劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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このままのペースだと、原作に追いついてしまいそう……


北山家でのお茶会

 二月十日日曜日、時刻はもうすぐ午後三時。達也は深雪を連れて北山家を訪れていた。いや、正確に言えば、深雪が達也を連れて、かもしれない。

 今日は深雪が雫に誘われて、達也も一緒にどうかといわれ、深雪が達也の都合を確認して、今日のお茶会にやってきたのだ。

 はじめ深雪は「お茶会なら和服の方が良いかしら」と、正装で来ようとしたのだが、雫が「お茶会といっても、そんなに堅苦しいものじゃないよ」とツッコミを入れ、深雪の勘違いを正したのだった。

 

「いらっしゃい、待ってたよ」

 

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 

「堅苦しい挨拶は抜きで良いから。達也さんも、いらっしゃい」

 

「ああ、お邪魔します」

 

 

 深雪の固い挨拶に苦笑いを浮かべ、雫は達也にも挨拶をする。達也に視線を向けた時、若干頬が赤らんでいたように見えたのは、恐らく深雪の見間違いではなかっただろう。

 

「あがって。今日はほのかも来てるから」

 

「あら? 用事があるとかで来れなかったんじゃなかったの?」

 

「エイミィの何時ものパターンで、時間が空いたんだって」

 

 

 たまにある事で、エイミィは約束した当日に行けなくなったという電話をしてくることがある。今日もそうだったのだろうと、深雪はあっさりと納得して雫の案内について行くことにした。

 

「そう言えば達也さん」

 

「何だ?」

 

「この間、七草先輩と一緒に傘に入った?」

 

「良く知ってるな……七草先輩が傘を忘れたとかで、貸すと言ったんだが、一緒に入った方が二人とも濡れないからと言われてな」

 

 

 結局は濡れたんだけどな、という達也の言葉は、深雪と雫の耳に入っては来なかった。二人が認識したのは、真由美が達也と相合傘をしたと言う事だけで、そこに鈴音がいた事や、思っているほどの雰囲気ではなかったということは、今の二人の意識には入ってこなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫の部屋で、一人さきにお茶を飲んでいたほのかは、深雪と雫の様子がおかしいことに気付き、首を傾げて二人に問いかけた。

 

「何かあったの?」

 

「達也さんが……」

 

「達也さんがどうかしたの?」

 

 

 ほのかは、達也が雫たちに何かしたとは思っていない。だが、彼が原因で雫たちがこうなっているのだと言う事は、今の雫の一言で理解した。

 

「この間の雪の日、七草先輩と同じ傘に入ってたって……」

 

「つまり、相合傘ってこと!?」

 

「相合傘……一つの傘に二人で入る……自然と密着する身体……」

 

「み、深雪? なんか呪詛みたいのが口から出てるけど……」

 

 

 乙女が見せちゃいけないような表情で呪詛をまき散らす深雪に、思わずほのかが止めに入る。そんな三人を、達也はぼんやりと眺めていた。

 

「ん、達也さん、紅茶でいい?」

 

「別に構わないが……何故だ?」

 

「達也さんって、コーヒーのイメージが強いから。もし紅茶が駄目なら、コーヒーを用意させるつもりだったから確認」

 

「別にコーヒーしか飲んでないつもりは無いし、紅茶も好きだから大丈夫だ」

 

「分かった。お砂糖は?」

 

「いや、ストレートで構わない」

 

「ん」

 

 

 コクンと小さく頷いて、雫は内線で紅茶の用意をさせる。その隣では、漸く正気を取り戻した深雪と、少し疲れた様子が見受けられるほのかがアイコンタクトで達也の両隣へと腰を下ろす算段をしていた。

 

「深雪も紅茶で良いでしょ?」

 

「ええ、構わないわ」

 

「ところで雫、今日は何で呼ばれたの? まぁ、私は暇になったから遊びに来ただけだけど」

 

「うん。ちょっと達也さんに聞きたい事があったから……」

 

「俺に? さっきの話とは別だよな?」

 

 

 あんな些細な事で呼び出されたのではたまったものではないと、達也は確認の意味を込めて雫に問いかける。あれくらいの事、明日学校で確認すれば済む話なのだから。

 

「お父さんが気にしてたんだけど、魔法師に対するネガティブキャンペーンに、十師族はどう対応するのかなって思って。私とお母さんが魔法師だから、お父さん気にしちゃって」

 

「気にするのは当然だし、情報を持っているかもしれない知り合いがいるのだから、確かめさせようとするのは当然だろう。だが、俺はその期待に応えてやることが出来ない」

 

「どうして?」

 

「十師族の次期当主だからと言って、全てを伝えられているわけではないし、十師族が公にしていない情報を持っているとしても、それを雫たち十師族以外の魔法師に話してやることは出来ないんだ」

 

「なら、今すぐ十師族になればいいの?」

 

「……物騒な事を考えているところ悪いが、俺はまだ十七だ。いくら早婚を望まれる立場とはいえ、法律は無視できない」

 

 

 いろいろあったが、男子の結婚可能年齢は、十八からだ。いくら達也が十七歳に見えなくとも、こればかりは仕方ない事だった。

 

「残念……でも、達也さんは私をお嫁さんにしてもかまわないって事が分かったから、今はそれで満足」

 

「世間でも言われてる事だけで済まないが、十師族はネガティブキャンペーンに対して、後手に回るしかないんだ。マスコミ工作に長けている家がそれなとなく動いて、十師族に対する――いや、魔法師に対する偏見を払拭させることしか出来ない」

 

「じゃあ、大々的に魔法師が襲われそうになったら、十師族はどう動くの?」

 

「目に余るようなら、マスコミを使って世論を動かす事も可能だろう。だが、何処まで人間主義者が蝕んでるか分からないからな……」

 

「襲われそうな人たちを警護したりは?」

 

「注意を促す事はするだろうが、事前に相手を潰す事は出来ないだろうな。十師族とはいえ万能ではないんだ」

 

「ウチから警備会社にお願いしようか?」

 

 

 雫の申し出に、達也はゆっくりと首を横に振った。

 

「さっきも言ったが、相手がどう動くか分からない以上、こちらから動くのは危険だ。そのことを良いように解釈して、魔法師の立場を危うくするかもしれない」

 

「そう……分かった」

 

 

 しょんぼりとした雫の頭を軽く撫で、達也は雫が淹れてくれた紅茶を一口啜る。

 

「うん、美味しい」

 

「雫は紅茶を淹れるのも上手なのね。前に点ててくれたお茶も美味しかったけど」

 

「深雪は雫が点てたお茶を飲んだことがあるのか」

 

「ええ、お兄様。とってもおいしかったです」

 

「深雪の方が上手だったけどね」

 

 

 謙遜の中に照れが見え隠れしているのに、この場にいる三人は気づいたが、そっとしておくことにしたのだった。




また色々と脱線させなきゃダメだな……

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