劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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智一は役立たずだったな……


巡視船

 達也の許に、周辺の火災を鎮火していた克人も合流し、三人はどうやって顧傑を追いかけるかの相談を始めた。

 

「俺は、海の上を走ってでも追いかけるべきだと思います」

 

「だが、海の上では敵の攻撃を避ける事は難しいと思うが」

 

「ですが、飛行魔法でもない限り、あの速度の船を追いかける事は難しいでしょう。それなら、加速して追いかけるしか方法は無いと思いますよ」

 

 

 将輝の言い分に、克人も反論する事は出来なかった。彼の言う通り、現状では飛行魔法でもない限り顧傑を追いかけるのは難しいのだ。

 

「司波、お前はどうだ?」

 

「そうですね……一条の言う通り、走ってでも追いかけるのが一番確実でしょう。十文字先輩、沿岸警備隊に協力は依頼出来ないのですか?」

 

「今から船を呼んでも間に合わないんじゃないか?」

 

 

 達也の意見に将輝が異を唱える。

 

「追いかけるのではない。顧傑の船は現在、大島と房総半島を結ぶ線の手前にいる。先回りできる位置に巡視船がいれば、こちらから誘導出来る」

 

 

 どうやって顧傑の位置を掴んでいるんだ、と将輝は思ったが、その疑問は口にしなかった。同じ疑問を懐いているはずの克人も、マナーとして達也の魔法については一切触れない。

 

「智一殿に連絡してみよう」

 

 

 克人は達也の提案を受けて情報端末を取り出した。まるでタイミングを合わせたように、克人の端末にコール音が鳴る。ディスプレイに表示された発信人名は、七草真由美。

 克人は達也と将輝にも聞こえるようにスピーカーをオンにして受話ボタンを押した。

 

「七草か? どうした」

 

『時間が無いと思うから用件だけ言うわね。巡視船に乗せてもらって、すぐ近くまで来ています。見えるかしら』

 

 

 真由美は今夜の捕縛作戦から外れてもらっているはずだったが、彼女はすぐ側に来ているという。達也、克人、将輝が沖へ目を向けると、そこには確かに、彼らのいる浜辺に近づいてくる巡視船のライトが見えた。

 

「顧傑の追跡に協力してもらえるのか」

 

『ええ、そうよ。達也くん、そこにいる?』

 

 

 克人の質問に肯定を返し、真由美はいきなり達也の名前を呼んだ。それを予期していたわけではなかったが、達也は慌てず、素早く応えた。

 

「ええ、ここに」

 

『達也くんには顧傑の居場所が分かるんでしょう? こっちに来てくれないかしら』

 

「了解です」

 

 

 真由美の要請は、達也にとっても望むところだったので、二つ返事で頷いた。その横から将輝が、焦り気味に口を挿んだ。

 

「七草さん、一条です。俺も乗せてもらっても良いですか」

 

『ええ、良いわよ。十文字くんはどうする?』

 

「こちらは少し面倒な状態になっている。俺はここに残らざるを得ない」

 

 

 克人も追跡に加わりたいのは山々だったが、焼け焦げた死体や壊れた兵器、火事の跡を放置する事は出来ない。警察や消防に事情を説明する責任者が必要だった。

 

『了解よ。達也くん、一条くん。お迎えは出せないからここまで来てくれるかしら』

 

「分かりました」

 

 

 克人の端末に向かい将輝が答え、彼は先に駆け出して海の上を走る。一方の達也は、リーナに視線を向け、同行の意思を確認すると、再び彼女を抱き上げ、将輝に負けない速度で海の上を走りだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水陸両用車で海上に脱出した顧傑は、その車ごと高速貨物船に乗り込んだ。船長用のキャビンで寛いでいると、扉をノックする音が聞こえた。

 

「入れ」

 

「失礼します、大人。お飲み物は如何ですか」

 

「もらおうか」

 

 

 杜が手に持っているのは紹興酒の瓶だった。ラベルが中身と一致しているのなら、最高級とまではいかなくても、かなりの上等の部類に入る。

 杜は顧傑の返事に頷き、テーブルに瓶を置き備え付けの戸棚からショットグラスを取り出した。

 

「ご苦労だったな。まずはお前から飲むと良い」

 

「やっ、これは恐縮です」

 

 

 毒味をさせられたのだと分かっていながら、杜は嫌な顔一つせずに中身を飲み干した。そして、新たなショットグラスを取り出し、再び紹興酒を顧傑に勧めた。

 

「ふむ……良い酒だ」

 

「恐れ入ります」

 

「それで、状況はどうなっている」

 

「後一時間足らずで日本の領海から脱出します。追っ手は今のところありません」

 

「そうか。で、その後どうする。この船は日本人に知られているぞ」

 

「そう思います。ですから大人にはご面倒をお掛けしますが、もう一度船を乗り換えていただくことになります」

 

「手回しが良いな」

 

「光栄です。乗り換えた後は、そのまま直接シドニーへ向かいます」

 

 

 杜を労う言葉を掛け、顧傑は彼を退室させた。テーブルに残された紹興酒の瓶を、顧傑は手に取り残りを呷ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海から跳び上がって巡視船に乗り込んだ達也を出迎えたのは、真由美と八雲だった。

 

「やあ、達也くん。遅かったね」

 

「何故師匠がここに?」

 

「何故って、事件解決に手を貸すためだよ」

 

「俺が聞きたいのはそう言う事ではなく、何故師匠がこの船に乗船出来たのかと言う事ですが」

 

「あの、七草さん。こちらのお坊さんは何方です?」

 

 

 達也の隣で、将輝が真由美に問いかける。困惑気味の笑みを浮かべながら、真由美は答えた。

 

「忍術使い、九重八雲先生よ。達也くんのお師匠様で、私たちに協力してくださるんですって」

 

「正確には師というわけではないよ。達也くんは忍びでも坊主でもないからね。ちょっと体術の修業の相手をしているだけさ」

 

 

 達也の質問から逃れるように会話に割り込んだ八雲に、達也は鋭い視線を向ける。その視線が自分に向けられているような気になり、真由美は慌てて答えを追加した。

 

「今日は何もするなって言われてたけど、やっぱりじっとしていられなくて……いざという時の為に巡視船を出してもらって平塚の新港に駆けつけたら、八雲先生がいらっしゃって……達也くんたちがどこにいるのか知ってると仰るから乗っていただいたの。達也くんの先生だということは知っていたし……ダメだった?」

 

 

 恐る恐る真由美に問われて、達也はため息を呑み込んだ。

 

「駄目ということはありません」

 

「それは良かった」

 

「……七草先輩。すぐに追跡を開始しましょう」

 

 

 八雲には視線を向けただけで、達也は真由美に言葉を掛ける。

 

「そうね。達也くん、航路を指示してもらえる?」

 

「分かりました」

 

 

 達也と真由美、それに続いて将輝と八雲とリーナは、巡視船のブリッジへ向かった。




暗躍する八雲……さすが忍び
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