劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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威厳があるのか無いのか……


対面

 深雪は特に緊張した様子も無く先に進んでいくが、ほのかや雫たちは、部屋が近づくにつれて緊張感が前面に出てきてしまっていた。

 

「ほのか、何を緊張しているの?」

 

「だって、あの部屋に四葉のご当主様がいるかもしれないって思うと、凄く緊張しちゃうよ」

 

「確かに叔母様に会う時は私でも緊張するけど、今日はそんなに畏まった席じゃないから、叔母様も普段通りだと思うわよ」

 

「私たちにはその『普段通り』が分からないから」

 

 

 雫のツッコミに、深雪はそれはそうかと頷いてから、後からやって来た夕歌と亜夜子に声を掛けた。

 

「夕歌さん、亜夜子ちゃん、今日の叔母様はどんな感じだと思います?」

 

「達也さんが側にいるでしょうし、普段のご当主様だと思いますよ」

 

「私もそう思いますわ。達也さんが側にいる時のご当主様は、凄く親近感がわきますから、緊張なさる必要は無いと思いますわ」

 

「黒羽さんって、やっぱり四葉の関係者だったんだ」

 

 

 去年の九校戦の際に噂されていた「四高の黒羽姉弟は四葉の関係者かもしれない」という内容を知っていた雫が、そのように呟いて頷くと、深雪から声を掛けられた。

 

「雫たちは仕方ないけど、この事は外には漏らさないようにしてね。亜夜子ちゃんはあくまでも達也さんの婚約者として四葉入りした事になるんだから」

 

「お願いいたしますわ」

 

 

 深雪と亜夜子に丁寧にお願いされて、雫もほのかも少し面喰らった感じでポカンとしたが、すぐにそれが重要な事だと理解して肯定の返事をしたのだった。

 

「あら、深雪さんに北山さん、光井さんもなにしてるの?」

 

「七草先輩。少しお話をしていただけです」

 

「そう? てっきり中に入っちゃいけないのかと思ったわよ」

 

「そのような事はございません。奥様は皆様にお会いできることを楽しみにしておいでです」

 

「葉山さん、いきなり現れたら皆さんが驚いてしまいますよ」

 

「これは、失礼いたしました」

 

 

 四葉関係者である深雪、亜夜子、夕歌は普段通りの表情で葉山の出現に対処したが、雫、ほのか、真由美、香澄の四人は気配も感じさせずに現れた老齢の執事に対して、驚きの表情を浮かべていた。

 

「ささ、ご案内いたします」

 

 

 葉山が先導をし、その後に深雪が続き、それに続くように全員が部屋の中へ案内される。部屋に入りまず目に入ったのは、上座に座る真紅のドレスを着ている女性だった。

 

「お待ちしていました。ささ、お好きな席へどうぞ」

 

「失礼いたします、叔母様」

 

 

 深雪の挨拶で、四葉関係者以外の――ただし響子は除く――婚約者と認められた女性たちは、改めてその女性が四葉真夜その人であることを確信し驚きの表情を浮かべる。噂では既に四十を超えているはずなのに、その見た目は三十代でも通用する若さを保っていた。

 

「先輩はお会いした事があるのでは?」

 

「遠目で見たことがあるくらいだったから、あそこまでお綺麗だとは思ってなかったのよ……」

 

「確かに、お綺麗ですよね。深雪の血縁だって納得できるくらいに」

 

 

 雫、真由美、ほのかの会話が聞こえたのか、真夜はニッコリと三人に向けて笑みを浮かべ会釈をする。真夜のすぐ傍、二番目の上座には達也が腰を下ろしており、真夜の楽しそうな表情に苦笑いを浮かべていた。

 

「本日は堅苦しい挨拶などは抜きにして、私の息子である達也の婚約者として選ばれた皆さんの顔合わせをと思っています。とはいっても、殆ど達也さんの顔見知りですけどね」

 

「さすがに話したことがあるか無いか定かではない方を選ぶのは避けるべきだと思いましたので」

 

「その程度の間柄でも、たっくんに婚約を申し込んでくるなんて、随分とほれ込んでたのか、それとも四葉家と関係を持ちたかったのか……どっちだと思う?」

 

 

 周りに人がいるのを忘れたように話しかける真夜に、達也は先ほどより苦めの笑みを浮かべる。

 

「『たっくん』? 達也くん、そんな風に呼ばれてたんだ」

 

「事情は先輩もご存じだと思いますが。俺と母上の関係が明るみに出たのは最近ですが、母上は以前から知っていましたから。このような愛称で呼んでいたのです」

 

「達也くんは叔母さんだと思ってたけど、ご当主様は息子だと知っていたからこそって事?」

 

「そうだと思いますよ」

 

 

 実際は達也も母子であると知っていたのだが、それを話すとまたややこしくなるので伏せているのだった。

 

「とにかく、こちらの部屋に案内されたみなさんは、今の段階でたっくんの婚約者として認められていると言う事です。余程の事が無い限り、そのまま結婚して四葉家に嫁入りしてもらうと思いますので、今後ともよろしくお願いしますわ」

 

「ご当主様、例の集合住宅の件はどうなるのでしょうか? 私もですが、一色さんたち三高生の方々の通学面での問題は解決されたのでしょうか?」

 

「その点は私がご説明いたしましょう」

 

 

 再び音も無く現れた葉山に、愛梨たち三高勢は驚いたが、亜夜子は余裕の笑みを浮かべたままだ。

 

「三高の校長である前田千鶴様、そして四高の校長殿とは、既に話はついております。三高については、前例として一条家の将輝様がおりましたのですんなりと行きましたが、四高の方は多少てこずりましたが、同じように扱っていただけるように落ち着きました。九校戦などの大会は元の学校の一員として参加出来るようにしてありますので、一高の戦力が大幅に上がるなどという事もございませんのでご安心を」

 

「そうですか。葉山さん、ありがとうございました」

 

「いえ、礼は青木に言ってやってください。今回骨を折ったのは青木です故」

 

「青木さんは達也さんに連絡し忘れるというミスを犯したのですから、これくらいは当然だと思いますけどね」

 

 

 亜夜子の辛辣な言葉に、葉山は少し笑みを浮かべるだけでそれ以上何も言わなかった。




死ぬまでこき使われそうだな、青木……
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