劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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報告じゃなかったかもですが……


風間に報告

 深雪たちを学校に残して自宅に戻った達也は、愛用の自動二輪に跨って土浦に向かった。目的地は言うまでも無く国防陸軍第一○一旅団基地、独立魔装大隊の大隊指令室だ。達也の格好は人工皮革に似た素材のパンツにたっぷりしたサイズのブルゾンというラフなものだったが、基地のゲートは服装よりもIDカードが物を言う。達也はヘルメットを取っただけで問題なく、基地に入場した。

 約束の時間まで、まだ五分以上残っていたが、達也は問題なく通され、建物の中で誰にもすれ違わずに隊長室までたどり着いた。

 

「大黒特尉であります」

 

「入れ」

 

 

 ドアをノックしながら部屋の中に向かって話しかける。本当はドア越しの声が直接聞こえているのではなく、扉に仕込まれたマイクが拾った音声を自動的に選別して室内に伝えているのだ。返された声も、扉に仕込まれたスピーカーが再現したものだ。

 ロックが外れる音を確認して、達也は隊長室のドアを開けた。風間はデスクの奥に座っており、今日は一人だ。デスクの上にはタッチスクリーン端末が広げられている。達也が訪れるまで企画書か報告書を見ていたようだ。階級が上がって決済業務が増えたのかもしれない。

 

「特尉、楽にしてくれ。それで、今日はいきなり何の用だ?」

 

「通信を傍受されているおそれがある為、直接お目に掛かってご報告すべきと考えました」

 

「ほう……我が大隊の暗号通信も解読されるおそれがあると?」

 

「肯定であります。現に四葉家の暗号通信は傍受・解読されている可能性が高いと警告を受けました」

 

 

 達也がいきなり持ち札を一枚オープンにして見せる。すると風間の眉が僅かに持ち上がった。

 

「……我々が使っている暗号は、四葉家のものより高強度だと思うが」

 

「自分もそう思います。しかしそれでも、用心すべきだと考えました」

 

「……まあいい。特尉、用件を聞かせてくれ」

 

「座間基地の特戦兵訓練所が敵性外国人の浸食を受けている可能性があります」

 

 

 特戦兵訓練所――特殊戦術兵訓練所の「特殊戦術兵」とは魔法力強化を含めた後天的強化措置を受けた兵を指す隠語だ。訓練所と名付けられているが、その実態は人体実験の被験者を軟禁する軍の施設の一つだ。国防軍はこのような被験体を様々な名称の施設に閉じ込めている。

 

「……何があった?」

 

「前の土曜日未明、箱根テロの首謀者追跡中、『燃焼』への干渉に特化した魔法師と交戦しました。彼らは座間で基地内待機になっているはずの強化兵でした」

 

 

 座間基地の特戦兵訓練所には戦闘面で特に有用と考えられていた「発火」や「爆発」に関わるサイキック寄りの強化魔法師が収容されている。土曜日に鎌倉で達也が仕留めた三人は、あの後吉見が持ち帰って調査した結果、座間特戦兵訓練所の魔法師を「ジェネレーター」化したものと判明した。

 

「座間基地にテロリストの手が伸びていると言うのか」

 

「肯定であります」

 

 

 風間が唸り声を漏らしながら腕を組み顔を顰めた。宇治の基地に周公瑾が潜伏したのも深刻な不祥事だったが、座間基地の場合は地理的にも重要度的にもさらに深刻だ。首都・東京の目と鼻の先。人体実験の事実を世間から隠蔽するための施設。重火器に匹敵する戦闘員を閉じ込めておく快適な檻。

 

「この話は?」

 

「全て四葉家内部に留めております」

 

 

 つまり十師族の間にも漏らしていないという意味だ。心なしか、風間の表情が緩んだように見える。とはいえまだ険しく眉を寄せ、腕組みをしたままだ。

 

「特尉は、座間基地を襲撃するつもりか」

 

「いいえ、中佐殿。周公瑾が宇治基地に匿われていたように、顧傑が座間基地に潜んでいるとは考えていません」

 

「顧傑というのが黒幕の名前か」

 

 

 風間は記憶に焼き付けるようにその名を呟き、腕組みを解いて達也の顔を見上げた。

 

「しかし、座間基地の実験体が顧傑とやらの手駒になっていたのだろう?」

 

「それは間違いありません。ですが、特戦兵訓練所の強化魔法師が『ジェネレーター』の素体として使用されたからといって、その内部に顧傑が入り込んだと推定するのは早計です」

 

「座間基地に顧傑の協力者がいて、その者が被験者を基地の外へ連れ出していると貴官は考えているのか?」

 

「肯定であります」

 

 

 風間が腕を組んで考え込み始めたのを見て、達也は二枚目のカードを切った。

 

「実を申しますと、顧傑の隠れ家は分かっているのです。ただその場所が、座間基地のすぐ隣でして」

 

「……基地を巻き込んだ戦闘になることを懸念しているのか?」

 

「その可能性は低くありません。殊に特戦兵訓練所をはじめとする収容施設に軟禁された強化兵は十師族に強い敵意をいだいていますから、けしかける者がいれば処分される事を覚悟で立ち向かってくるでしょう」

 

 

 風間は達也の予測を否定できなかった。強化実験の被験体を収容する施設は彼らを外に出さない事を目的に造られている。その性質を考えれば、容易に脱走を許すはずがない。だが事実として、毎年のように脱走事件が発生し、その都度処理に十師族の手を借りていた。

 座間基地の近くで非合法の戦闘が発生し、それが十師族・四葉家によるものだと基地司令部が知ったなら、その処分を四葉家に押し付けようと基地司令部が実験体をわざと逃亡させる、というのも十分あり得る話だった。

 

「座間基地に不介入を約束させるとなると、旅団長のお力添えが必要になる」

 

「それでは間に合いません。顧傑に逃げられてしまいます」

 

「……後始末が特尉の望みか?」

 

「国防軍との戦闘は可能な限り避けるつもりです。しかし、偶発的な戦闘がどうしても避けられなかった場合、一切の痕跡を消すつもりです」

 

 

 達也は、友軍に向けて機密指定を受けている「雲散霧消」を使うと言っているのだった。

 

「やむを得ないだろう」

 

 

 風間は苦い顔で、それでも言い淀むことなく完全な雲散霧消の使用を達也に許可したのだった。




一応伝えておかないと、後々面倒ですしね
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