劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにあの変態が…


九校戦に向けての特訓

 達也と深雪は、とある目的の為に夜遅くに八雲の寺に向けて出かけた。その目的は、九校戦のメンバーに決定した深雪の特訓の為に八雲に手伝ってもらうのだ。

 

「先生に手伝ってもらうのは、ちょっと気が引けますね」

 

「最近の師匠は如何も箍が外れっぱなしのようだしな」

 

 

 僧であるはずなのに、深雪の服装に興奮したり襲い掛かろうとしたりと此処最近の八雲の行動は二人の頭を悩ませるものだった。

 

「お兄様、何かあったら守って下さいね」

 

「それが俺の存在意義だしな、任せておけ」

 

「そんな事はありません! お兄様の存在意義は別にもあるではないですか!」

 

「深雪、あまり後ろで大声を出すのは止めてくれるか。手元が狂ったら大変だ」

 

 

 大型バイクに二人乗りしてる状況でも、この兄妹の雰囲気は何処か甘めだった。達也も本気で咎めてる訳でも無いし、深雪も本気で怒られてるとは思って無いからだろう。

 

「先日も三高の女子生徒がお兄様に見蕩れてましたよね?」

 

「あれはお前に見蕩れてたんじゃないのか?」

 

「お兄様、あの人は女子で、私も女子なんですよ? 女子が女子に見蕩れる訳無いじゃないですか」

 

「そうかな? ほのかは入試の時に深雪に見蕩れてたと言ってたが?」

 

 

 実際はどっちなのかは二人には分からないが、その事を話し合ってる間に、八雲の寺に到着した。

 深雪が担当するであろう競技はアイスピラーズ・ブレイクとミラージ・バットの二つ、生来の才能でピラーズ・ブレイクは既に優勝確実だと思われており、達也もそっちはまったく心配していなかった。

 ただしミラージ・バットは空中に浮かぶ立体映像の光球をバトンで叩き割るアクションが必要となる競技だ。

 達也と共に八雲の稽古を受けている深雪は、その華奢な身体からは想像出来ないほどの身体能力を有しているのだが、最近ではめっきり身体を動かす機会が減っているので念の為に八雲にお願いしてトレーニングをする事にしたのだった。

 

「真っ暗ですが、先生は何処に居るのでしょう?」

 

「………」

 

「お兄様?」

 

 

 暗闇に向けて懐から何かを取り出して弾いた達也を、深雪は不思議そうに見ていた。

 

「相変わらず恐ろしい威力の弾き玉だね、達也君。でも何処か魔法があるからって油断してないかい? 最近はあまり上達してないようだよ」

 

 

 飛んできた手裏剣を叩き落としたのだと深雪が気付いたのは、八雲の声がした方向に目を凝らしてからだった。

 

「うひょ!?」

 

 

 声のした方向では無く、何もないはずの壁に向けて弾き玉を飛ばした達也が、すぐさまステップを踏んで深雪を抱えながらその場から移動した。

 

「……今回は互角かな」

 

「随分と手荒な歓迎ですね、師匠」

 

「君の方こそ、あの弾き玉は殺気が込められていたように思えたけど?」

 

 

 暗闇の中で笑いあう師弟は、真っ赤になっている深雪の事には一切触れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八雲の計らいでミラージ・バットの練習をしていた深雪は、八雲の忍術「鬼火」を光球の代わりにして身体を動かしていた。そして達也はそのフォローをしている。

 

「よし、そろそろ休憩にしよう」

 

 

 達也の合図でその場に座り込む深雪、八雲の忍術は競技で使われるような光球とは異なる動きをする為に、さすがの深雪も一筋縄では対処できなかったのだ。

 

「どうだい? 達也君も『鬼火』を追ってみるかい?」

 

「遠慮しておきます。師匠の事ですから深雪相手の時以上に面倒な動きにするんでしょ?」

 

「バレてたかい。それにしても深雪くんの動きは素晴らしいね。今もとても美しい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 身の危険を感じて逃げようとしたが、全身に力が入らない。達也の判断で休憩に入ったが、もしあのまま続けていたら怪我をしていたかもしれないと、深雪は心の中で達也に感謝した。

 

「師匠、あまりふざけるのは感心しませんね」

 

「別にふざけてはないさ。僕は本心から深雪くんは美しいと思ってるからね」

 

「……深雪、もう帰るか?」

 

「いえ、先生さえよろしければもう少し身体を動かしておきたいのですが」

 

 

 今すぐには無理でも、少し休めば身体は動く。そう判断して深雪はもう少し延長するように頼んだ。

 

「僕は別に構わないよ。可愛い弟子の言う事は聞くんだ」

 

「師匠、これ以上ふざけるようなら考えがありますから」

 

「おっと、魔法無しじゃ達也君には敵わないからなぁ、これ以上ふざけるのは止めておこう」

 

「やっぱりふざけてたんじゃないですか……誰だ!」

 

 

 何もないはずの暗闇に気配が生まれ、達也の誰何が発せられた。より正確に言うのなら、誰何を発せられてから気配が生まれた。

 

「おや、遥くんじゃないか」

 

「先生になら兎も角、司波君に見破られるなんて、私の技が衰えてるのでしょうか」

 

「達也君は僕たちと違う眼を持ってるからね」

 

「それで、貴女はいったい何者なんです、小野先生」

 

 

 達也の観察するような目に、遥は少し身じろいだが、興奮やらそう言った感情の一切を感じさせない達也の鋼のような視線に、遥はため息を吐いた。

 

「私は公安の調査官よ。でもカウンセラーも本業だからね、ちゃんと資格取ったんだから」

 

「なるほど、やはり公安でしたか」

 

「知ってたの?」

 

「俺にだって独自の情報網はありますので」

 

 

 達也の言う情報網が誰であるかを知っている八雲は、苦笑いを浮かべながら会話に割り込んだ。

 

「いいのかねぇ、立場上高校生の彼に情報を流したりして」

 

「ところで師匠、小野先生とのご関係は?」

 

「遥くんも僕の教え子だよ」

 

「と言っても司波君のように熱心に指導してもらってる訳では無いし、君の方が兄弟子にあたるのだけどね」

 

「それにしては見事な隠形でしたが」

 

「……それが私の魔法だもの」

 

「なるほど、BS魔法師でしたか」

 

「どうせBSの一つ覚えですよーだ!」

 

 

 BS(Born Specialized)、先天的異能者、先天的異能魔法技術者とも呼ばれるそれは、一般の魔法師からは下に見られるのだ。

 

「何もかも中途半端に優れてるより、一つに特化してる魔法師の方が優れてると思いますけどね」

 

「ありがとう。司波君、お願いなんだけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「私の正体は学校には秘密にしておいてくれない?」

 

「分かりました。その代わり四月のような事が起こったら真っ先に情報を頂きたいですね」

 

「……分かったわ。その条件で良いわ」

 

「ではよろしくお願いします」

 

 

 様々な思惑が見え隠れしながらも、二人は握手を交わしたのだった。




原作ではそうでもないのに、コミックだと変態度が増している八雲、そしてアニメだと更に変態だったなぁ……

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