劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也以上の護衛はなかなか……


護衛の見直し

 警察署での事情聴取が終わって、達也たち三人が自宅に着いた時、時計の短針は七を過ぎていた。ああいう事があった直後とあって、自宅までは警察が覆面パトで送ってくれた。

 深雪と水波の私物は学校のロッカーに入れたままだが、別に融けたり腐ったりするものではないので、回収は明日にして、三人とも今日はもう家から出ない予定にしていた。

 

「お帰りなさいませ、災難でしたね」

 

 

 出迎えてくれたミアに、深雪と水波が苦笑いで応える横で、達也は送られてきたメールを見て顔を顰めた。

 

「……お兄様。随分と難しいお顔をされていますが、何か良くない報せですか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが」

 

 

 自分の端末を妹に手渡し、達也はミアと水波に視線を向けた。

 

「どうやらこの後出かけなければいけなくなった。ミアさんと水波は先に休んでてくれ」

 

「どちらへお出かけですか? あのような事があったのですから、ガーディアンとしてお供致します」

 

「十文字先輩からの呼び出しだ。恐らく七草先輩や一条もいるだろう。俺や深雪が四葉の人間で、水波も関係者だと言う事は知られているだろうが、まさか護衛だとは思っていないだろうし、教えてやる義理もない」

 

「そうですか、分かりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 

 達也の言葉に、水波は恭しく頭を下げる。本音を言えばついて行くべきだと思っているのだが、主であり、護衛対象より冷静な判断が出来る達也の言う事は、水波にとって絶対だった。

 

「お兄様、すぐに支度を済ませましょう」

 

「そうだな。とりあえず着替えて、十分後くらいには出られるようにしよう」

 

 

 深雪にそう指示して、自分も着替えるために部屋へ向かう。事情がイマイチ呑み込めていないミアは、困惑気味に達也を見つめていたが、ミアに対しての説明は行われなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也は今日のミーティングを欠席する旨を、克人に連絡している。時刻も二十時を過ぎており、何時もならミーティング後の会食も終わっている時間だ。その上での呼び出し。

 いつもミーティングに使っているレストランに足を踏み入れると、克人も真由美も将輝も、神妙な表情で達也と深雪を出迎えた。

 

「お待たせしました」

 

「急にすまんな。まずは掛けてくれ」

 

 

 達也の形だけの謝罪に対し、克人は結構本気で罪悪感を懐いているような口調で応え、達也と深雪に席を勧めた。達也は深雪を真由美の正面に座らせ、自分は将輝の正面に腰を下ろした。真由美も将輝も一瞬だけ顔を顰めたが、そんな事より深雪の事が心配だっただろう将輝は別の事を口にした。

 

「司波さん、ご無事でしたか?」

 

「ええ。結果的に、何事もありませんでした。ご心配頂きありがとうございます」

 

 

 将輝は本気で深雪を心配していたようだと解釈した克人と真由美は、将輝の勇み足を責める事は無く、克人は将輝ではなく達也に声を掛けた。

 

「司波、今日は災難だったな」

 

「そうですね。想定外でした」

 

 

 達也は強がる事無く、自分の予想が甘かったことを素直に認めた。

 

「銃を持っていただけじゃなく、魔法まで使って攻撃してきたんでしょう?」

 

「反魔法主義者が魔法を使ったのか? それとも、敵の魔法師が人間主義者に紛れ込んでいたのか?」

 

 

 真由美が尋ねたのに続いて、将輝がストレートに疑問をぶつける。達也は将輝に対して答えるのではなく、克人への報告という形で口を開いた。

 

「魔法の中継点に使われたのは『ブランシュ』の下部組織『エガリテ』のメンバーでした」

 

「ブランシュ? あの組織は日本から駆逐されたのではなかったのか?」

 

「残党が地下に潜っていたと言う事でしょう」

 

「ふむ……」

 

 

 克人が腕を組んで唸った。彼はブランシュとエガリテを完全に無力化したと思っていたようだ。

 

「達也くん、中継点って?」

 

「一高生に対する嫌がらせを主導したエガリテのメンバーは魔法師ではありません。古式魔法師がその男を中継点、彼らの言い方では『使い魔』にして、魔法を遠隔操作していました」

 

「そんなことが出来るの?」

 

「細かい理屈は省きますが、中継点に魔法的な目印を付け、そこに魔法を発動するんです。魔法の発動点から弾丸や、熱・音波などのエネルギーを放つ魔法なら、攻撃対象に魔法を発動させるのでなくても、攻撃の手段になります。今回は中継点でSBを喚起して無差別に攻撃を行わせる術式でした」

 

「へぇ~」

 

「相手は古式魔法師だったんだな? 正体は分かっているのか?」

 

 

 真由美が感心している横から、将輝がそう問いかける。

 

「術式の記録は取った。今、調べさせている」

 

「術式の記録? いったいどうやって……いや、これは無神経だな。すまなかった」

 

「気にするな」

 

 

 将輝の謝罪を受け入れ、達也は視線を真由美に向けた。

 

「な、なに?」

 

「今回の一件ですが、一高生を狙っただけでなく、優先順位をつけているようでした。泉美や香澄は、その中でも上位になっている様子です。七草先輩も標的になる確率は低くないと思われますので、護衛の見直しをお勧めしますよ」

 

「確かに、その事は俺も思っていた。司波の方は四葉家でどうにかするのだろ?」

 

「そうですね。近いうちに母上から連絡があるでしょう」

 

「ならやはり、七草の方の護衛を見直す方が先決だな」

 

「大丈夫よ。私、こう見えても強いんだから」

 

 

 全くない力こぶを作ろうとしたが、そんな事で克人が納得するはずもなかった。

 

「だ、大丈夫よ。護衛ならちゃんとついてるから」

 

「そうなのか? だが、それらしい人を見かけたことは無いのだが」

 

「校内に部外者をゾロゾロと連れて歩くわけにもいかないでしょうが!」

 

「そういうものか……とにかく、七草と司波は、十分気を付けて外出するように」

 

 

 そう締め括り、今日のミーティングはお開きとなった。達也は克人と真由美に一礼し、深雪は達也の後に続くように優雅に頭を下げ、レストランから出ていくのだった。




天然克人君、再び……

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