劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作でもだが、名のあるキャラから貰ってない気がする……


将輝のバレンタイン

 二月十四日、朝。将輝は昇降口付近で妙に辺りがざわついているのに気づいた。

 

「何かあるのか?」

 

「何だ一条。今日が何日か忘れたのか?」

 

「森崎……何日って、二月の十四日……あぁ、バレンタインか」

 

 

 森崎に言われ、将輝は漸く今日がバレンタインデーであることに気が付いた。普段からモテる将輝は、特に意識しなくてもチョコを貰っていたので、他の男子みたくそわそわとする必要が無いのだ。だが、バレンタインデーと気づいた将輝は、他の男子よろしく辺りを見渡し、急に挙動不審になり森崎にツッコまれた。

 

「意識したらお前もそうなるのか」

 

「三高にいたままなら、恐らくこんなに意識しなかったと思うがな」

 

「司波さんだろ? お前の視線は結構分かりやすいからな……でも、義理チョコでも期待しない方が良いぞ。去年だって司波さんは誰にもあげてないんだからな」

 

「誰にもって、司波にもか?」

 

 

 将輝の問いかけに、森崎は首を左右に振った。

 

「家で渡したのなら、俺たちに確認しようがないし、あいつはもらったことを自慢するようなタイプじゃないから」

 

「確かに……」

 

 

 まだそれほど達也の事を知らない将輝でも、彼が深雪からチョコを貰って喜んでいるような光景は思い浮かべる事が出来なかった。

 

「それにアイツは、去年も光井や北山、明智や里見、後は七草先輩たちからチョコを貰ってたし、ただ一つのチョコってわけじゃなかっただろうし」

 

「四葉の縁者だと分かる前から、そんなにモテてたのか?」

 

「三高にだって、アイツのファンは多いはずだろ? 一色のご令嬢やそのグループに属している百家のご令嬢たちだって、お前たちじゃなくアイツらを応援してたはずだし」

 

「そうだったな」

 

 

 愛梨たちの事を思い出し、将輝は苦笑いを浮かべながら森崎と共に教室へ向かう。その途中、クラスメイトの女子たちが将輝に近寄って来て、森崎は空気を読んで少し離れた。

 

「一条君、これ。受け取ってください!」

 

「私からも」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 去年のバレンタインでも、朝からチョコを貰った記憶が無い将輝は、一高の女子は積極的なのだなと解釈し、少しぎこちないお礼を言いながらチョコを鞄にしまった。

 

「凄い人気だな。さすがプリンス」

 

「その仇名は止めてくれ」

 

「嫌いなのか? 『クリムゾン・プリンス』という名は、世界中に知られているだろ」

 

「プリンスとだけ呼ばれるのは嫌いなんだよ。なんだか馬鹿にされてる感じがして」

 

 

 主に達也に言われるのが嫌な将輝は、なるべくプリンスと呼ばれないように周りにそう言った理由を告げて止めてもらっているのだ。

 

「てっきり気に入ってるものだと思ってたが」

 

「……一年の九校戦までは、その呼び名も嫌いじゃなかったんだがな」

 

「何かあったのか?」

 

 

 森崎自身も、一年の時の九校戦には苦い思い出があるので、将輝にも似たような思い出がありそうだと気づき、少し食い気味に将輝に迫った。

 

「新人戦で一高が上位を独占した競技があっただろ?」

 

「ああ。スピード・シューティングとアイス・ピラーズ・ブレイク、後はミラージ・バットか」

 

「その競技を担当したエンジニアを調べ、俺とジョージはそいつの顔を見に一高の控室付近まで足を運んだんだ。その時、アイツと司波さんに出会ったんだ」

 

「それで?」

 

「挨拶を交わした後、アイツは司波さんを先に控室に向かわせたんだ。その時、ちょっと司波さんに視線を向けたのをアイツに見られてな。馬鹿にしたように『プリンス、お前も次の試合があるんじゃないか』とか、そんなニュアンスの事を言われたんだ」

 

「アイツが言いそうなことだな」

 

 

 敵情視察に来て、敵に見とれた自分にも問題があったと後々将輝も反省したが、それ以上に達也の馬鹿にしたのを隠そうともしない口調に将輝は腹が立ったのだ。それ以降、プリンスと呼ばれるとあの日の達也の馬鹿にした感じが思い出されてしまうので、将輝はなるべくその仇名で呼ばれたくないと周りに言い出したのだ。

 

「とにかく、その仇名はなるべくなら使わないでくれ」

 

「分かった。男子には言っておく」

 

「すまない。ところで、森崎も一年の時の九校戦には、苦い思い出があるんだってな?」

 

「あ、あぁ……アイツに敵対心を抱いてたから、アイツにエンジニアを担当されるなんて死んでも御免だと突っぱねて女子の担当にさせたんだが、その結果がさっき一条が言っていた上位独占に繋がったんだ。それに対抗しようと男子も気合いを入れたんだが、どうにも空回ってしまってな。せめてモノリス・コードだけでもと意気込んだんだが、四高の破城槌を受けてそのまま病院行き。しかもその代役が何の因果かアイツで、結局一条を真正面から倒すとかいう、女子が騒ぎ出すお膳立てをしたようなものだからな」

 

「アイツが四葉の関係者だと、あの時に知っていれば、油断などしなかったんだが……」

 

 

 将輝が達也に負けたのは、油断していたからではない。むしろ警戒していたといえるくらい、達也の事を気にしていた。将輝が達也に負けた原因は、過剰攻撃をしたと後悔して、達也から視線を逸らしてしまったからなのだが、将輝は達也の特異魔法を知らないので、あの行動は仕方なかっただろう。

 

「てか、アイツやけに頑丈だったよな? 硬化魔法でもかけてたのか?」

 

「さぁな。西城が硬化魔法を得意としてるから、もしかしたらかけていたのかもしれないが、少なくとも一科生の男子はその真相は知らない」

 

「司波さんなら、何か知ってるんだろうな」

 

「知ってても教えてくれないと思うぞ。当時あれだけ騒がれていたのに、結局は誰も真相を知らないんだから」

 

 

 そんな会話をしながら教室に足を踏み入れると、あっという間に五人からチョコを渡され、将輝は困惑気味に受け取ったのだった。




イケメンキャラは、名のあるキャラから貰えないのが決まりなのだろうか……

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