劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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タイトルだけだとホラーだな……


増え続けるチョコ

 午後の授業は座学だったので、将輝は端末に向かい上の空で課題を進めていた。師族会議で断られると思っていた深雪との交際を「振り向かせることが出来るのなら」と四葉家当主から認められ、しかもテロ首謀者捜索の為、一ヶ月とはいえ深雪と同じ学校に通う事が出来る事になったのだ。

 将輝は決してうぬぼれているわけではないが、自分はそれなりにイケていると思っていた。見た目だけではなく、家柄、魔法力など、同年代の男子と比べれば、自分の方が女子に人気が出ると。

 それは確かに間違ってはいないし、実際に何人かは将輝と数日過ごしただけで意識してしまう程だ。だが彼は、その他大勢にモテたいのではなく、ただ一人に認めてもらいたいだけだったのだ。

 同じ教室で過ごすだけでも十分だと思っていた初日から考えると、随分と多くを望んでしまっていると、将輝自身も理解しているが、それでも深雪と一緒に駅までの道のりを歩いたり、そのままどこかに遊びに行ったりと言う事を妄想してしまう自分が、そこに確かに存在しているのだった。

 

「(何時からこんな妄想癖がついたんだろうな……)」

 

 

 終業のベルが鳴り、将輝は自分の端末に映し出されている、ほぼ白紙の課題を見てため息を吐いた。この程度ならすぐに終わるので、今日中には提出する事は出来る。その油断が妄想に繋がったと反省し、放課後に少し居残って課題を終わらせようと決意したのだった。

 

「あの、一条君」

 

「ん?」

 

「これ、受け取ってください!」

 

 

 恐らくこのクラスの女子であろう子が、将輝にチョコを差し出す。無下に扱うのも気が引けた将輝は、その子のチョコを丁寧に受け取り、憂いの表情を浮かべた。その表情が、またその他大勢の心を奪うのだが、将輝はその事に気付かないし、その事を指摘してくれる真紅郎も、この場にはいなかった。

 

「深雪、そろそろ生徒会室に行かないと。今日は色々と大変だと思うよ?」

 

「そうね。何せ私以外は少し遅れるって連絡が来てるもの」

 

「えへへ……」

 

 

 ほのかと深雪の会話を聞きながら、将輝は終わらなかった課題に意識を向け、二十分で終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も顧傑捜索の為に、生徒会室には寄らずに帰ろうとした達也だったが、教室を一歩出た途端囲まれてしまった。

 

「水波、これはどういうことだ?」

 

「申し訳ございません、達也様。私を含むここにいる全員、達也様にチョコを渡したい一心でやってまいりました」

 

「……誰かを代表にして、まとめて持ってくるという案は無かったのか」

 

「一人一人が気持ちを込めています故、代表を立てるという案は却下されました」

 

 

 去年の新人戦女子のようにはいかなかったようで、今年は一個一個を丁寧に受け取る事になってしまったようだと、達也は常人には分からない程度に顔を顰め、一個一個を大切に受け取った。

 

「達也様、これをお使いくださいませ」

 

 

 水波から渡された手提げ袋に、受け取ったチョコを入れていったが、既に二十は下らない数のチョコを受け取った為、その手提げは満杯となってしまったのだった。

 

「水波、この後用事があるから、これは代わりに持って帰ってくれないか?」

 

「畏まりました。が、まだ二年生や三年生の分がお有りでしょうから、受け取り次第私の許へ持ってこられるのですか?」

 

「……自分で持って帰ろう」

 

 

 水波に持っていく手間を省く為に、達也は一年生から受け取ったチョコを入れた手提げを持ちながら、昇降口へと向かった。

 

「来た来た。おーい、達也くーん」

 

「エリカ? それにほのかや雫も……待ち伏せとは趣味が悪いな」

 

「だって、教室前は一年生でごった返してたからね。じゃあ二年は昇降口で渡そうって事になったのよ」

 

 

 そう言ってまず、エリカが達也にチョコを渡す。去年は騒がしくなるからという理由で参加しなかったエリカだが、今年は自分の立場を理解してかしっかりと手作りだった。

 

「じゃあボクからも」

 

「私もー! ちゃんと作ったんだよー」

 

「達也さん、受け取ってください」

 

「私からも。この袋も一緒にあげる」

 

 

 スバル、エイミィ、ほのか、雫と次々にチョコを渡してくるので、達也は一歩引きながらチョコを受け取る。その後も、九校戦で担当した二年生や、千秋からのチョコを受け取り、雫から貰った袋も満杯となってしまったのだった。

 

「随分と大量だな、司波」

 

「そっちこそ、大分貰ってるようじゃないか、一条」

 

 

 校門へと向かう途中、達也と同じように手提げ一杯のチョコ――こちらは一袋だが――を持った将輝と鉢合わせし、互いに嫌味のように言い合う。将輝の方は結構本気で嫌味を込めての言葉なのだが、達也の方は割かしどうでも良い感じのニュアンスだった。

 このまま家に帰れれば二人ともまだ楽が出来たのだが、校門には待ち構えている三年生、こちらは将輝が目当てのようだ。それともう一つの集団、こっちは達也が目当てのようだが。

 

「一色? それに十七夜に四十九院に九十九崎まで……」

 

「あら一条? いたのね」

 

「こちらでも変わらぬ人気、さすが一条の跡取りと言う事かの」

 

「何でお前たちが東京にいるんだよ」

 

 

 今日は平日で、三高でも授業が行われていたはずだ。だから先ほど授業を受け終えた愛梨たちがこの場にいるのは、将輝でなくても声を荒げてしまうかもしれない状況だった。

 

「決まってますでしょ。休んだんですわ」

 

「はぁ!? 良くご当主様が許したな」

 

「愛する人に気持ちを伝える為だと力説しましたのよ。貴方のように、ただなんとなく一緒にいれば恋仲になれるなんてうぬぼれは、私たちにはありませんもの」

 

 

 痛いところを突かれ、将輝は一歩下がった。そこを待っていたかのように一高の三年生たちが囲み、将輝はもみくちゃにされたのだった。

 

「お久しぶりですね、達也様」

 

「そうだな。久しぶりだ、愛梨。栞に沓子、香蓮も」

 

 

 挨拶を交わし、愛梨たちは達也にチョコを手渡す。用件はこれだけと言って、愛梨たちは石川へと帰っていったのだった。




ちょっと強引でしたが、愛梨たちを出せました

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