劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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見られてたとは思ってないだろうな……


報道の真相

 真由美からの通信を切った達也は、カル・ネットがこちら側に付いた理由を思い返し、約束を反故にしてないかの確認を響子へ取った。

 

「つまり、何時か返してもらえれば構わないという理由で、小和村真紀は七宝の頼みを聞いたのですね?」

 

『途中襲いそうになってたけど、結局は手を出さずにそういう形に落ち着いたみたいよ』

 

「なら構いませんね。こちらとしても、未来ある女優を潰すのはしのびないですから」

 

『それ、本気で思ってないでしょ?』

 

 

 画面越しに笑う響子に、達也もつられて表情を崩した。

 

「こんな遅くにすみませんでした」

 

『達也くんなら何時でも歓迎するわよ。私も達也くんとお話しするのは楽しいし』

 

「一般回線だというのに、毎回掛けるのが大変なんですけどね」

 

『それはお互いさまじゃない? 私もだけど、達也くんだって見られたくないものくらいあるでしょ?』

 

「まぁ、既に四葉の一員として公言したとはいえ、FLTの方は知られてないわけですからね。最近のハッカーは見境ないですし、新技術の草案など見られたら面倒ですから」

 

『大変ねぇ、世界的技術者さんともなると』

 

 

 響子の嫌味にも聞こえる冷やかしに、達也は苦笑いを浮かべる。

 

「電子の魔女にも破られないカウンターシステムを開発しようと思ってるのですが、試作段階で試してもらっても構いませんか?」

 

『なにその、私限定のシステムは』

 

「響子さんでもハッキング出来なければ、ほぼ全てのハッカーを撃退する事が出来るのと同意ですからね」

 

 

 達也は響子の事は名前で呼ぶようになっている。真由美同様頼まれたからなのだが、達也が真由美の事を名前で呼ばない理由は、断った時の反応が楽しいからであり、それ以外の理由は特にない。したがって響子に頼まれた際は、すぐに名前で呼ぶようになったのだった。

 

『それじゃあ、出来上がりを楽しみに待ってるわね。それまでに私も、更に精度を上げておかなきゃ』

 

「これ以上ハッキングの腕を磨いてどうするんですか……中佐に更に便利に使われるだけですよ」

 

『それもそうね。じゃあ達也くん、おやすみなさい』

 

 

 響子との通信を終え、達也は扉越しに聞き耳を立てている少女たちに声を掛けた。

 

「深雪、入っておいで。水波も構わないから」

 

「は、はぃ……」

 

「失礼します……」

 

 

 消え入るような声で返事をし、深雪と水波は地下室へと入ってくる。別にリビングで確認をしても問題なかったのだが、深雪も水波も、春の一件を知らないので場所を変えていたのだった。

 

「お兄様、小和村真紀との間に、どのような約束があるのですか?」

 

「さっき七草先輩にも説明したからいうが、他言無用で頼むぞ」

 

「もちろんです」

 

「承知しました」

 

 

 どうせ真夜の耳にも入っている事なので、この二人に釘を刺す必要性は低かったが、達也は念のためにそう付け加えて説明を始めた。

 

「七宝と十三束が戦った前日、俺は小和村真紀のマンションに向かっていった七宝を見た」

 

「何故お兄様が小和村真紀のマンションをご存じだったのでしょうか?」

 

「響子さんからの連絡で、出かけただろ? あの時に向かった先が小和村真紀のマンションだったんだ」

 

「そうでしたか。話の腰を折ってしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

 深雪の謝罪を受け、達也は笑顔で深雪の頭を撫でる。気にしなくていいという事だと理解している深雪は、気のすむまで達也に頭を撫で続けられた。

 その後の達也の話は、七宝の妄執的な七草家への対抗心は、真紀によって誘導されていたという事と、彼女の色香に惑わされ、七宝が真紀を襲いかけた事などを説明した。

 

「あの時は峠を過ぎたアイドルが児童買春をしたというニュースが世間を賑わせていたからな。これが今、旬な女優だったらと考え、交渉材料に使えると判断した。もちろん、実行されたら一高にも被害が及ぶので、未遂の内に七宝には寝てもらった」

 

「まぁ、お兄様ったら。やはり人がお悪いですね」

 

「真田さんや響子さんだって、もう少し時間があれば思いついていたと思うがな」

 

 

 実際、真田は「すぐに」という言葉に力を入れていたので、彼も時間さえあれば考え付いたと言う事だったのだろうし、響子も似たような顔をしていたので、こちらも時間の問題だったのだろうと達也は解釈していた。

 

「その後、俺は小和村真紀と二つの約束を交わした」

 

「二つ、ですか?」

 

 

 水波が首を傾げながら続きを促してきたので、達也はその疑問に答える事にした。彼は悪い人であって人が悪い訳ではないので、ここで焦らして楽しむという概念は無かったのだ。

 

「一つ目は、七宝と切れること。まぁ、七宝から訪ねて行く分にはどうしようもないので、今回はグレーだろうな」

 

「もう一つは何でしょうか?」

 

「手を出すなら大学生以上にすることだ」

 

「……それはどのような考えがあっての事でしょうか?」

 

 

 達也の考えに理解が追い付かなかった深雪が、達也に問いかける。

 

「大学生以上なら大人だし、色香に惑わされても自己責任だ。だが高校生以下――もっと言えば俺の周りに被害が及んだ場合、解決に動かなければいけなくなるからな。それは面倒だったので、その条件を呑ませたんだ」

 

「お兄様らしいお考えですね」

 

「小和村真紀も呆然とした顔をしてたけどな」

 

 

 彼女の呆気にとられた表情を思い出し、達也はそう付け加えた。

 

「その二つの約束を守る限り、こちらも彼女の買春まがいな行動を公開しないという約束を交わしているんだ」

 

「約束というか、脅しの域ですよね、それ?」

 

「交渉する余地を与えただけ、慈悲深いと思うがな」

 

 

 彼の能力があれば、問答無用で小和村真紀だけを陥れる事が可能だと知っている水波は、達也の『慈悲深い』とい表現に納得してしまったのだった。

 

「とにかく、カル・ネットが魔法師寄りの報道をしてくれたのは、七宝が己の自尊心を捨てて頼んだ結果だと言う事だ」

 

「そう言う事だったのですね」

 

 

 達也の締めの言葉に、深雪は納得の言葉を返し、盗み聞きをしていた事を改めて謝り地下室から出て行ったのだった。




琢磨以上に暗躍する人たち……

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