劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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直接対決ではないですけどね……


神田議員VS上野議員

 達也たちとのミーティングを終えた真由美は、家に帰りザッピングをしている父の姿を見つけ足を止めた。どこのテレビ局でも、魔法大学に反魔法師団体が押し入ろうとしたニュースを取り上げており、殆どの局では、警察の魔法使用は行き過ぎであり、被害者はむしろ反魔法師団体の方であると報じていた。

 アナログ放送時代からの伝統を持つ某チャンネルでは、魔法師批判で有名な野党の神田議員が警察の対応を激しく非難していた。

 

『……デモ隊にも多少行き過ぎの面はありましたが、手当たり次第に逮捕するというのは明らかに警察のやり過ぎです。警察官は楯とヘルメット、ボディアーマーまで着用しての完全防備でしたので、現にデモ隊と対峙した警察官には、一人も負傷者が出ていないのです。警察官の魔法行使は、銃の使用以上に慎重であることが求められるべきだと考えます。私はあらゆる局面における魔法の行使に対して、より強い制限と罰則を設ける法案を国会に提出するつもりです。魔法の使用に際して、魔法師ではない上位責任者による事前の承認を義務づけるべきなのです』

 

 

 その一方で、ケーブルテレビとネット配信を中心に存在感を高めてきたカルチャー・コミュニケーション・ネットワーク、通称カル・ネットのケーブル局では、魔法師の権利を説く与党の上野議員が、落ち着いた口調でキャスターの質問に答えていた。

 

『そもそも魔法大学は日ごろから部外者の出入りを厳しく制限しています。これは国からの委託を受けた研究を数多く扱っているからで、国防上の重要な要請によるものです。反魔法主義を主張するデモ隊にだけ厳しく対応したのではありません。デモ隊は金属製のプラカードを武器として振り回したばかりか、投石にまで及んでいるのです。あの状態を放置していたら、魔法大学の学生ばかりかそれ以外の通行人まで被害を被る可能性が小さくありませんでした。あの場で反魔法主義者の暴徒を放置していたら、警察はそれこそ職務怠慢の誹りを免れなかったでしょう。魔法の行使については、現在も厳格なルールが定められており、今回暴行犯の逮捕に魔法を使用した刑事も、このルールを厳密に遵守しております。これ以上現場の人間の手足を縛ることは、国民の安全を守る彼らの職務を妨げる事になり、ひいては国民を害する事に繋がると考えます。魔法による制圧は、無力化ガスやスタンガン、閃光音響弾を使用するより安全であることが科学的に立証されています。魔法という技術を目の敵にするのは社会的な損失であり、迷信的であるとすら言えるでしょう』

 

 

 この放送を見ていた弘一は、平均的な成績の生徒の、可もなく不可もない答案を採点し終えた教師のような表情を浮かべていた。

 

「神田議員は意外に落ち着いた論調だな。もっと極端な主張をしてくるかと思っていたが」

 

「これでは上野先生の正論が引き立ちませんか?」

 

 

 真由美の一言を受けて、弘一は薄い色がついたレンズの奥から「面白い」という眼差しを向けた。

 

「神田議員は道化師だが、道化師の大げさな口上を本気にする観客などありふれている。決めつけを多用したエモーショナルな演説は訳知り顔の自称識者から幼稚なものと馬鹿にされがちだが、思考停止と情緒共有の心地よさに大衆は引き寄せられるものだ。こざかしい理屈を並べ立てている内の方が、対処はし易い」

 

「そういう外連味は、上野先生の方にこそ欠けていると思いますが」

 

「彼に期待しているのは火を点ける事ではなく水を掛ける事だからね。場を白けさせる発言というのは、場の双方に作用するものだ」

 

 

 父親のあまりに人が悪い発言に、真由美は嫌悪感丸出しで顔を顰めた。

 

「それでお父様。次はどうなさるのです?」

 

「当面は静観だ。カル・ネットがこれほど明確にこちらへ付くとは予想外だったが……今度、あの女優を呼び出してみるか」

 

「あの女優? もしかして小和村真紀さんですか?」

 

 

 真由美は父親が芸能人の後援をしているという話を聞いたことが無い。個人的に縁のあるあの女優といえば、去年の四月にこの家を訪れた小和村真紀以外に思い浮かばなかった。

 

「そうだ。良く分かったね」

 

「いえ、彼女しか心当たりがなかっただけで……それで、何故小和村さんを?」

 

「彼女はカルチャー・コミュニケーション・ネットワークの社長のお嬢さんだ」

 

「そうだったんですか」

 

 

 父親の種明かしに、真由美は割とどうでもよさそうな口調で相槌を打った。

 

「もしかしたら、四葉の御曹司なら何かを知ってるかもしれないな。真由美、電話して聞いてみなさい」

 

「四葉の御曹司って、達也くんの事ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 種明かしには興味を示さなかった真由美だったが、次の言葉には意識を完全に取られてしまった。

 

「真由美が嫌だというなら、香澄にさせるが」

 

「します! 私が達也くんに確認しますから!」

 

 

 そう言って真由美は、バッグから通信端末を取り出し達也へと連絡をする。

 

『何かありましたか? 七草先輩』

 

「達也くん。カル・ネットが魔法師擁護に付いた理由について、何か知らないかな?」

 

『カル・ネット、ですか? 恐らく七宝の尽力だと思いますよ』

 

「七宝って、ご子息の琢磨くんよね? 彼がどう関係してるの?」

 

『小和村さんの今後にも関わるので、オフレコでお願いしますが――』

 

 

 四月の反魔法運動の顛末を真由美に話す達也。その時真紀と琢磨は「そういう関係」になりかけていた事を告げ、その縁で琢磨が頼んだのだろうと付け加えた。

 

「そうだったんだ……あれ? でも何で達也くんが七宝くんの交友関係を知ってたの?」

 

『後輩が道を踏み外したら、こちら側が不利になりますから、それを止めただけです』

 

「また悪い事を考えてたのね……」

 

『そういうわけですから、くれぐれも口を滑らさないようにと、お父上にお伝えください』

 

 

 最後に釘だけ刺して、達也は通信を切った。自分の背後で父親が聞いているのを知っているかのような発言に、真由美はしばらく動けなくなるくらいの衝撃を受けていた。

 

「随分と頭の回る子だ。やはり洋史君より上のようだな」

 

「……分かってるとは思いますが、私の信用に関わりますので、くれぐれもオフレコでお願いしますよ」

 

 

 自分でも父親に釘を刺して、真由美は自室へと戻っていくのだった。




あっさりとバラす達也……

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