていた烈を宥めたのは、意外にも真夜だった。

 

「先生、もうよろしいではありませんか。九島家が全ての責任を負われるというのであれば、四葉家はそれで納得しましょう。七草殿には今後の貢献で不祥事を償っていただければ結構ですわ」

 

 

 烈は師弟の情だけで弘一を庇っているのではなく、自分が作った十師族体制維持の為に弘一を庇っているのだ。現在、日本で最も力を持っている魔法師集団は国防軍の魔法師部隊ではなく、四葉家、及び七草家。四葉家と七草家は日本魔法界の双璧であり、その七草家を十師族から除外するのは好ましくない。

 その思惑を見通すのは、真夜にとって難しくなかったが、これ以上話を長引かせるのも面倒だったので、烈の申し出を受け入れたのだった。

 

「四葉殿がそう仰るのであれば……」

 

「確かに今、七草家に十師族を抜けられると、穴が大きすぎますな」

 

 

 温子と雷蔵が、相次いで真夜に賛同し、他にも反対の声が上がらなかった。弘一は笑みの消えた能面のような表情でこの顛末を見ており、真夜がそんな弘一へ目を向けて、フッと笑った。

 

「真言、行くぞ。皆、失礼したな」

 

 

 烈に命じられて、真言がのろのろと十師族の席を立ち、軽く目礼して会議室を出ていく烈に、肩を落として続いたのだった。

 

「そ、それでは、九島家に代わる十師族を決めなければなりませんな」

 

 

 パタンと扉が閉まり、止まっていた時を動かしたのは、五輪勇海のやや焦った声だった。

 

「明日は選定会議だ。その時で良いのでは?」

 

「十師族に欠員が出た場合は、次の選定会議まで師族会議が選んだ補充メンバーがその務めを果たすことになっております。例え一日であろうと、十師族を欠けたままにしておくべきではないでしょう」

 

 

 三矢元が反対を唱えたが、真言に代わって最年長になった二木舞衣が勇海の提言を支持した。

 

「そうだな。誰が良いだろうか? どなたか、候補は?」

 

 

 剛毅が仕方ないという表情で候補を問う。それに答えたのは真夜だった。

 

「それでは七宝殿は如何でしょうか? ご当主の拓巳殿は思慮深く、配下の魔法師こそ少ないものの財力は中々のものですわ」

 

 

 剛毅、克人、勇海が弘一の顔を窺う。七草家と七宝家の確執は他家にも知られているところだったが、弘一は何の反応も示さなかった。

 

「七宝殿ですか……他に推薦はございませんか?」

 

 

 舞衣の問いかけに答える当主はいなかった。

 

「では十師族の新メンバーは七宝殿に決定します。一日限りのメンバーですが、すぐに七宝殿へお伝えしましょう」

 

「では、私が」

 

 

 克人が手を上げ、電話を掛けるために会議室を出て行こうとしたが、舞衣がその背中に声を掛けた。

 

「十文字殿、お待ちください。少し休憩と致しましょう。再開は三十分後で如何です?」

 

 

 舞衣の言葉に、反対の声は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、二月五日火曜日。二年E組の教室に登校した達也は、直後に七宝琢磨の訪問を受けた。

 

「七宝、どうした?」

 

「いや、司波先輩に……その、御礼をと」

 

 

 琢磨の態度に疑問を感じていた達也の視界に、七草の双子が入ってきた。またいがみ合うかとも思われたが、互いに干渉することなく達也に話しかけた。

 

「四葉殿が家を十師族の補充メンバーに推薦してくれたと聞きましたので……本当にありがとうございました」

 

「司波先輩、家の父親が多大なる迷惑を先輩に掛けていたそうで……本当に申し訳ありませんでした」

 

「司波先輩だけではなく、他の方々にも迷惑を掛けていたようですが、先輩が被害を最小限に抑えてくれたおかげで、我が七草家は十師族の地位を追われる事なく済んだようですので、私からも御礼申し上げます」

 

 

 後輩三人に頭を下げられ、さすがの達也も黙っているわけにもいかなかった。

 

「七宝、補充の件は俺は初耳だった。だから俺にお礼を言う必要は無い。香澄と泉美は七草家を代表して謝ってるつもりだろうが、お前たちに非は無いんだし、そもそもお前たちも被害者だ。本当に悪いと思っているのなら、親父さんに死に物狂いで誠意を見せるように言っておいてくれ」

 

 

 達也の返答に、三人の後輩は改めて頭を下げ、二年E組から自分たちの教室へと戻っていったのだった。




当主の名前が分からなかったので、七宝のままで

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