劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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更に絡みが少ない人に……


婚約者IFルート その7

 新生活の準備をするために、達也はスバルと共に買い物に来ていた。普段からボーイッシュな恰好と本人の言動から、異性より同性に人気があるスバルも、達也の隣では実に乙女らしい表情を見せている。

 

「この前十三束くんに同性の友達みたいだと言われた時は、本気でショックだったよ」

 

「十三束も悪気があったわけじゃないんだろうが、思っても口にすることではないな」

 

「おや? 司波くんも僕の事を同性の友人だと思った事があるのかい?」

 

 

 いつも通り、芝居がかった口調で達也を問い詰めるスバルだが、この程度で罪悪感を植え付けるのは無理だと思い知らされた。

 

「俺は最初からスバルの事を同性だと思った事は無い。言動などから同性に人気が高いのは知っていたが、ちゃんと女性として見ていた」

 

「そうか……そうはっきり言われると恥ずかしいものだな」

 

 

 達也が素面であっさりと言った事も、スバルが恥ずかしいと感じた原因の一つでもあった。普段女子に甘いセリフを言う事が多いスバルではあるが、自分がこういった状況になるとめっぽう弱いのだと言う事を実感した瞬間だった。

 

「それにしても、深雪もだが水波くんもなかなかに厳しい目をしていたね」

 

「スバルの言動や雰囲気から、家事が得意とは思ってなかったのだろう」

 

「これでも女子の端くれだから、最低限は出来るように躾けられているからね」

 

「最低限じゃ納得はしないだろうが、口を挿むほどでもないので余計に視線が鋭くなっていたんだろう」

 

「一応正式に決定したんだから、深雪に関していえば、諦めてもらえると助かるんだけどね」

 

 

 婚約者として認められた立場であるスバルが、最終的に選ばれなかった深雪に萎縮する必要は無いと達也も思っているのだが、血縁者としてスバルの事を厳しくチェックしているだけだという深雪の言い分を崩すのは不可能だと感じていた。

 

「長い間一緒に生活していたからな。深雪も多少厳しくなるのも仕方ないのかもしれない。だが、兄離れするいい機会だと俺は思ってるんだけどな」

 

「僕はずっと、司波くんが妹離れ出来ないのかと思ってたが、深雪の方が兄離れ出来てなかったんだな」

 

「事情はこの前話した通りだから、多少依存していても仕方ないのかもしれない。だが、ここまでだとは正直思ってなかった」

 

「君の中の普通は、世間とはズレていると認識した方がよさそうだね。特殊な環境で育ったとは聞いたが、ここまでズレているのはおかしいと思うよ」

 

「俺と深雪が兄妹として過ごした時間は精々四年くらいなんだがな……その前は殆ど会話も無かったし、従兄妹だと深雪が知ってからは多少距離が出来たと思っていたんだが」

 

「そうなのかい? 周りから見れば、兄妹だから踏みとどまっていたのに、その枷が外れてしまったので一切の遠慮が無いように見えてたけどね」

 

 

 スバルの言う通り、深雪はなんだかんだで「兄妹だから」という思考が働いていて、最後の最後で踏みとどまっていた傾向があった。だが、今年の正月以降、その枷も無くなり、アピールの方法がより過激に、より直接的になっていたのだ。

 

「ほのかと似たような雰囲気を感じていたけどね」

 

「ほのかも深雪も、確かに正月以降はアピールが過激になった気はしていたが、そんなに変わってたか?」

 

「やはり君は鈍感なようだね……感情が無いのも考え物だ」

 

「無いわけではないが……」

 

 

 言い訳しようとしたが、したところで無意味だと思い直し言葉を呑み込んだ。代わりに見覚えのある気配を感じ取り、達也はスバルの腕を取り別の場所へ移動する。

 

「随分と強引だが、何かあったのかい?」

 

「エイミィたちの気配があったから、会っても問題は無いんだろうがなんとなく気まずくなりそうだったからな」

 

「そう言う事かい。まぁ、確かにエイミィも候補者ではあったからね」

 

「とりあえず一通りは買いそろえたし、あとはスバルが行きたいところに付き合おうぞ」

 

「本当かい? じゃあ、少し付き合ってもらおうかな」

 

 

 先ほどは達也が腕を取ったが、今度はスバルから達也に腕を絡める。避けようと思えば避けれたし、解こうと思えばすぐに解けるが、達也は特に抵抗することなくスバルに付き合う事にした。

 

「ここか?」

 

「僕に似合わないと分かってはいるけど、これからはもっと女らしくしなければいけないと思ってるからね」

 

「別に無理しなくてもいいぞ」

 

「むっ……やはり僕には似合わないと思ってるんだね? まぁ確かに、こんな女の子らしい恰好を僕がしても可愛くないだろうけども――」

 

「そうじゃなくて、どんな格好をしていても、スバルは女性なんだから。無理して着たくない服を着るよりか、自分のしたい恰好でいてくれた方が俺は良いと思う。スバルがこういった格好をしたいというのなら、俺は止めないけどな」

 

「むぅ……君のそう言ったところは嫌いだよ」

 

 

 カッコつけているわけでもなく、気を遣っているわけでもない。だがそれでいて女心をしっかりと掴んでくる達也の言動に、スバルは頬を膨らませて視線を逸らす

 

「それで、どうするんだ? 店員さんがこっちを見ているんだが」

 

「そうだね……せっかくだし、着てみようじゃないか。生まれてからこれまで、こんな女の子した格好なんてしてみようとも思ってなかったけど、達也くんが止めないならしてみようじゃないか」

 

「なら、入ってみるか」

 

「私が女の子してても、決して笑わないでくれよ」

 

「口調が安定してないぞ」

 

「……恥ずかしいんだ。それくらい分かってるでしょ」

 

 

 意識的に女性らしい口調で話すスバルに、達也は優しい目を向ける。その視線に耐えられなかったのか、スバルは更に強引に達也を店に引き摺り込んだのだった。




十三束も悪気があったわけじゃないんでしょうがね……

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