劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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思い通りにはいかないでしょうよ……


顧傑の焦り

 当然かもしれないが、マスコミが反魔法師一色にならなかったことに対して、不満を抱く者も多かった。逃亡中の顧傑は不満を抱くだけではなく、怒りも覚えていた。彼がテロを起こした目的は、一般市民を十師族の巻き添えにすることで、魔法師を敵視する世論を喚起する事。世論に追い詰められた日本の魔法師は十師族をスケープゴートにする事で世論の非難を躱そうとするだろうと顧傑は目論んでいた。そうして十師族を、その一員である四葉家を社会的に葬るのが彼の目論見だった。

 だがテロの際に十師族の当主たちは一般市民の救出に尽力し、被害を受けた家に見舞金を払い、テロリストは必ず見つけ出し罪を償わせるという声明を発表し、世論を味方につけた。今回の反魔法師集団のデモ行進だって、非魔法師が扇動して起こしたものであり、魔法師の内部分裂などは今のところ見られていない。

 

「これでは意味がない。私から復讐を奪った者どもに、私と同じ無念を味わわせるまでは、終われない」

 

 

 四十三年前、顧傑は一度の失敗で祖国を追われた。古式魔法師として高い地位と名誉を手にしていた彼は、ごく短い期間に全てを奪われ、社会的に抹殺された。心を蝕む屈辱の中で、顧傑は復讐を誓った。自分を追放した崑崙方院の現代魔法師を、自分と同じみじめな境遇に突き落として、その悲嘆と怨嗟を笑ってやる、と。自分の恨みを晴らす方法を、顧傑は他に思いつかなかった。

 しかし、彼の復讐は不可能になった。恨みを晴らす相手は、四葉一族に滅ぼされてしまった。行き場を失った復讐心は、復讐の機会を奪った相手に向けられた。

 

「殺しはしない。殺してなどやらぬ。惨めに、汚泥の中を這いずり回って生きるがいい」

 

 

 この自爆テロは、その為の最後の策だった。四葉一族が、十師族が、日本の魔法師が、日本人によって有用性と貢献を否定され、地位を、名誉を、誇りを、その居場所を奪われる。その哀れな姿を目にすることが出来れば、後は静かに死に場所を探すだけだった。だが計画が成就しないのであれば、次の策を練らなければならない。復讐を成し遂げぬまま、朽ちるつもりは無かった。

 

「何にしても、一旦この国を出る必要があるな」

 

 

 自分に残された時間は後僅かだと、顧傑は自覚していた。周公瑾が築いた人脈は、その多くを潰されながらまだこの国の所々に生きている。顧傑がこうして逃亡を続けられているのもそのお陰だ。

 

「周公瑾を消した司波達也。実は四葉の跡取りだったとはな……恐らくこの間、私を襲ってきた四葉の集団を率いていたのもヤツだろう」

 

 

 うまい具合に米軍が邪魔をしてくれたおかげで四葉の追っ手から逃れる事が出来たと感謝はしていたが、どうせならその面を拝んでおけば良かったと、顧傑は今更ながらに後悔していた。フリズスキャルヴが急に使えなくなり、こちらから情報を集めるのが難しくなってしまったのも痛手だと嘆いていた。

 だが顧傑は元々フリズスキャルヴに頼り過ぎるのは危険だと考えていた。そんな正体不明の道具よりも血盟の朋友を頼るべきだと。顧傑は改めてそう思い直していた。

 時間を掛けて自分の痕跡を消すのではなく、迅速にこの国を立ち去る為には、強力な手駒が必要だ。日本軍から奪い取った強化魔法師よりも高いポテンシャルを持つ素体を手に入れなければならない。

 そこまで考えて、顧傑は朋友の一人が有力な魔法師一族の高弟に刻印を打ったと話してくれたのを思い出した。

 

「(本人の資質は大したこと無さそうだが、あの一族の者なら良い傀儡になりそうだ)」

 

 

 刻印を打たれた弟子を餌にして、師家の者を釣り上げる。顧傑はその策を練ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二月十六日、土曜日。反魔法師団体によりデモ行進は、今日も行われた。だが目的地は魔法大学ではなく、中央官庁街から国会議事堂へと向かうコースで、昨日と違い暴徒化することも無かった。

 

「今日もやってるわね、このニュース」

 

「デモ行進に参加する連中も、暇なんだろうな」

 

 

 食堂の大画面でデモのニュースを見ながらエリカとレオがぼやく。昨日のカル・ネットの影響か、デモに参加している人数は減っているようにも見えるが、それでも三百人以上の人が見て取れる。

 

「達也さんはこのデモの目的は何だと思いますか? やっぱり、裏で日本を魔法のすたれた国にしたいと考える連中が糸を引いているのでしょうか?」

 

 

 入学早々に一高内で起きた問題の裏にあった、反魔法国際政治団体のブランシュの傘下エガリテが絡んでいた事を知っていた深雪は、今回もそのような集団が絡んでいるのではないかと達也に尋ねる。

 

「その可能性は高いだろうな。十師族は今回のテロ事件では被害者だと認定されているし、一般人の救出にも尽力し世論を全て敵に回す事態は避けられた。だがそれでもこれだけのメディアが魔法師を悪だと決めつけて報道してる事を考えれば、意図的に世論を反魔法師運動に傾けようとしている何者かがいると考えるのが普通だ」

 

「でもさ、ブランシュとかエガリテとかは、去年達也くんが片づけた周公瑾が大本だったんでしょ? もういないんだからそれほど力があるとも思えないけど」

 

「周公瑾はあくまでも今回の首謀者の手足として、代わりに動いていただけだからな。その周公瑾が築き上げた人脈は、全て潰せてる訳じゃないからな」

 

「噂ではUSNA軍まで出張って来てるんだろ? 達也も大変だな」

 

「他人事のように言ってるが、魔法科高校の生徒は、反魔法師集団に狙われる可能性が高いんだ。ほのかや雫たちは当然として、エリカやレオも十分気を付けろよ」

 

 

 いつ暴徒化した反魔法師信者が襲いかかってくるか分からないと言う事を失念しているレオに、達也は深めに釘を刺し、何時ものように生徒会室には寄らずに帰ることにしたのだった。




更に顧傑の思い通りにはさせない予定

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