劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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命短し恋せよ乙女……って、何だっけ?


眠れない少女たち

 明日の事を考えて、リーナは眠れない夜を過ごしていた。叶わないと思っていた達也との婚約、それが現実味をおびてきたからこそ、考えなければならない事が山積みなのだ。

 まず初めは自分の立場。戦略級魔法師にしてUSNA軍スターズの総隊長。これだけの肩書を持つ自分が、簡単に日本の十師族に嫁ぐ事が出来るのかという問題だ。

 今だって裏では達也が戦略級魔法「グレート・ボム」を使った魔法師なのではないかと探りを入れる名目で日本に来ているのであって、彼女の立場を考えれば国外に出る事すら難しいのだ。そんな自分が日本の十師族に嫁ぐなど、普通ではありえない事だ。

 次に問題になるのは、まだ自分が候補でしかないという点である。他の候補もまだ確定はしてないが、深雪とほのかたちはほぼ当確と言われている。滑り込みで申し込んだ自分が、篩い落とされる可能性を考えると、リーナは胸が締め付けられる思いになっているのだ。

 

「だからじゃないけど、明日はしっかりとワタシの気持ちをタツヤに伝えないと」

 

 

 リーナはまだ、達也に好きだという気持ちをはっきりと伝えてはいない。昨年のバレンタインはミアと一緒に、なんとなく義理チョコを渡したのだが、今年はそう言う訳にはいかない。アンジー・シリウスになった時点で、自分は恋愛など関係なくなったと思い込んでいたリーナの心の中に芽生えた感情。これはいくら戦略級魔法師であろうと、スターズ総隊長であろうと抗えない乙女な部分。女子高生として当然の権利である、誰かを好きになるという気持ちだ。

 交換留学生という名目で日本に入国し、日本の戦略級魔法師を探す為に奔走したが、結局はその対象に自分の事を見抜かれ、ましてや自分が悩んでいたことに対して――

 

『もしかしたら力になれるかもしれない』

 

 

――などと言ってくれたのだ。リーナの鋼の心――だとリーナ自身は思っている――が揺らいでしまっても仕方ないくらいかっこよかったのだ。

 

「ミユキがいるから諦めていたけど、タツヤが四葉のプリンスだと言う事と、タツヤの魔法力が戦略級魔法師並みに高い事から、重婚が認められるなんてね」

 

 

 もうリーナにとって、達也が戦略級魔法師であろうが無かろうが関係なくなってきている。自分が探りを入れたところで、達也の心の裡を知ることは出来ないし、それよりも自分の秘密を公にされるかもしれないという懸念の方が大きいのだ。

 

「USNA軍とタツヤたちが戦ったらしいけど、そんな事でワタシの評価が悪くなったりしないわよね……」

 

 

 昨日の夜、座間基地で四葉の魔法師とUSNA軍が衝突したと報告を受け、リーナは友軍の心配ではなくそっちを気にしたのだった。

 

「ベンが仕掛けたんでしょうけども、性格の悪さでタツヤには勝てなかったみたいね」

 

 

 完全に不意打ちを決めたはずなのに、結果はUSNA軍の負け。一人の大柄なフルフェイスのヘルメットを被った魔法師にしてやられたとか。

 

「その特徴からして、USNA軍を一人で撃退したのがタツヤだって分かるわよね……」

 

 

 結局達也が何を得意としてる魔法師なのか、リーナは知らない。だが彼が自分にも負けない――むしろ自分より戦闘を得意にしている事は知っている。

 

「こんな事を考えていてもしょうがないわよね……」

 

 

 今考えなければいけない事は、明日どうやって自然に達也と会うか、その一点だと思い出し、リーナは再び頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーナが眠れない夜を過ごしているのと、時を同じくして七草家。ここでも頭を悩ませている少女がいた。本日もミーティングで顔を合わせたのだが、日に日に達也の事を直視出来なくなってきている自分に気が付き、真由美は困り果てていた。

 

「最初は冗談のつもりだったのに、やっぱり達也くんとの出会いは運命だったのかな……」

 

 

 初対面からそう日が経っていなかった頃、達也を――と言うか深雪をからかう為に使った冗談だったはずなのだが、何時しか達也との出会いは本当に運命だったのではないだろうかと真由美は考え始めていた。

 その冗談が彼女の中で冗談ではなかったのではないかと思いだしたのは、一昨年の夏、九校戦の時だった。あの時も冗談で弟みたいだと言ったのだが、その冗談はすぐに彼女の中で消え去り、数日後には弟として思えなくなっていた。

 

「達也くんになら、何でも相談できるって思ってたのよね……」

 

 

 頼りになる後輩、簡単に人に話さないと信頼が出来る、など今思えば別の理由を探し出せるのだが、あの時は達也に相談したい、達也しかいないと思い込んでいたのだ。

 

「十文字くんとは、違った頼り甲斐を感じるのよね……」

 

 

 克人は同い年で、あの時から十文字家の次期当主という肩書を持っており、社会的地位も確立していた。達也と克人、あの時点でどちらが頼りになるかと考えれば、間違いなく克人だろうと真由美も思っていた。だが相談したのは克人ではなく達也。七草の恥となる事ではなかったにも関わらず、真由美は同じ十師族の克人ではなく、当時は二科生でしかなかった達也を選んだのだった。

 

「もしかしてあの時から……」

 

 

 真由美は、自分が何時達也に恋したのか、それがあやふやなのが気持ち悪いと感じており、何時恋に落ちたのかを考えると、やはり初対面のあの時からだったのではないかという結論に至ったのだ。

 

「運命なんて信じてなかったけど、もしそうなら運命的よね……」

 

 

 十師族の一員として生まれ、自由恋愛など自分には関係ないものだと割り切っていた自分が、恋した相手と結婚出来るかもしれない。しかも出会った時から恋していたかもしれないと考えると、やはり自分と達也の出会いは運命だったのだろうと、真由美は興奮して眠れない夜を過ごしていた。

 

「そう言えば明日もミーティングがあるのよね……達也くんの事だから、私から貰っても特別な反応はしないだろうけども……渡さないと後れを取るかもしれないもんね」

 

 

 競争率の高さを再認識し、真由美は綺麗にラッピングしたチョコを思い出し、少しでも自分に意識を向けてもらおうと心に誓ったのだった。




何かのアニメだった気がするんですけどね……まぁいいや

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