劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作よりカノープスが過激に……


達也の策略

 達也の指示に従いながら船を進めていた真由美は、先ほどから気になっている事を達也に尋ねる事にした。

 

「ねぇ達也くん」

 

「何でしょうか」

 

「どうしてシールズさんがここにいるのかしら」

 

「本人に聞いたらどうです? 針路、このまま。もうすぐ視認出来るはずです」

 

 

 真由美の質問をはぐらかして、達也は船長に声を掛ける。達也の言葉通り、巡視船のライトに一隻の船が浮かび上がる。

 真由美が手配した高速巡視船はそのスピードを活かし、ヘイグが乗った船を公海に出る寸前に有視界に捉えた。

 

「船長さん、お願いします」

 

 

 真由美の声を聞くまでも無く、巡視船の船長は部下に停止信号の発信を命じていた。顧傑の乗っている船へ、スピーカーと発行信号で停船が勧告される。これで追跡権が成立した事になる。巡視船のブリッジに安堵の空気が流れたが、達也は何もない闇を睨んでいた。

 

「タツヤ、どうかした?」

 

「いや、最悪リーナに止めてもらえばいいか」

 

「?」

 

 

 達也の独り言の意味が分からなかったリーナだったが、自分が頼りにされていると言う事だけを理解し、それ以上は追及しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数の言語で告げられた停船命令は、キャビンで寛いでいた顧傑の耳にも届いた。キャビンのドアが慌ただしくノックされる。

 

「入れ!」

 

「大人、失礼します!」

 

「日本の警備艇に捕捉されたようだな。何隻だ?」

 

「一隻です」

 

「それで、どうする?」

 

「このまま公海に逃れます」

 

「しかし、船足は向こうの方が速いのではないか?」

 

「味方の船が日本領海のすぐ外で待機しています。少々荒っぽい操船になりますので、お気を付けください」

 

「分かった。任せたぞ、杜」

 

「かしこまりました、大人」

 

 

 杜が背中が見えるほど深々と一礼する。手元を顧傑の視界から遮るように。顧傑は杜に仕掛けておいた術式を発動させた。杜の身体が何かの発作を起こしたように大きく震え、そのまま前に倒れた。前向きに転がった杜の右手には、手のひらサイズの小型拳銃が握られていた。

 

「私の暗殺が目的か。それにしては随分と手の込んだ真似をしたものだが、私が無条件で見ず知らずの者を信用すると思ったか。起きろ、杜」

 

 

 死者を嘲る言葉を吐いたその口で、顧傑は死体に命令する。杜の身体が最初はのろのろと、すぐにキビキビとした動作を取り戻して立ち上がる。

 

「私の言葉が理解出来るな」

 

 

 杜が無言で頷く。それを見て顧傑は舌打ちをした。

 

「喋れなくなったか。まぁ良い。杜よ、日本の警備艇と共に沈め」

 

 

 顧傑は背後関係に関する訊問を諦め、巡視船への対処を命じた。杜はやはり無言で頷き、キャビンを出ていく。顧傑もその後を追うようにキャビンを出た。彼はこの船を完全に掌握すべく、ブリッジへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡視船の船長は、停止信号を送った相手に減速する気配が無いのをみて、威嚇射撃を命じた。

 

「照準、不審船至近……お待ちください! 敵船より、小型艇の発進を確認!」

 

「達也くん!」

 

「いえ、顧傑は乗っていません」

 

「小型艇、まっすぐにこちらへ突っ込んできます」

 

「武装は!? 艇の種類は何だ!?」

 

「艇種は水陸両用車! 速い! 何だ、この速度は!?」

 

 

 迫りくる水陸両用車に、将輝が真紅のCADを向けた。放つ魔法は一条家のお家芸でもある「爆裂」。水素エンジンを使っていたようで、燃料の爆発は起こらなかった。

 沈み行く水陸両用車から抜け出した人影が、海上を滑るようにこちらへ急迫する。

 

「逃亡する船に威嚇射撃を。あちらは俺が引き受けます」

 

 

 船長にそう進言したのは達也だ。その時には既に、彼は海の上へ飛び出していた。

 

「照準!」

 

「照準、不審船至近!」

 

「射撃準備完了!」

 

「撃て!」

 

 

 曳光弾を交えた機関砲の銃撃が顧傑の乗っている船を掠める。達也が人影を捉えたのは、それと同時だった。的確に心臓を撃ち抜き、死体を巡視船へ向けて放り投げる。それを八雲が待っていたかのように受け止めた。

 

「不審船、領海外に出ました」

 

「構わん。このまま前に回り込め」

 

 

 船長の指示により、巡視船が顧傑の乗る船との距離を詰める。

 

「そろそろ君の出番かもしれないね」

 

「……どういうことかしら?」

 

 

 八雲から声を掛けられ、リーナが首を傾げる。何も答えない八雲に、もう一度問いかけようとしたら、レーダー員から悲鳴のような声が上がった。

 

「船長! USNAの駆逐艦がこちらに接近を始めました!」

 

「何っ!?」

 

 

 船長も思わず驚きの声を上げる。その声に、リーナも目を見開いて八雲を見つめた。

 

「達也くんが先回りしてあの不審船に乗り込んでるけど、恐らくUSNA軍の魔法師は気にしないだろうね。君が達也くんを選んだというなら、彼を助けてあげるといい」

 

 

 そう言い残して、八雲はリーナの視界から消えた。慌てて周りを見渡したが、八雲の姿は確認できず、彼女の視界には、スターズ第一隊隊長、自分に次ぐUSNAナンバーツーの実力者、ベンジャミン・カノープス少佐が、分子ディバイダーを最大出力で発動し、貨物船目掛けて振り下ろしていた。

 そのタイミングで、リーナはあの船に達也が乗り込んでいる事を思い出した。このままではカノープスは達也ごとあの船を沈めてしまう。

 そう理解したリーナの行動は、迅速だった。

 

「止めなさい、ベン!」

 

「っ、隊長!」

 

 

 大声を張り上げ、カノープスの意識をこちらへ向けさせる。普通なら意識が逸れても魔法を発動した後なので意味は無いのだが、彼女のお陰で達也がカノープスに向けて放った魔法の出所を知られる事は無かった。

 達也がカノープスに向けて放ったのは「術式解体」。分子ディバイダーは見事に解体され、カノープスはただ貨物船に刀を振り下ろしただけとなったのだった。




隊長の命令は無意識下で反応するんでしょうね……

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