劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一高にもオリキャラ出そうか迷ってます


エンジニア選出

 魔法科高校にとって九校戦とは、秋の論文コンペティションに並ぶ一大イベントだ。華やかさでは圧倒的に九校戦の方がある。スポーツタイプの魔法競技で争われる対抗戦で各校クラブのレギュラーを揃えてくる。

 

「かと言って全部のクラブを平等に扱うのは難しいのよね……」

 

「得て不得手があるからな。そこら辺は選手も分かってるだろ」

 

 

 生徒会室で頭を抱えながらぼやく真由美に、摩利が慰めの言葉を掛ける。

 

「選手の方は十文字君が手伝ってくれたおかげで何とかなったのだけど、問題はエンジニアよ」

 

「何だ、まだ揃ってないのか?」

 

「二年生はあーちゃんとか五十里君とか、優秀な人材が揃ってるのだけれどもね」

 

 

 話題に上がったあずさは小さく拳を握った。彼女もエンジニアとしての自信は相当あるようだ。

 

「五十里か……アイツも専門は幾何の方だろ? 調整はそんなに得意じゃ無いと聞いていたが」

 

 

 摩利が不思議そうに首を傾げていると、真由美は更に深く頭を抱えてつぶやくように言う。

 

「現状はそんな事言ってられる状況じゃないのよ。十文字君と私でカバーするって言っても限界があるし」

 

「お前たちは主力だろ。他のヤツのCADの面倒を見ていて自分たちの事が疎かになったら洒落にならんぞ」

 

「せめて摩利が自分のCADくらい自分で調整出来れば良いのだけれど……」

 

 

 あてつけのように視線を摩利の方に向ける真由美。摩利はその視線を受け気まずそうに視線を逸らした。

 

「それは深刻だな……」

 

「ねぇリンちゃん。やっぱりエンジニアやってくれない?」

 

 

 再三要請しているのだが、鈴音は首を縦には振らなかった。

 

「無理ですね。私の腕では中条さんたちの足を引っ張るだけです」

 

「そこを何とか!」

 

「無理なものは無理です」

 

「そんなぁ~……」

 

 

 机に突っ伏した真由美を見て、達也はアイコンタクトで深雪に合図を出した。このまま生徒会室に居ると自分に都合の悪い展開になると分かっていたからだ。そして腰を浮かしかけたところで、達也の勘は的中した。

 

「だったら司波君に頼むのは如何でしょう?」

 

「ほえ?」

 

 

 拳を握った後、端末に向かって唸っていたあずさからの提案に、真由美はそんな声を出した。そして達也は浮かせかけた腰を椅子に戻したのだ。この状況では逃げ出せないと諦めたのだ。

 

「司波さんのCADは司波君が調整してるようですし、一度見せてもらいましたが一流メーカーのクラフトマンにも勝るとも劣らない出来でした」

 

「……そうよ! 盲点だったわ!」

 

 

 あずさの言葉が徐々に浸透したのか、ゆっくりと立ち上がったのに言葉の勢いはもの凄いものだった。

 

「そう言えば風紀委員の機材も達也君が調整してるんだったな。使ってるのが本人だけだったからすっかり忘れていた」

 

 

 真由美に加えて摩利までも自分の説得に来たら、九割九分断るのは無理だろうなと思いながらも、不戦敗は主義に反すると達也は些細な反論を試みた。

 

「エンジニアは二、三年生から選出されてるのでは無いのですか? それを一年の、しかも二科生の俺が選ばれるなんて納得出来るんですかね?」

 

「何事も初めてはあるものよ」

 

「前例が無いのは分かってる。だが君の実力なら納得するだろう」

 

「前衛的なお二人なら兎も角、CADの調整は魔法師との信頼が重要です。CADが実際にどの程度の威力を発揮するかは魔法師のメンタルに左右されますから。選手の反感を買うような人選は如何かと思いますが」

 

 

 屁理屈をこねたところで、結局は面倒事を引き受けたくない達也の心情を理解してる二人は、如何やって攻撃(口撃)して引導を渡そうかをアイコンタクトで話し合っていた。だが二人の計画は第三者の所為で(おかげで?)必要無くなった。

 

「私は九校戦でもお兄様にCADの調整をお願いしたいのですが……ダメでしょうか?」

 

 

 深雪のお願い(上目遣いと涙目でのだ)に達也はガックリと肩を落とした。まさか自分の妹が止めを刺しに来るとは思って無かったのだ。

 

「そうよね! やっぱり信頼出来る相手に調整してほしいわよね!」

 

「ええ。私の他にも光井さんや北山さん、それに明智さんもお兄様なら任せられると思ってるでしょうし」

 

「なるほど、達也君のファンは着々と増えてるんだな」

 

 

 摩利の発言に深雪の肩が揺れた。その事に気付いたのは達也とあずさだったが、達也は大した事では無いと気付かないフリをしたのだったが、あずさは不吉な予感を感じ取って大人しく端末に視線を戻した。

 

「そうだ! 達也君がリンちゃんに調整の指導をしてあげれば良いんじゃない? そうすればリンちゃんも参謀としてだけじゃなくエンジニアとしても参加出来るわよ」

 

「今から指導してもらっても、私の腕が格段に上がるとは思えませんし……それに司波君はまだやるとは言ってませんよ」

 

「市原はああ言ってるが、達也君はもちろん引き受けてくれるよな?」

 

「……初めから俺に断れる選択肢は存在してなかったでしょうが」

 

 

 真由美と摩利相手でもほぼ無理だった事が、深雪が加わった事で完全に無理、不可能となってしまった達也は、現実逃避気味に苦笑いを浮かべた。

 

「それじゃあ達也君、一応君の調整技術を見たいから放課後部活連本部の準備会議に来てくれ」

 

「分かりました」

 

「その結果次第ではリンちゃんのコーチをお願いするかもだからね」

 

「会長、私はエンジニアとしては参加するつもりは無いのですが」

 

「九校戦ではしなくても、リンちゃんは秋の論文コンペティションがあるじゃない! そこで達也君に教わった技術が役に立つかもしれないわよ」

 

 

 いったい何処まで先を見据えての話なのだろうと呆れながらも、達也はその事を口にはしなかった。余計な事を言ってまた面倒に巻き込まれるのは御免だと思ってたのだろう。

 

「それじゃあこれでエンジニアの方も一応の人員は確保出来たわ」

 

「最初から達也君の事に気付いていればこれほど頭を悩ませる必要は無かったんじゃないか?」

 

「そうね……ついでだから摩利も達也君にCADの調整方法習ったら如何?」

 

「あたしは別に……」

 

「やっぱり自分で出来た方が楽だと思うのよ。ねぇ達也君?」

 

「楽か如何かは置いておくとしても、出来るに越した事は無いと思いますよ。実戦途中で調整が必要になる事だって無きにしも非ずなんですから」

 

「それはそうだが……あたしはそう言った事が苦手なのは達也君だって良く知ってるだろ?」

 

 

 摩利は風紀委員会本部の惨状を指して言ったのだが、聞きようによっては達也と摩利が親密な関係だと思わせる発言だった。そして深雪はそのように解釈した。

 

「お兄様、渡辺先輩と何時そのような関係に?」

 

「関係? 委員長は片付けや細かい作業が苦手だと仰っただけだ。何か勘違いしてるんじゃないか?」

 

「……失礼しました」

 

 

 自分の勘違いに気付いた深雪は、恥ずかしそうに椅子に座り込んだ。その斜め前ではあずさが見えないはずの吹雪を見て震えていたのだった……




エンジニアは原作でも殆ど出てなかったからいけるかな…

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