劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作では寿和や稲垣が死兵として妨害してくるんですがね……


妨害工作

 妨害工作として撃ち込まれたグレネードに対応していた克人が、後方の不審なワゴン車に気付いた。四台に分乗した追跡部隊の最後尾にいたのが、部隊全体にとっては幸いと言えただろう。克人の魔法障壁は、次々と襲いかかるグレネードを寄せ付けなかった。

 

「七草殿。もはや一般市民を気に掛けている段階ではありません。後ろの不審車は私が何とかします。顧傑を拘束してください」

 

『分かりました。十文字殿、お任せします』

 

 

 克人は一台先を行く智一を通信で呼び出しそう告げて、通信が切れると同時に、運転手に「止まれ」と命じた。彼が乗っている車を運転していたのは七草家に従う魔法師だった。十文字家の配下でも、克人の部下でもない。だが運転手は克人の声を聞くなり、考える間もなくブレーキを踏んでいた。

 克人がドアを開けて道路に降り立つ。後方から砲撃を行っていたワゴン車も、車体の側面を見せて止まっていた。窓から突き出されている砲口の向こうに人影が無かったことに、克人は気づいたかどうか。

 克人が右手を前に突き出す。発射に伴う音も閃光も無く飛来したグレネードが、空中に張り巡らされた対物耐熱障壁に阻まれ燃え尽きる。

 右手を突き出した姿勢のまま、克人が攻撃元のワゴン車へ目を向ける。次の瞬間、ワゴン車がひしゃげた。斜め上から押しつぶされた屋根に窓は塞がれ、グレネードランチャーも屋根とドアのフレームに挟まれて砲身が変形する。

 克人はファランクスを発動した状態で跳躍の魔法を使ってワゴン車のすぐ傍に着地し、その内部を確認したが、中には誰もいなかった。

 眉を顰めてワゴン車を見ている彼の背中に、智一たちが進んでいった方向から激しい衝突音と破砕音が押し寄せ、克人の鼓膜を揺さぶった。克人は振り返り、乗っていた車を移動魔法で飛び越えて、事故を起こした僚車に駆け寄る。

 智一が乗っていた車は、ノーズこそ派手に潰れているものの、キャビンには全くと言って良い程損傷が見られなかったが、残念ながら他の二台はガードが間に合わなかったようだ。特に警察の車輌は酷く壊れている。

 

「七草殿、大丈夫ですか?」

 

 

 窓に顔を寄せて尋ねる克人に、智一が自嘲の笑みを浮かべながら答えた。

 

「ええ、身体の方は。特に怪我もしていません」

 

 

 カチャカチャという忙しない音が止み、キャビンのドアが漸く開く。智一が中々外に出てこなかったのは、電子ロックを手動に切り替えるのに手間取っていたからだった。

 

「智一殿、警察の方の様子を見ていただけませんか」

 

 

 克人は智一が頷くのを確認して、自分は行く手を阻んだ大型乗用車に歩み寄った。バリケードとなった大型乗用車は玉突き状態で三台が連なって交差点を塞ぐ形で止まり、横からの衝突を受けていた。その衝撃で転倒した車、スピンしながら弾き飛ばされタイヤが破裂して車台が直接路面に触れている車、こちらの車のノーズが後部座席にめり込んで一体のスクラップになった車。克人はファランクスを展開した状態で、顧傑の逃走を助けた車の中を覗き込んだが、ワゴン車同様、三台とも無人。運転手もいない。妨害の車はロボットカーだった。

 その準備の良さに、克人は不審を覚える。これだけの組織力を有していたなら、とっくに日本から逃亡出来ていたのではないかと。

 

「十文字殿」

 

「智一殿。どうでしたか」

 

「致命傷ではありません。治癒魔法で応急処置をしておきましたが、救急車を呼ぶ必要があります。全員で追跡を続行するのは不可能です。車も、こんな状況ですからね。十文字殿はテロリストの後を追ってください。内陸側の逃走ルートを塞がせていた者たちを合流させますので」

 

「これ以上の奇襲は無いと思いますが、七草殿、お気をつけて」

 

「十文字殿こそ、お気を付けください」

 

 

 克人は通行の邪魔になっていた敵のロボットカーを魔法で退けて道を確保し、乗っていた車に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と将輝は並んでバイクを駐め、港の入口に立った。堤防に囲まれた新港には四艘の漁船が停泊していた。いずれも沿岸用の小型船だ。

 

「沖で乗り換えるのかしら」

 

「その可能性はある」

 

 

 バイクに跨ったままのリーナの独り言じみた疑問の言葉に、達也は律儀に答えを返した。それがリーナには嬉しかったようで、少し頬を赤らめていた。

 

「司波、顧傑の位置は分かるか」

 

「こちらに向かって来ている」

 

 

 将輝がぶっきらぼうに問いかけ、達也はいつも通り感情を感じさせない声で答える。将輝が少し面白くなさそうなのも感じ取っていたが、同性をからかって楽しむ趣味を、達也は持ち合わせていなかった。

 

「予想通りか」

 

 

 彼らをこの場に向かわせた克人と智一の推測は正しかった。将輝はそう判断すると共に、武者震いをしそうになった。達也がどんな手段で顧傑の居場所を捉えているのか、将輝には分からない。だが彼は、達也の言葉を疑わなかった。

 

「後どのくらいだ?」

 

「もうすぐ……いや!」

 

 

 達也が鋭い声を発して自分のバイクに跨った。

 

「顧傑が西へ進路を変えた! 一条、追うぞ! リーナも捕まってろ!」

 

「分かったわ!」

 

「了解だ!」

 

 

 達也の発進にほんの僅か遅れて、将輝がスロットルを全開にした。前後輪モーター駆動だから、急発進で前輪が浮くようなことは無い。達也と将輝は海岸線と並行に走る幹線道路を西へハンドルを切った。

 前を行く車が一台。達也に教えられ無くても、それに顧傑が乗っていると将輝には分かった。彼はスピードを上げて達也に並ぼうとする。

 ところがその直後、達也が突如ステップを蹴って、リーナをお姫様抱っこしながらバイクから飛び降りた。将輝は反射的にハンドルを切って、達也のバイクから離れた。急ブレーキを掛け、アクセルターンでバイクの向きを変える。オートバランサーが自動的にバイクの姿勢を回復し、将輝が意図したとおり達也のバイクが視界の正面に来る。

 達也のバイクは、上空からの襲撃によって、真っ二つに断ち切られていた。




リーナがおいしい思いを……

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