劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こういうことは早めに決めておかないと


真夜のフライング

 顔合わせが済み、婚約者と認められた女性たちが次々と退室していく中、真夜は二十八家に数えられる血筋の人間だけを別室へと案内させた。

 

「何なのかしらね。七草さんはお分かりになりますか?」

 

「残念だけど、私にも分からないわよ。四葉殿が何を考えているかなんて、たぶん達也くんでも分からないと思うわ」

 

「ワタシも一応呼ばれてるんだけど、理由は分からないわ」

 

「シールズさんは元々アメリカ国籍だし、二十八家との付き合いも薄いものね」

 

 

 別室に案内されたのは、七草家の真由美と香澄、一色家の愛梨、そして九島家の血縁であるリーナと響子の五人だ。ちなみに、呼び出した真夜の姿はまだこの部屋には無い。

 

「響子さんは心当たりはありませんか?」

 

「残念だけど、私にも分からないわ」

 

「そうですか……」

 

「ところで、血筋だけで言えばミユキも呼ばれるものだと思ってたけど、そうじゃないのかしら?」

 

「どうなのかしらね。司波深雪も四葉の血筋だから、呼ばれて当然だと私も思ってたわ」

 

「深雪さんは恐らく、四葉殿とご一緒だと思うわ」

 

「どういう事でしょうか?」

 

 

 響子の推測に、真由美が首を傾げて問いかける。この中で響子と面識があり、それなりに親しくしていたのが真由美だけだったので彼女が尋ねたのだが、他の三人も同じように首を傾げていた。

 

「特に深い理由は無いわよ。深雪さんが四葉の縁者だからという理由よ。同じ理由で、黒羽家の亜夜子さん。津久葉家の夕歌さんもそちらにいると思うわよ」

 

「ミユキは兎も角として、アヤコともう一人も?」

 

「四葉家の分家ですもの、黒羽家と津久葉家は」

 

 

 響子の発言に、他のメンバーは驚きの表情を浮かべる。リーナは亜夜子は知っていたが、夕歌まで四葉の縁者だったとは知らなかったのだ。

 

「響子さん、その事を何処で知ったのかしら?」

 

「私は色々と調べたのよ。達也くんともそれなりに長いし、彼の素性を調べるのも仕事だったからね」

 

「達也様の素性を調べる仕事? いったいどのような仕事なのでしょうか」

 

 

 愛梨が響子に質問したところで、この部屋の扉が開かれ、真夜を先頭に達也、深雪、亜夜子、夕歌の順に部屋へ入ってきた。

 

「わざわざお呼びだてして申し訳ないわね。でも、貴女たちは他の婚約者とは少し違う立場ですから、はっきりとさせておかなければならない事があるので、こうして残ってもらったの」

 

「違う立場というのは、私たちが二十八家の血筋だと言う事でしょうか?」

 

「七草のお嬢さんの言う通り、深雪さんたちも含め、貴女たちは二十八家の血を引いている女性。さらに言えば一色さんは一人娘ですものね。跡取りをどうするかの問題もあります」

 

「つまり四葉殿は、私たちと達也くんの間に子供が出来た時に、どちらの家に属させるかを確認したいのでしょうか?」

 

「さすがは藤林家のお嬢さんね。貴女の家も名門ですし、跡取りは必要でしょう?」

 

 

 真夜の問いかけに、響子は引き攣った笑みを浮かべる。確かに藤林家にも跡取りは必要だが、光宣の出自を知っている真夜がその事を言うのは、実に白々しく聞こえたからだった。

 

「もちろん我が四葉家としては、たっくんの子供は例外なく四葉に属させたいところだけど、一色さんのように一人娘が嫁ぐとなると、色々と問題が生じるでしょうし、こういった事は早めに決めておかないとね」

 

「我が一色家としては、二人以上子が出来た場合のみ、二人目を一色家がもらい受ける形で構わないと父より仰せつかっております」

 

「私たち七草家は、兄が二人いますし、泉美ちゃんもいます。ですので、もし子を授かった場合は、四葉家の人間として育てていただいて構いません」

 

「ワタシは、あくまで帰化するために九島家に属した訳ですし、タツヤとの間に授かった子は、四葉の子として育てていただきたいと思っています」

 

 

 響子以外が答えを返し、真夜は楽しそうに頷いてから響子に視線を固定した。

 

「藤林さんは如何かしら?」

 

「我が家も、一色家と同じように考えておりますが、私は他の方と違い歳も重ねております。万が一、一人しか子を授かれなかった場合は、九島家より光宣君を藤林家へ迎え入れる用意が出来ております」

 

「そう。なら安心ね。では一色家と藤林家には、私からお話をしておきます。それにしても、皆さん顔を真っ赤にして、初心ですね」

 

「楽しんでどうするんですか……深雪も亜夜子も夕歌さんも、顔が真っ赤になってますよ」

 

「別に楽しんでるわけじゃないのよ? 私は女性としての幸せを奪われちゃったから、皆さんには幸せになってもらいたいと願っているのよ。そして、たっくんの子供を私が愛でたいのよ」

 

「……そう言う事ですか」

 

 

 子を育てるという経験も無い真夜は、親としてではなく祖母としての幸せを掴もうとしているのだと、達也は理解した。

 

「しかし、母上は四葉家当主としてのお勤めもあるでしょうし、そのような事は不可能なのでは?」

 

「大丈夫よ。たっくんが一高を卒業したのと同時に、私はたっくんに当主の座を譲るつもりだから。もちろん、学生の皆さんは学業を優先していただきますが、既に社会に出ている藤林さんは、今すぐにでも」

 

「母上、俺はまだ学生です」

 

「残念……まぁ、こういうのは焦ってする事ではありませんものね」

 

 

 自分が一番焦っていたのを自覚し、真夜は反省してチロっと舌を出した。その姿を見た達也と深雪以外は、真夜を可愛いと思ったのだった。




孫にデレてる未来しか見えないのは気のせいだろうか……

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