劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この二人になら教えても問題ないでしょうしね


司波兄妹の過去

 深雪の達也に対する呼び方に、雫はちょっとした疑問を覚えた。

 

「深雪、何時まで達也さんを『お兄様』って呼ぶの?」

 

「つい癖でね……中学からそうやって呼んでいるから、どうしても気を抜くと出てしまうのよ」

 

「中学からなの?」

 

 

 雫が更に別の事に引っ掛かりを覚える。深雪はどうしたものかと達也の顔を見る。達也は、雫とほのかなら問題ないと判断し、深雪に頷いて答えた。

 

「雫にはちょっと話したことがあるかもしれないけど、私とお兄様の関係は非常に複雑なの。血が繋がってなかったって事以外にもいろいろあってね……私たちがちゃんとした兄妹という関係になったのは、中学一年の夏休み。沖縄でね」

 

「中一の夏休みの沖縄……それって、大亜連合の沖縄侵攻があった時じゃないの?」

 

「さすがに知っているわよね。そうよ、その時。私はあの時、本当は死んでいたはずなの」

 

 

 初めて聞かされるほのかは口を押さえて驚いたが、二度目の雫は静かに頷いて先を促す。達也は一切口を挿まずに雫の淹れた紅茶を飲む。

 

「お兄様と少し仲良くなっていた軍の人が、基地のシェルターに避難してはどうかって勧めてくれて、私たち家族はそこに避難したの。でもその基地が襲撃され、お兄様は外の様子を見に行くためにシェルターから出て行った。そこを襲われてね。私と、お母様と、お母様のお付きの人と三人、銃で撃たれたの。一発じゃなくてマシンガンだったから何発も」

 

 

 そこで深雪は言葉を止め、雫とほのかの様子を伺う。口を押さえているが、ほのかの目は先を知りたがっている。雫も、少し俯いてはいるが、拒否の仕草は見せなかった。

 深雪は一度息を吐き続きを話し始める。

 

「死んだと思った。ううん、死ぬんだって分かったの。それまで大して仲良くなかったけど、撃たれてから考えていたのはお兄様の事ばかり。お兄様に謝らなきゃ、こんな形で自由にしてあげる事しか出来なくて申し訳ないって思ったの。でも、私は死ななかった。ううん、お兄様に生まれ直させてもらったの」

 

 

 話を聞いていた二人が、同じように首を傾げる。二人は達也の生来の魔法の内「分解」は見たことがあったが「再成」は見たことが無い。だから、そのような魔法があるのかと首を傾げたのだろう。

 

「私だけじゃないわ。お母様も、お付きの方もお兄様によって生まれ直させていただいたの。二人は知ってるだろうし、そういう家の人間に婚約を申し込んでいるのだからはっきりと言うけど、お兄様は生まれてすぐに能力を封じられ、殆ど魔法を使う事が出来なかったの。そのせいで、四葉家にお兄様の居場所は無く、私の……ボディーガードという立場で四葉に居場所をつくった。四葉家の一員として認められず、使用人のように扱われていたお兄様が、当主の姉と、当時次期当主候補筆頭だった私を生まれ直させたの。その時、私は初めて『お兄様』という呼称を使ったわ。今までは『兄さん』とか『あの人』とか言ってたのだけど、どうしてもスムーズに言葉にすることが出来なかったのに、『お兄様』という呼称だけはスムーズに言葉にすることが出来たの。それからずっと『お兄様』と呼び続けてきたから、呼称をいきなり変えようと思っても、なかなかスムーズにいかないのよ」

 

「生まれ直させた? そんな魔法があるの?」

 

「達也さんの魔法で見たことあるのは、あの蝗の化成体を一瞬で消し去ったのくらいしか……」

 

 

 二人の視線が、深雪から達也へと移る。さすがに黙ってるわけにもいかないと判断して、達也は懐から二丁の拳銃型CADと、愛用しているボールペンを取り出した。

 

「角砂糖でも問題ないのだが、前に食べ物を使って実演したら深雪に怒られたからね。今日はボールペンで実演するとしよう」

 

 

 前に魔法の説明で角砂糖を使った時の事を覚えていたのか――忘れるはずもないが――達也はさすがに今日は食べ物を使う事は無かった。

 

「まず、雫たちが見た化成体を消し去った魔法だが」

 

「「えっ?」」

 

 

 達也が右手でCADの引き金を引いただけで、ボールペンは部品一つ一つに分解された。

 

「そして、深雪が話していた魔法と言うのが」

 

「「えぇ!?」」

 

 

 今度は左手でCADの引き金を引くと、ボールペンは何事もなかったかのように元通りになっている。

 

「えっと……モノをバラバラにする魔法と、モノを元通りにする魔法?」

 

「でもそれって、最高難度の魔法なんじゃ……」

 

「そうだな。俺が封印されなかった魔法は、ちょっと強大過ぎて封印出来なかったという表現が正しい。『分解』と『再成』が、俺の魔法演算領域の殆どを占めているから、他の魔法が簡単な封印で使えなくなったと言うわけだ」

 

「えっと……それで、生まれ直った深雪たちは、どうやって沖縄侵攻から逃げ出したの?」

 

「確かに……軍の基地にいたって事は、当然そこは狙われるよね?」

 

「お兄様が敵戦力を削ぎ落して行ったお陰で、敵戦力は壊滅、投降する事になったの」

 

 

 そこまで聞いて、雫は沖縄侵攻の結末を思い出した。

 

「あれって、最終的に敵艦が消滅したって聞いてるんだけど……それも達也さんの仕業?」

 

「これ以上は軍事機密だからな。四葉家の秘密とはわけが違う。話すわけにはいかない」

 

「それだけで十分。ありがとう」

 

 

 殆ど答えを言ったような感じだが、具体的な事は何も話していないし、雫もこれ以上深入りするつもりは無かった。

 

「それで達也さん、マスコミの動きはどうするの?」

 

「いきなりだな。まぁ、マスコミ工作は七草家が得意としている事だから、そっちが何とかするんじゃないか? 具体的には、国会議員で親魔法師派の上野議員でもたぶらかして、何か起こっても一方的な報道をさせないようにでも動くんじゃないか?」

 

「達也さん……やけに具体的過ぎる」

 

 

 達也が人の悪い笑みを浮かべているのを見て、雫は大きなため息を吐いたのだった。




ほぼほぼ嫁確定の二人ですし、分解は知ってますしね

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