劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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何かやった事ない感じになった気が……


婚約者IFルート その3

 婚約者が決定したのに、何時までもあの家で生活するわけにはいかないと言われ、達也は司波家からほのかのマンションに引っ越してきた。

 引っ越しと言っても、あくまで仮住まいであり、高校を卒業したのと同時に四葉家入りが決定している。もちろん、その時はほのかも一緒に四葉家へ入る事となる。

 

「達也さんと一つ屋根の下で生活出来る日が来るなんて」

 

 

 現在、達也は修行の為に九重寺を訪れている。そんな早い時間だというのに、ほのかはしっかりと達也を見送り、そして帰って来た時にすぐお風呂に入れるように準備し、それと並行して朝食の準備も進めている。

 

「深雪はこれをほぼ毎日やってたんだから、やっぱり凄いんだな……それだけ、達也さんの事を想ってたって事だろうし」

 

 

 一応婚約者の地位を勝ち取ったのだが、ほのかは未だに安心はしていなかった。恋人より上の地位でありながら、隙あらば取られるのではないかと思わせるくらい、深雪の雰囲気はほのかにとって恐ろしいものだったのだ。

 

「四葉家が決定してくれた事なのに、何でこんなに不安なんだろう……」

 

 

 四葉家内には、深雪のシンパが大勢いると聞かされているので、それも不安になる原因の一つだ。それ以上に不安を感じさせるのは、達也がこの部屋にいない事である。

 もちろんほのかも、達也が他の女子の部屋を訪れているなどと思ってはいない。思ってはいないのだが、それでも不安になるのは、達也があまりにもモテ過ぎたからである。

 

「土壇場でやっぱり一人だけしか認めないなんて魔法協会が言うから、こんなことになっちゃったんだろうな……」

 

 

 ほのかが婚約者として選ばれて以降、深雪や雫とも若干ではあるが距離が出来たように感じていた。

 

「って、そろそろ達也さんが帰ってきちゃう。おかしなところ、無いよね?」

 

 

 姿見で確認してから、ほのかは玄関へ向かう。三つ指を立てて出迎えようとも思った時があったが、彼女にはまだその行為を実行するだけの度胸が無かった。

 

「おかえりなさい、達也さん」

 

「ああ、ただいま」

 

 

 何時も通り、同じ時間に部屋に帰ってきた達也を見て、ほのかは今日も安堵する。修行と偽って別の女性の所に行っていたのではないか、その不安は常に彼女に付きまとっているのだ。

 

「お風呂の用意、出来てます」

 

「何時もすまないな」

 

「いえ! 私が好きでやってるんですから。達也さんは気にしないでください」

 

 

 ほのかの返事に、達也は彼女の頭に手を置き、軽く髪を撫でてから風呂場へと向かった。

 

「達也さん、やっぱり優しい」

 

 

 ちょっとした行為でほのかは幸せになれる。常に不安でいるからか、こういったふれあいだけで彼女は満足出来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を済ませ、達也は端末に向き合い何かをしている。ほのかにはそれが何か分からないが、達也の表情から察して、声は掛けないようにしていた。

 

「(達也さん、何してるんだろう……きっと深雪なら分かるんだろうな……)」

 

 

 長年妹として、今年に入って三ヶ月間は従妹として、達也と一緒に過ごしてきた深雪なら、そう考えてしまう事が多くなってきたと、ほのかは自覚していた。比べる必要は無いと、達也に言ってもらえたのにも関わらず、どうしても深雪と自分を比べてしまう事がやめられないのだった。

 

「(こんな考えばっかしてちゃ駄目だって! 深雪は従妹だけど、私は婚約者なんだから! これからじっくり達也さんの事を知って行けばいいんだ)」

 

 

 自分に言い聞かせるように心の中で呟き、家事の続きをする。この部屋にはHARは無く、ほのかが全て自分の手で行っている。

 

「(達也さんの下着……最初は緊張したなぁ)」

 

 

 今では緊張せず扱えるが、達也がこの部屋に来て数日間は、触る事さえ困難だった達也の下着。少しずつ成長していると実感しながら、今日もほのかは達也の下着を数秒凝視してしまう。

 

「(婚約者なんだから、もっと甘えてもいいのかな……でも、めんどくさい女だって思われたくないし……でもでも、名門四葉家の次期当主の妻として、早めに跡取りは産んだ方が良いだろうし……)」

 

「ほのか」

 

「ひゃい!?」

 

 

 考え事をしていた時に声を掛けられ、ほのかはおかしな声を上げてしまった。そんなほのかの態度に首を傾げながらも、達也は話を進める事にした。

 

「少し出て来る。夕方には帰ってくる」

 

「そうですか……分かりました」

 

 

 何処へ行くのか、何故自分は連れて行ってくれないのか、といいたい事はあったが、ほのかはそのすべてを呑み込んで達也を見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也がいない時間、ほのかは抜け殻のように過ごしていた。ついこの間まで、この部屋に一人でいる事が当然だったのにも関わらず、達也がいない時間をどうやって過ごしていたか、彼女は思い出せずにいた。

 

「お夕飯の支度も済んだし、後は達也さんが帰ってくるのを……」

 

 

 ただ待つ、それしか出来ない自分に情けなさを感じ、ほのかは泣きそうになる。だが彼女は本能的に玄関へ歩を進めた。

 

「驚いたな。窓から見えたのかい?」

 

「いえ……なんとなく、達也さんが帰ってくるって思っただけです」

 

「そうか」

 

 

 そう呟いて、達也はほのかに小さな箱を渡した。

 

「これは、なんですか?」

 

「開ければ分かるよ」

 

「?」

 

 

 ゆっくりと箱を開けると、中にはほのかの薬指にピッタリのサイズの指輪が入っていた。

 

「俺との繋がりに不安を感じてるようだったから、これで安心出来るかい?」

 

「……はい! ありがとうございます、達也さん! 私、自信を持っていいんですよね? 達也さんの婚約者だって、胸を張っていいんですよね?」

 

「ああ」

 

 

 頷く達也の胸にほのかが飛び込む。緊張の糸が切れたのか、彼女はその位置で涙を流した。そんな彼女を、達也は優しく抱きしめたのだった。




純愛、ってこんな感じ? ちょっとよくわからないですが

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