劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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むしろ相手側の過失だろ


二高生への判決

 克人に命じられたのもあり、達也は真由美を自宅まで送ることにした。キャビネットという狭い空間に二人きりというシチュエーションに、真由美は微妙に居心地が悪そうだった。

 

「何か話さないの?」

 

「これといった話題もありませんし」

 

「気が利かないわね。無言だと気まずいでしょ?」

 

「そういうものですか」

 

 

 気まずいと思えない達也は、真由美が気まずさを感じていると分かっていてあえて黙っていたのだが、指摘されてしまった以上黙っているわけにもいかないと思い、話題を探した。

 

「先輩はこの間のデモの時、大学にいたのですか?」

 

「いたわよ。外が騒がしいとは思ってたけど、まさかあそこまで大事に発展するとは思ってなかったわ」

 

「半分以上が言いがかりですからね。世論も割れ始めているので、反魔法主義者たちも躍起になっているのでしょうね」

 

「カル・ネットが魔法師擁護に立ってくれたお陰で、他のマスメディアも極端な反魔法者主義擁護をしなくなったしね」

 

「七宝に七草家当主がお礼を言っていたと告げたら、かなり嬉しそうでした」

 

 

 十師族になれないという理由で、七草家を恨んでいた琢磨だったが、同じ十師族の地位になり、その当主が自分にお礼を言ってくれたということを聞き、真紀に借りを作った事を気にしていた事を一瞬だけ忘れたように喜んだのだった。

 

「達也くんならどうしてた? もしマスコミが全て反魔法師側に立った報道をしていたら」

 

「何局かメディアを消し去って、過激な放送をすれば消されるという恐怖心から平等性を保たせますかね」

 

「……冗談に聞こえないんだけど」

 

「もちろん、冗談ですよ」

 

 

 達也の分かりにくい冗談にため息を吐いたのと同時に、キャビネットが七草邸の最寄り駅へと到着した。

 

「ここまででいいわよ。後は連絡して迎えに来てもらうから」

 

「いえ、最後までお送りしますよ」

 

「でも、ウチまでくるとあのタヌキオヤジが歓迎しちゃうけど?」

 

「門の手前までなら大丈夫でしょう。そこまでなら先輩も気にすることは無いでしょうし」

 

「そうね……中までくると、香澄ちゃんが嫉妬しちゃうかもしれないものね」

 

 

 真由美同様、香澄も婚約者候補の身なので、出来る事なら波風立てずに生活させた方が良いだろうと言う事で、達也は真由美を七草邸の門まで送り届け、そのまま駅までの道を戻っていった。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませ、真由美お嬢様。ご連絡いただければ駅まで迎えを出しましたのに」

 

「大丈夫よ。強力なボディーガードがいたから」

 

「何処の何方でしょうか?」

 

「それを貴方に教える必要は無いわ。お父様にもそうお伝えください」

 

 

 名倉亡き後、弘一の側近としての地位を確立した部下にそう告げて、真由美は自室へ足を進めた。

 

「せっかく達也くんと二人きりだったのに、あまり色っぽい雰囲気にはならなかったわね……まぁ、達也くんがそんな雰囲気を醸し出したら、それはそれで驚いたでしょうけどもね」

 

 

 部屋着に着替えながら、真由美は二人きりの時間を思い出し苦笑いを浮かべる。あくまで候補でしかないが、自分の家柄や魔法能力の高さを考えれば篩い落とされる可能性は低いと客観的に見てもそう考えるだろうと真由美は思っている。

 実際それは自惚れとかではなく、十師族・七草家の一員という肩書は大きいし、高校時代の三年間は九校戦で活躍し、現十文字家当主である克人とも競い合った経歴がある。

 

「でも、あまり自意識過剰になるのもね……万が一の時に恥を掻くし」

 

 

 もう一度気持ちを引き締め直し、真由美は少し残っているレポートを終わらせるべく端末を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が帰宅すると、光宣からもたらされた回答を深雪から聞かされた。

 

「実際に被害が出ているから、今回は正当防衛と認める、か」

 

「ええ……はっきりとそう言われたわけではありませんが、お兄様の悲観的な予想が的中しているような気もします」

 

 

 達也も深雪に同感だった。何処かで明確な判断基準が示さない限り、裁判官の思想的立場により自衛の為の魔法行使は全面的に禁止されるという判決が出るリスクがある。

 

「……師族会議を通じて、魔法による自衛権を法に明記してもらえるよう頼んでみるか。叶えられるとしても、相当な時間を要するとは思うが」

 

 

 現行法における魔法の使用が許されるケースの規定は、実のところかなり曖昧なのだ。緊急の必要がある場合とか、公益に合致することとか、広い解釈が可能な文言になっている。

 

「次は一高生が狙われないとも限らない。水波」

 

「はい、達也様」

 

「俺が深雪の近くにいない時は、可能な限り深雪と行動を共にしろ。今まで以上に深雪の側を離れないように心掛けてくれ」

 

「はい」

 

「それから、魔法による攻撃を受けない限り、相手を負傷させる恐れがある魔法は使うな。『反射』も避けろ」

 

「しかし達也様。『遮断』でも攻撃の勢いは反作用として本人に返ります。『減速』を併用すると、私の魔法力ではシールドの持続時間が著しく低下してしまいますが」

 

「お兄様。私が『減速』を担当するというのは如何でしょうか」

 

 

 水波の遠慮がちな反論に、深雪が助け舟を出す。しかし達也の反応は芳しくなかった。

 

「いや……それではお前の魔法力が水波のシールドを侵食してしまう。まだ全力に慣れていない以上、そこまで細かな操作は難しいだろ?」

 

「それは……否定しません」

 

「とにかく、四葉家の人間だと明らかになったお前が、魔法師でない市民相手に魔法を使うのはマズい。ギリギリまで水波に任せるんだ」

 

 

 深雪が頷くのを見て、達也は水波に視線を戻した。

 

「深雪が襲われるようなことがあれば、何処にいようと俺がすぐに駆け付ける。だからそれまで持ちこたえてくれ」

 

「分かりました。お任せください、達也様」

 

 

 正直に言えば、達也のリクエストは水波にとってかなり難度が高いものだった。だが深雪の護衛は今の自分に任された重要なものであり、達也は水波の主になる人物だ。その相手からの期待に応える為、水波は決意をみなぎらせて頷いたのだった。




暴行傷害の罪は問わないのか、とツッコミたい

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