劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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帰宅方法は原作通りに行きましょう


帰宅

 有意義な交渉を済ませた達也は、八雲の誘いを受け、帰りは八雲の車に乗ることにした。もちろん、リーナも一緒だ。

 

「タツヤ、ちょっと聞きたいのだけど」

 

「何だ」

 

 

 八雲同様目を瞑り、起きているのかどうかすら分からなかったが、達也はリーナの問いかけにしっかりと反応したのだった。

 

「ベンの攻撃した映像だけど、本当に撮ってたの?」

 

 

 確かに八雲の手には記録媒体が握られていた。だが、彼女が思う限り、あの媒体には何も録画されていないのではないか、ただのはったりだったのではないかと思えてしょうがないのだった。

 

「撮ってたかどうかは別に重要じゃない。向こうがそれを信じた時点で、別にこんなものは必要なくなるんだ」

 

「相変わらず悪い事を考えるよね、君は」

 

「師匠だってノリノリで手伝ってくれたじゃないですか」

 

「スターズのナンバーツー相手にはったりが通用するとは思えなかったけど、面白そうだったからね」

 

 

 何の悪びれも無く言い放つ達也と八雲に、リーナはたっぷり一秒間、固まってしまった。

 

「でも達也くん。もしベンジャミン・カノープスが信じなかったらどうするつもりだったんだい?」

 

「その時は正攻法で行きますよ。追跡権はこちらに在りましたし、既に制圧済みの船に勝手に乗り込んで、敵将だけ横取りしようとしたハイエナのような行動を、全世界に発表するとでも言えば大人しくなるでしょう」

 

「君はそれが出来る立場だしねぇ。追跡映像くらいは巡視船にもあるだろうし、確かに正攻法だ」

 

 

 そもそもUSNAとしては、顧傑捕獲に関わった事すら世間に公表したくないのだから、横槍を入れた挙句に、日本が優先権を持つ相手を強引に奪ったなどと公表されては、探られたくない腹を探られかねなくなるのだ。

 

「そんなことを、あの一瞬で考えてたの?」

 

「リーナからスターズが動いてると聞いていたからな。横槍を入れて来るならあのタイミングしかないと思っていたさ。師匠も、どうせスポンサー様から頼まれてきていたのでしょうし」

 

「やれやれ、本当に物分かりが良すぎるね、達也くんは」

 

「隠してるつもりもなかったでしょうに」

 

 

 八雲が誰の指示で動いていたのかも、達也にはお見通しだった。その事を八雲は否定もせずに、何時も通り飄々とした態度で話題を変える事にした。

 

「ところで、あの工作員だけど、シールズさんは見た事なかったのかい?」

 

「えっ? えぇ……ワタシは隊長ですが、工作員などの調達はベンがしてくれてましたので」

 

「まぁ君のようなお嬢さんが、達也くんみたいな裏工作大得意とかだったら嫌だしね」

 

 

 仮にもスターズの総隊長である自分に対して、裏表がないとでも言いたそうな八雲に、リーナは鋭い視線を向けようとしたが、確かに自分は裏工作が苦手だと言う事を自認しているので、それは止めた。代わりに達也に羨望の眼差しを向けたのだった。

 

「それで、この後はどうするんだい? 顧傑の捕縛はUSNAと共同で行うとして、君はこれで任務終了なのかい?」

 

「そうですね。とりあえず本家へ向かい、今回の報告をしようと思います」

 

「電話ではなく、わざわざかい?」

 

「どうせ話さなければならない事がありますので。通信よりは、直接話した方が伝わるかと」

 

 

 ちらりとリーナに視線を向けた事により、八雲には達也の腹積もりが伝わった。が、視線を向けられたリーナには、何のことかさっぱりだったのだった。

 

「それなら、とりあえずこの車で君の家まで送ろう。バイクはしっかりと届いてると思うから安心してくれていいよ」

 

「別に心配はしていませんし、師匠も最初からそのつもりだったんですよね?」

 

「さて、それはどうかな。ところで、シールズさんはどうするんだい? 達也くんの家の前で構わないのかな?」

 

「えっ、ええ……ミユキにも挨拶しておきたいですし」

 

 

 それが何の挨拶なのか、達也も八雲も確認する事は無く、その後は二人とも再び目を瞑り到着を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が本家へ報告に向かったため、現在司波家には深雪と水波、亜夜子に文弥、そしてリーナとミアの六人がいる。だが、水波とミアはあくまでも使用人として振る舞うので、リビングのテーブルには深雪と亜夜子、リーナと文弥の四人が着いている。

 

「あの……」

 

「どうかしたのかしら、文弥君?」

 

「い、いえ!」

 

 

 居心地の悪さから口を開こうとした文弥だったが、深雪の笑顔でそれ以上何も言えなくなってしまい、再び俯きながら時が流れるのを待つことになった。

 

「まさかリーナが祖国を裏切ってまでお兄様のお手伝いをするなんてね」

 

「もう同胞を手を掛ける事に辟易していたから、タツヤのお誘いはちょうど良かったのよ」

 

「ですが、そんな簡単に十三使徒であり、戦略級魔法師である貴女が国籍を変えられるのでしょうか?」

 

「その点は貴女たち、四葉家が何とかしてくれるってタツヤは言っていたわよ。ミアの時だって、貴女たちが何とかしてくれたんでしょ?」

 

 

 表情や口調は穏やかだが、三人とも目が笑っていない。当事者である三人は兎も角、この話し合いに関係のない文弥にとって、この場所は針の筵だった。

 

「(僕、何でここにいるんだろう……達也兄さんについて行って、本家に報告しに行けばよかったよ……)」

 

 

 深雪の護衛として司波家に泊まったのだが、実際は亜夜子一人でも十分な状況なのだ。文弥は達也に誘われた時、何故残ることを選択してしまったのかと後悔していた。

 

「それで、USNAに帰る事が出来ないリーナは、これからどうするのかしら?」

 

「今回の功績で、恐らくタツヤの婚約者として認められるでしょうから、大人しく花嫁修業でもするわよ」

 

「そうですか。軍隊で生活していたシールズさんは、家事なんか出来ませんものね」

 

 

 再びとげとげしい会話が繰り広げられ、文弥は胃痛に悩まされるのだった。




文弥がこの場にいる理由はあるのだろうか……

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