劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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70話目なんですねぇ……そしてやってやりました


三高女子たち

 時間は少し遡り夕方、北陸石川にある第三高校。その校舎で一年生グループが何かを話している。

 

「それで、相手の情報は手に入りましたの?」

 

「スミマセン愛梨、写真しか撮れませんでした」

 

「そう……司波深雪、どれほどの美貌の持ち主なのかしらね」

 

 

 三高一年一色愛梨、師補十八家『一色』家令嬢で九校戦の注目選手の一人だ。その愛梨が一高のエース候補の深雪を調べるのは当然の事かもしれない。

 

「ところで、栞と沓子は彼女の事如何思う?」

 

「そうね、愛梨と互角……いや、ひょっとしたらそれ以上かもしれない」

 

「でも、愛梨が負けるなんて思わないけどねー」

 

 

 愛梨が質問した二人、十七夜(かのう)栞と四十九院(つくしいん)沓子、名前から分かるように数字付き、百家の家の人間だ。

 

「油断してるようでは本番で力を発揮出来ないわよ」

 

「でも、愛梨も負けるつもりは無いって顔してる」

 

「愛梨が負けるとこなんて想像出来ないしねー。だって相手はいくら強力とは言え普通の魔法師、師補十八家の令嬢たる愛梨が遅れを取るなんて思えないじゃない」

 

 

 深雪が実は四葉の後継者候補筆頭だとは知らない二人は、愛梨の勝利を確信していた。

 

「ところで九十九崎さん、写真を早く見せてくれるかしら?」

 

「はい、これです」

 

 

 偵察に向かっていた女子生徒、九十九崎(つくもざき)香蓮が愛梨に撮ってきた写真を見せる。彼女もまた百家の人間だ。

 

「なるほど、これが司波深雪……あら?」

 

「愛梨、如何かした?」

 

「もしかして知り合いだったり?」

 

「いえ……九十九崎さん、この方は?」

 

 

 愛梨が写真を指差し、栞も沓子も愛梨が何を気にしているのか漸く理解した。

 

「司波深雪の彼氏?」

 

「随分とカッコいい彼氏が居るんだね。ちょっと羨ましいかも」

 

「えっと、その人に関しては現在調査中でして、もう少し待って下さい」

 

「そう……早めにお願いね」

 

 

 完全に意識してるなと、栞と沓子はからかおうとしたのだが、改めて写ってる男子生徒を確認して、その事が出来なくなってしまった。

 

「何だか凄く仲良さそう……」

 

「何か負けた気分になってきたのは何でだろう……」

 

「司波深雪、絶対に負けられないですわね」

 

 

 自分たちが何に対抗心を燃やしているのか、その事を理解しないように三人は深雪に向けての苛立ちを募らせた。

 

「ちょっとゴメン……はい? ……そうですか、分かりました。ありがとうございます、父さん」

 

「如何かしたの?」

 

「はい、写真に写ってる男子生徒の事が分かりました」

 

「本当ですか!」

 

 

 愛梨の勢いに、思わずたじろぐ香蓮。しかし栞も沓子も同じような雰囲気だったので、香蓮は居住まいを正して情報を話し始める。

 

「彼の名前は司波達也さん。私たちと同い年の十六歳で、司波深雪の実の兄です」

 

「お兄さん!? こんなに仲良さそうなのに?」

 

「複雑な家庭事情のようで、現在司波家はお兄さんの達也さんと妹の深雪の二人暮らしだそうです」

 

「ブラコンってやつ? でもこんなお兄さんなら私でもなっちゃうかもね」

 

「……そう言えば香蓮、貴女偵察から戻ってきて暫くボーっとしてましたよね?」

 

 

 苗字では無く名前で呼ばれた事に、香蓮は一瞬驚く。別にどちらでも呼ばれる事があるので普段なら気にしないのだが、今のイントネーションは明らかに不機嫌な時の呼び方だった。

 

「さすがに一高まで行くのは疲れたので」

 

「本当に? まさか達也様に見蕩れてたんじゃないでしょうね?」

 

「……達也様?」

 

 

 愛梨が達也の事を様付けした事が不思議だった香蓮だったが、その事を指摘する余裕は無かった。愛梨の表情が本気で怒ってると言う事は、付き合いの長い彼女には一目瞭然だったのだ。

 

「愛梨、落ち着いて」

 

「そうだよ。いくら此処で香蓮を責めたところで、司波深雪に勝てる訳じゃないんだから」

 

「……そうですわね。ゴメンなさい、香蓮さん」

 

「い、いえ……気にしてませんので」

 

 

 さっきまで愛梨から放たれていたプレッシャーがあっさりと消え去ったので、香蓮は少し拍子抜けのようは感覚に陥っていた。

 

「そうですか、司波達也様……九校戦にはいらっしゃるのかしら」

 

「如何だろう。妹の応援に来るのかもしれないけど、私たちと会うか如何か……」

 

「選手として出場するのなら来るのかもしれないけど、一条も吉祥寺も何も言ってなかったし、多分来ないのかな」

 

「吉祥寺君なら彼の詳しい事も知ってるかもしれませんが、聞きますか?」

 

「……いえ、そこまではしなくて良いわ」

 

 

 本当は今すぐにでも聞きに行きたいのだが、そんな事をすれば同じ数字付きの一条に自分の気持ちを知られてしまう恐れがある。家同士の付き合いがあり、昔からお互いの事を知っている将輝にそんな事を知られたらからかわれる可能性が大いにあるのだ。

 

「そうですか……ところで、この写真は如何します? 処分するなら私がしておきますけど」

 

「いえ、この写真を引き伸ばして私の部屋に貼っておきます! 何時でも司波深雪に対する気持ちを改める為に」

 

「私も欲しい」

 

「そうだね。それじゃあ私も貰おっかな」

 

「……引き伸ばすのは司波深雪で良いんですよね? 司波達也さんではなく」

 

 

 香連が確認の為に聞くと、三人は気まずそうに視線を逸らした。つまりはそう言う事なのかと、香蓮は三人に気付かれないようにため息を吐いた。

 

「そう言う事でしたらこっちの写真を引き伸ばしましょうか?」

 

 

 そう言って香蓮が取り出したのは達也のみが写った写真。彼女もまた達也の事が気になっているのだ。

 

「香蓮さん、やはり貴女も……」

 

「やけに司波深雪の写真が少ないと思ったら」

 

「香蓮も一緒だったのかー」

 

「つまり三人も私と同じ気持ちだと」

 

「「「………」」」

 

 

 墓穴を掘った形になってしまった三人は、気まずそうに互いの顔を見合わせる。入学以来ずっと行動を共にしてきた友人と、同じ相手が気になってるだなんて気まずい以外に無い。

 

「違うのでしたら引き伸ばすのは司波深雪の写真にします」

 

「……黙っててくれるわよね?」

 

「もちろんです。私だって付き合い長いんですから」

 

「それじゃあ達也さんのを引き伸ばして」

 

「私もー」

 

 

 この場で素直に認めてしまった方が、後でギクシャクしなくて良いだろうと考えた三人は、素直に達也の事が気になってると認めた。実際にあった事の無い達也を想いながら、三人は一高の方向に視線を向けた。

 深雪への対抗心と達也への恋慕の感情を乗せた視線を……




九十九崎以外は名前は分かってますが設定などは完全オリキャラ扱いですね。名前考えるのも設定考えるのも大変だ……

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