劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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念の為に言っておきますと、オリキャラは女子の予定です


九校戦の説明

 風紀委員会本部に連れて来られた達也は、委員長引継ぎの為の資料を作らされていた。

 

「すまないな。君が居なければ我々はまた同じ轍を踏むところだった」

 

「苦手なのは仕方ないですが、丸投げは止めてほしいですね」

 

「いや~、それにしても君が居てくれて助かった」

 

「……何だか自分がお人よしな感じがしてきましたよ」

 

 

 達也が自分で言ったように、風紀委員の事務作業と、今回の引継ぎの為の資料作成は全て達也に丸投げされている。悪い人と自称している達也も、さすがに今回は人が良すぎると感じていたのだった。

 

「あたしだって遊んでる訳じゃないんだ。九校戦の準備とかで忙しくてな」

 

「何時からでしたっけ?」

 

「八月の三日から十二日までの十日間だ」

 

「結構長丁場ですね」

 

 

 過去に観戦に行った事もテレビ中継も見た事のない達也は、率直な感想を言ったのだが、摩利はその感想に首を捻った。

 

「妹の方は私たちが参加してる競技を見た事あるようだったが、達也君は来て無かったのか?」

 

「毎年夏休みは野暮用で埋まってましたから」

 

「そうか、君たち兄妹は何時も一緒なのかと思ってたが、別行動を取る事もあるんだな」

 

「……そもそも学校では殆どが別行動なのですが」

 

「そう言えばそうだな」

 

 

 妙に納得したように頷く摩利を見て、達也は呆れたようにため息を吐いた。

 

「ならば九校戦の準備と言われてもあまりピンとこないんじゃないか?」

 

「そうですね。自分が参加する訳でも無いですし、あまり詳しくは知らないですね」

 

「それじゃあ資料があるんだが、後で見るかい?」

 

「お願いします」

 

 

 達也はきりが良い場所まで作業を進め、摩利から九校戦のパンフレットを受け取る。

 

「今時紙の資料ですか」

 

「九校戦絡みでは珍しくないぞ。仮想型端末は魔法力を損なう考え方は根強いからな」

 

「なるほど。ですから九校戦絡みのものは端末自体使う必要の無い紙媒体な訳ですね」

 

 

 達也が納得してるの見て、摩利は少し不思議に思った。

 

「おや、達也君は仮想型端末容認派なのかい?」

 

 

 摩利としては、達也がスクリーン型端末を使っているのを知っているので、達也も仮想型端末の使用には反対しているものだと思い込んでいた。だから達也が容認するような発言をしたのがもの凄い不思議だったのだ。

 

「仮想型端末が未熟な魔法師に悪影響を及ぼす、この主張は根拠の無い言いがかりではありません。特に十代の能力が発展途上の魔法師は仮想型の使用は避けるべきだと俺も思ってますよ。ですが既に能力の固まった成人の魔法師にまで使用を禁止する理由は無いと思ってます」

 

 

 あっという間にパンフレットを見終えた達也が、再び作業をしながらも、自分の考えを摩利に伝えた。

 

「確かにそれも一つの考え方だな。子供に有害だからと言って、大人にまで利便性を放棄しろと言うのは、確かに行き過ぎかもしれんな」

 

 

 暫く摩利が考え込んでるのを、達也は作業をしながら感じていた。ただ達也は自分が打ち込んでいるディスプレイを眺めているので、摩利がどの様な表情をしてるのかまでは把握してなかった。

 

「話が逸れたな」

 

 

 考えが纏まったのか、摩利が話を再開した。達也としてはこのまま無言のままでも一向に構わなかったのだが、学園内だけとは言え上司が話しかけてきているのだから相手をしない訳には行かない。

 

「達也君は九校戦の競技をまったく知らないのかい?」

 

「モノリス・コードとミラージ・バットくらいは知ってます」

 

「あの二つは有名だからな……九校戦はスポーツ系魔法競技の中でも、魔法力の比重が高い種目で競われる。選手は本戦、新人戦共に男女各十名ずつ、計四十名になる。新人戦は一年のみで、本戦は制限無し。とは言っても、一人の選手が出場出来るのは二競技までと決められているので、一年生が本戦に参加する事はまず無いと思ってくれて構わない。それが無くとも一年生では二年、三年が参加する本戦では結果を出せないだろうからな」

 

 

 その理由は達也も知ってるように、一年では本格的に魔法の授業を受けている二年、三年とは魔法力的にも差が歴然と現れてしまうからだ。

 

「去年までは新人戦は男女の区別は無かったのだが、今年から本戦と同じく男女を分けるようになったそうだ。だから今年は女子も掛け持ちしてもらう事になるだろうな」

 

「モノリス・コードは男子のみで、ミラージ・バットが女子のみなんですよね?」

 

「そうだ、打撃攻撃が禁止されてるとは言え、直接戦闘が想定されてる競技だから、男子のみと言うのも分かるのだがな……」

 

 

 摩利の顔に「面白くない」と書いてあるのに気付いた達也は、摩利が好戦的だったのを思い出した。

 

「そう言えば今年はウチの三連覇がかかってるんでしたっけ?」

 

 

 これ以上競技の話題を続ければ面倒な事になると思った達也は、話題を九校戦全体に戻した。

 

「あたしたち三年生は、今年勝ってこそ本当の勝利だと思っている」

 

「順当に行けば当校の勝利は確実だと聞いていますが」

 

「まぁな。新人戦で大きく転けなければ本戦のポイントで勝てるだろうな。唯一不安があるといえば、エンジニアの方だな」

 

「エンジニア? 競技用CADの調整要員の事ですか?」

 

「そうだ。いくら選手個人の能力が高くとも、エンジニアの腕が大した事無かったら実力は発揮できない。ハードの制限がある以上ソフト面でいかに他校との差を測るかがエンジニア…九校戦用語では技術スタッフと言うのだが、その腕の見せ所となるんだよ。今年の三年生は技術スタッフが不足気味でね。真由美や十文字は自分のCADの面倒は見れるんだがな……」

 

 

 如何やら摩利は自分のCADの調整も出来ないらしいと理解した達也は、これ以上余計無い事は言わないでおこうと決めた。さっき雫たちが冗談で言っていた分には如何とでもなったが、摩利や真由美が自分の事を技術スタッフにすると言い出したら断るのに相当な労力と時間を要するからだ。会話が途切れたのを良い事に、達也は引継ぎの為の資料作りに没頭する事にした。

 

「誰か良い人でも居れば良いんだがなぁ……」

 

 

 摩利のつぶやきに、如何反応して良いものか迷った達也は、結局聞こえなかったフリをして、頼まれていた引継ぎの為の資料を完成させて風紀委員会本部から逃げ出すように去っていった。




三高の視点で一話やりたいと思ってますが、難しいかな……

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