劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まぁ当然の結果かと


告白の結果

 一応はデートという事なので、水波は少し離れた場所で待機している。深雪は水波の位置をはっきりと捉えているが、深雪とデートという事で舞い上がっている将輝には、水波の位置は捕捉出来ていないようだった。

 

「こんにちは、一条さん。今日はお誘いいただきありがとうございます」

 

「い、いえ! こちらこそ、お付き合いいただきありがとうございます」

 

 

 深雪の隙の無い挨拶に慌てふためく将輝、傍から見ても深雪が将輝に対して何も想っていないと言う事が水波には理解出来た。

 

「ところで、護衛を一人連れて来るという話でしたが、どちらに?」

 

「ご心配なく。ちゃんとついてきていますから」

 

「まさか……司波じゃないでしょうね?」

 

「お兄様は、本日は家でのんびりしていると思いますよ」

 

 

 本当はFLTで研究中の新デバイスのシステムを組んでいるのだが、将輝にその事を言うわけにもいかない。そもそも深雪は、将輝の好意に終止符を打つために今日の誘いを受けたのだ。必要以上に四葉の情報を将輝に与える事は避けたいのであった。

 

「ではさっそく行きましょうか」

 

「それは構いませんが……」

 

「? 何か……」

 

 

 深雪の視線の先には、玩具を見つけたような笑みを浮かべているエリカと、悪いと思いながらもエリカを止められなかったほのか、そして我関せずの雫が立っていた。

 

「深雪、今日は一条くんとお出かけなんだ」

 

「エリカの方は、今日は美月と一緒じゃなかったの?」

 

「美月はちょっと用事があるようで、こっちに来れなかったのよね」

 

「用事? まぁ詳しい事は聞かないけど。それであなた達は何してるの」

 

「本当はこのまま解散しようって思ってたんだけど、面白そうなものを見つけちゃったからね」

 

 

 エリカの笑みを見た将輝は、何とかして深雪と二人でこの場を脱出しようと考えたが、エリカの隙を見つけ出す事が将輝には出来なかった。

 

「二人の邪魔はしないけど、あたしたちもついて行っていいかな?」

 

「私は構わないわよ。一条さんはどう思いますか?」

 

「……俺も構いません。千葉さん、ちょっといいですか」

 

 

 深雪がエリカたちの同行について何も思っていないと理解した将輝は、一応の同行は許可したが、念のために釘を刺しておく事にしたのだった。

 

「何よ?」

 

「お願いですから、邪魔だけはしないでくださいね」

 

「何をするか教えてくれるのなら、考えないことも無いけど?」

 

「ぐっ……」

 

 

 周りにエリカのようなタイプの女子がいなかった将輝にとって、エリカの相手は中々厳しいものがある。だが、ここで目的を言わなければ、本気で邪魔をしてくるかもしれないという不安が将輝の頭の中を占め、諦めのため息と共にエリカに最終目的を告げた。

 

「出来れば、司波さんに返事を貰いたい」

 

「返事? ……あぁ、確か一条くんは深雪に婚約を申し込んでるんだっけ?」

 

「声が大きい! ……まぁ、そう言う事なので」

 

「はいはい、せいぜい頑張ってね」

 

 

 一気に興味が無くなったかのように、エリカは将輝から離れていく。それでも同行する辺り、完全に興味が無くなったわけではないのだろうと、将輝は自分の中で納得する事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画が終わり、建物から出た将輝は、エリカたちの気配が無くなっている事に気が付いた。映画が終わってすぐに帰ったのか、はたまたエリカが気を利かせてくれたのかは分からないが、将輝は深雪を食事に誘う事にした。

 

「司波さん、この後食事でもどうでしょうか」

 

「良いですね。何処に連れて行って下さるのですか?」

 

「………」

 

 

 ここで将輝は、自分が致命的なミスを犯している事に気が付く。土地勘のない将輝が、この辺りの飲食店に詳しいはずもない。

 

「それだったらここが良いと思うわよ」

 

「あらエリカ。さっきから隠れてたから何事かと思ってたのに」

 

「どうやら一条くんは、気配察知が得意じゃないみたいだからね」

 

 

 突然現れ、そして嵐のように去って行ったエリカに、将輝はどう反応すればいいのか困っていた。だがエリカに紹介された店を調べてみると、確かに評判は良さそうだった。

 

「では一条さん、参りましょうか」

 

「そうですね」

 

 

 完全に深雪にリードされているような感じになってしまい、将輝は何とかして自分がリード出来るように頑張ろうと決意した。

 だが、将輝の決意も空しく、食事中も緊張してまともな会話が出来ず、まったく緊張していない深雪を見て更に緊張するという悪循環に陥り、遂にはリードするどころか深雪に笑われる始末になってしまったのだった。

 将輝としては、今日は仕方ないと思えるはずもなかった。下調べをしてこなかったのは自分のミスだったが、エリカの登場は完全に予想外だったのだ。次の機会、と思えないのは、将輝が数日後に石川へ帰らなければいけないからだった。

 

「司波さん、少しお話が」

 

「何でしょうか、一条さん」

 

 

 今日の事を踏まえれば、確実に評価は下がっていると将輝も理解している。だが、断られなければ望みがあると考えて、将輝は深雪に想いをぶつける事にした。

 

「我が一条家が四葉家に申し込んだ件について、お答えいただければと思います」

 

 

 答えを聞くのが怖い。戦場でも感じた事のない恐怖を、将輝は今感じていた。過去にこれほど想い焦がれた相手はいなかった将輝にとって、こういった時にどういう気持ちでいればいいのか分からなかった。

 だが、今まで女子から言い寄られてきた事を自信に変え、今回も悪い返事は無いのではないかと期待していた。

 

「謹んでお断りさせていただきます」

 

 

 しかし、将輝の希望とは裏腹に、深雪は断りの返事をする。

 

「り、理由をお聞かせ願えますでしょうか」

 

「私、司波深雪は、正式に司波達也さんの婚約者として内定いたしました。したがって、一条さんの申し出を受ける訳には参りません」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 もし無理矢理決定したのであれば、将輝は無理矢理にでも石川に連れて帰ろうと思ったが、深雪の表情を見れば、それが彼女の意思であることが窺い知れた。将輝は深雪に今日のお礼を告げ、肩を落として帰って行ったのだった。




これで諦めるとは思えませんが、とりあえず将輝玉砕

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