劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也と将輝なら、間違いなく達也を選ぶだろうな……


リーナの驚き

 バイクを真っ二つにされ、緊急とはいえリーナを抱きかかえている達也を見つめ、将輝が声を掛ける。

 

「司波、どうするんだ? 俺一人では顧傑は追えないし、かといってお前とニケツする趣味は無い」

 

「そうだな。顧傑はこのまま港に向かうだろうから、お前と十文字家の皆さんはそのまま港を目指してください」

 

「タツヤ、ワタシは?」

 

「リーナもセダンに乗り込むか、一条の後ろに乗せてもらえ」

 

 

 達也の言葉に、リーナより先に将輝が反応を示した。

 

「不服か?」

 

「いや、今は緊急事態だ。リーナさんが構わないというのであれば、俺は受け入れる」

 

「だそうだ。後はリーナ、君の決断次第だ」

 

 

 達也に答えを迫られ、リーナは少し考えてから答える。

 

「ワタシはタツヤと残るわ。どうせ何かしらの手段を用意してあるのでしょうから、それほど遅れるという事もなさそうだしね」

 

「そうか。では一条、十文字家の方たちと先に行け。用意が済み次第俺も追いかける」

 

「分かった。だが、あまりのんびりしてると、手柄は俺がもらうからな」

 

 

 そう言い残して、将輝は十文字家の魔法師を乗せたセダンを引き連れて先を目指した。その後姿を見送ってから、リーナが達也に振り返り問いかける。

 

「それで? タツヤはこの後どうするのかしら?」

 

「リーナには一度見られてるし、君はUSNAを裏切った事になるからね。このまま追われるか四葉に入り方便を本当にするかのどちらかしか選べない。そしてリーナは、俺を選んでくれたようだしな」

 

「……それとこの後の展開と、どんな関係があるというのよ」

 

 

 素面で言い放つ達也と、赤面しながら喰ってかかるリーナ。ここに第三者がいればツッコミが発生したかもしれないが、生憎そのような人間はいない。達也もこれ以上リーナをからかうのは得策ではないと理解しているので、あっさりと先へ進むことにした。

 

「まぁ、驚くとは思うが」

 

 

 そう言って達也は、左手でCADを抜き出し、真っ二つにされた電動二輪に向け引き金を引いた。

 

「えっ!?」

 

「さて、そろそろ出て来たらどうですか」

 

 

 真っ二つになったはずの電動二輪が、何事も無かったかのように目の前に現れ驚くリーナを他所に、達也は防砂林の茂みに声を掛ける。

 

「やれやれ、君の眼を誤魔化すのは無理だったね」

 

「忍者マスター……」

 

「師匠、一条達に対する辻褄合わせ、お願いしますね」

 

「確かに手伝うとはいったが、こんなことまで頼まれるとはね」

 

「あまりのんびりしていると、ベンジャミン・カノープスに顧傑を取られてしまいますからね。伏兵がいるようですし、一条達がすんなりと追いつけるとも思えませんし」

 

「相手は死兵だ。君なら躊躇なく消せるんじゃないかい?」

 

 

 八雲の言葉に、達也は鋭い視線を投げ掛ける。その視線を飄々とした顔で受け流し、綺麗にそり上げられた頭頂部を撫でた。

 

「そんな怖い顔しなくてもいいじゃないか」

 

「他の家の目がある場所で、俺本来の魔法を避けたいんですよ」

 

「まぁ君なら、魔法無しでも勝てるだろ? 相手は意思をなくした死体なんだからさ」

 

「顔も名前も知らない相手とはいえ、せめて人としての死を迎えさせてあげたいですからね」

 

 

 達也の魔法では、人としての死を迎える事無く、存在ごと消えてしまう。

 

「さっきからタツヤたちは何を話してるの?」

 

「気にするな。いずれ話す時が来るかもしれないが、それは今ではない」

 

「まぁ、タツヤがそういうなら」

 

「相変わらずモテモテで羨ましいね、達也くん」

 

「師匠……そのような感じだから、生臭坊主と言われるんですよ」

 

「前にも言ったけど、肉欲に結び付けなければ問題は無いんだよ」

 

 

 ため息を吐く達也に対し、八雲は相変わらず飄々とした雰囲気を纏っていた。

 

「兎に角、辻褄合わせは任せたまえ。こんなこともあろうかと、似たような型の電動二輪を用意しておいたんだ」

 

「では、それは師匠たちが回収したと言う事で。それから、死兵を片づけた後、弔ってあげてください」

 

「いいよ。それは坊主である僕の仕事だからね」

 

 

 八雲に後処理を任せ、達也は「再成」した愛車に跨りリーナを見る。

 

「君はどうする? このままついてくるのか? それとも師匠たちと一緒に、後から来るか?」

 

 

 達也に問われ、リーナは一瞬質問の意図を理解出来なかった。だがすぐに理解して、大慌てで達也の後ろに飛び乗った。

 

「ついて行くに決まってるでしょ! こんなところに置き去りなんて、まっぴらごめんだわ」

 

「今時日本人でも言わないような日本語を」

 

「何よ、また流行遅れだと言いたいの?」

 

「別に。それより、喋ってると舌噛むぞ」

 

 

 急発進する達也に、リーナはしがみつきながら鋭い視線を向ける。文句の一つでも言いたいのだが、達也が言ったように、この速度で移動してる最中に喋ろうとすれば、間違いなく舌を噛むだろうと思い直し、しがみつく腕に力を込めて抗議する事にしたのだった。

 

「やれやれ、あれじゃあ抗議じゃなくって愛情表現じゃないか」

 

 

 二人を見送った八雲がしみじみと呟くと、何もない闇から気配が生まれ始めた。

 

「君たちは一条の御曹司たちの側に待機。残りは僕と一緒に達也くんを追いかけるよ」

 

 

 弟子たちに指示を出し、八雲を含めた十数人の坊主たちが再び闇に融けていった。

 八雲たちと別れ将輝を追いかける達也たちだったが、意外とすぐに追いついた事に驚きを覚えた。

 

「これは何だ、一条」

 

「司波か……敵が自爆してな……」

 

「顧傑は」

 

「水陸両用車ごと船に乗り込んだ」

 

 

 一条を襲っていた敵の大半は生きた人間だった。持っている武器から、USNA軍に関係していると言う事は達也もリーナもすぐに理解したが、話がややこしくなるのでこの場では黙っていたのだった。




本当ならここで死兵となった寿和と勝負なんですけど、生きてるので先に進みます

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