劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やりにくいと感じるのは仕方ないだろう……


将輝の気持ち

 食事を終えた将輝は、深雪たちと共にA組に戻った。一ヶ月の間自分の席としてあてがわれたところに腰を下ろすと、クラスメイト男子――森崎たちが周りにやって来た。

 

「森崎? 何か用か?」

 

「随分となじむのが早いな、一条は。今日は司波さんたちと一緒だったんだろ?」

 

「ああ、光井さんに誘われてな。千葉さんたちを紹介したいって言われて」

 

 

 将輝とエリカたちは、京都で挨拶を済ませているのだが、ほのかはその事を知らなかったようなのだと将輝が説明すると、森崎は多少納得したようで食い気味だった口調を改めた。

 

「ところで森崎」

 

「何だ?」

 

「司波って――兄貴の方だが、何で魔工科にいるんだ? あれだけの魔法技術があり、戦闘技術も高いんだから、A組にいてもおかしくないと思うんだが」

 

 

 将輝の質問に、森崎たち一科生男子が揃って顔を顰めたので、将輝は首を傾げた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや……一条は一高の生徒じゃないから知らないのか」

 

「何がだ?」

 

「司波兄は二科生だったんだよ」

 

「二科生? 三高で言うところの普通科って事か? あの実力で?」

 

 

 一昨年の九校戦、達也に負けた経験がある将輝だからこその驚きだった。口調こそ冷静さを保ってはいるが、表情は驚きに満ちていた。

 

「四葉家の人間だったから、どんな意図があったのか分からないが、あいつは能力を制限されていたらしいが、それでも戦闘技術が高かったからな。噂程度で真相は分からないが、服部先輩に正式な試合で勝ったらしい」

 

「服部先輩って、三年生の実力者だよな? 九校戦でもかなり注目されていた人だろ? その人に勝ったのか?」

 

「噂でしかないし、確認しようにも誰が真実を知っているのか分からないし、服部先輩は口を割らないし」

 

 

 森崎の感じから、将輝はその噂を森崎は信じたくないのだろうと理解した。それくらい森崎は、達也に敵対意識を持っているのだろう。

 

「森崎と司波は、何か因縁でもあるのか?」

 

「いや、別に……」

 

 

 何かあるのだろうとは分かったが、これ以上話してはくれないだろうと感じ、それ以上は掘り下げなかった。

 

「てか一条、俺たちよりお前の方が司波と話しやすいんじゃないか? 同じ十師族の次期当主なんだし」

 

「いや、俺と司波はそれほど交流も無かったし、なんとなく話しにくいんだよ、あいつ」

 

 

 同級生のはずなのに、どうも年上の感じがする達也は、同級生の男子から話しかけられることが少ない。気にせず話しかけてくるのはレオと幹比古、十三束の三人くらいなのだ。

 

「話しにくいって感じるのは俺たちもだな。あいつ、妙に大人びてるというか俺たちを見下してるというか」

 

「見下してるわけではないと思うが、大人びてると感じるのは確かだな。同い年のはずなのに、こっちが年下のように感じてしまうのは分かる。十文字さんと同じ感じがするんだよ」

 

 

 同年代である克人も、かなり年上の感じがするのは森崎も同様であり、将輝の言っている意味が理解できた。だが克人と達也とでは、決定的な違いがある。それは、達也が同い年であることだ。

 

「とりあえず、後で司波に聞いてみるわ」

 

「そうしろ。俺たちに聞かれても分からないからな」

 

 

 そこで始業のチャイムが鳴り、森崎たちも席に着いた。将輝は別メニューだが、この教室にいる以上お喋りを続ける訳にもいかないので、課題を進めながら達也に対する敵意を強めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、E組に雫たちがやって来て、達也は用事があるから今日は生徒会室には顔出さないと告げた。

 

「達也さん、そんなに忙しいの?」

 

「早いところテロの首謀者を捕まえないと、魔法師の立場がますます危うくなるからな」

 

「悪いのはテロリストなのに、魔法師が悪いように報道されてるからね」

 

「反魔法師集団がマスコミにも入り込んでるんだろう。まぁ、学校の周りは風紀委員が見張ってるから、個人として気を付けなければいけないのは駅までの道と最寄り駅から家までの道だから、そこだけは気を抜かないようにな」

 

 

 しょんぼりする雫の頭に手を置き、気にするなと言わんばかりに優しい笑みを浮かべる。

 

「深雪やほのかも生徒会室に行くんだろ? そこまでは送っていくよ」

 

 

 雫に優しくした事で、深雪とほのかがムッとしたが、自分たちの事も気に掛けてくれたことで、二人の機嫌は一気に回復した。

 

「お兄様――達也さん、今日も夜遅いんですか?」

 

「そうだな……時間はかかるかもしれないが、そこまで遅くなることは無いかな」

 

「そうですか。では、お夕食の用意はいつも通りでよろしいですか?」

 

「そうだな。もし遅くなりそうなら電話するさ」

 

 

 上目遣いで見つめる深雪の頭に手を置き、雫と同じように撫でると、深雪は満足したように微笑んだ。

 

「達也さん、一条さんと一緒に捜索するんですか?」

 

「いや、一条は一条で動くだろうし、どうも一条は俺に敵対心を抱いてるようだしな。一緒に行動しても捜索の効率が落ちるだけだ」

 

 

 達也は将輝に対して特別な感情は抱いていないが、将輝が自分に敵対心を抱いている事には気づいている。だからあえて一緒に行動する意味はないと思っている。

 

「一条さんが達也さんに敵対心を抱いているのは、達也さんが一条さんに勝ったことがあるからだと思いますよ」

 

「あれは別に真剣勝負ってわけじゃないんだけどな……それに、本気で戦ったら、一条の方が強いと思うが」

 

「そんなことありませんよ! 真剣勝負だって、達也さんが勝つと思いますよ」

 

 

 まるで自分の事のように真剣に考えているほのかに、達也は苦笑いを浮かべながら感謝の言葉を伝えたのだった。




しょんぼりしてる雫、可愛い

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