劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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遂に十人目……


婚約者IFルート その10

 持ち前の警戒心の薄さと他人のテリトリーに素早く入り込む能力で、沓子はあっという間に司波家に馴染んでいた。はじめこそ深雪や水波が警戒していたが、今では普通に会話出来ている。

 

「なるほど。これはこうやって味付けすればよいのじゃな」

 

「達也さまはこのくらいの味付けが好みですので、覚えておくと楽です」

 

「そうかそうか。達也殿の好みは主か深雪嬢に聞くのが一番早いからの。これからも頼りにしておるからな」

 

「私たちを頼ってくださるのはありがたいですが、何時までもこの家で生活するわけではないのですよ」

 

「わかっておるわい、深雪嬢。わしだって最低限の家事スキルくらい持ち合わせておる。じゃが、本当に最低限じゃからこの家でそのスキルを磨こうと思ったのじゃ」

 

 

 沓子の言う通り、彼女は必要最低限のスキルは身につけているが、それでは満足出来ないとこの家に来て思ったのだった。深雪も水波も、初めは教えるつもりなど無かったのだが、沓子の人懐っこさに絆され、こうして指導しているのだった。

 

「それにしても、こんな料理が作れるなんて、深雪嬢も水波嬢もかなり長い間訓練したんじゃろうな」

 

「好きこそものの上手なれ、ですよ。私も水波ちゃんも、好きでやっていましたし、達也様に喜んでいただけるのが嬉しかったのです」

 

「そうかそうか。そういう話を聞くと、わしだけ幸せになってよいものかと頭を悩ませるわい」

 

「四十九院様は達也さまに選ばれたお方ですので、あまり気にしないでよろしいのではないでしょうか」

 

「そうじゃが……愛梨や栞、香蓮の事を考えると、どうにも申し訳ない気持ちになるのじゃよ」

 

「そう思ってもらえるだけで、一色さんや十七夜さんたちも救われてると思いますよ。もちろん、私も四十九院さんの気持ちは嬉しいです」

 

 

 最後の最後まで競い合ったライバルだからこそ、深雪や愛梨たちも沓子の幸せを願うのだった。愛梨たちは元々仲が良かったので最初から祝福していたし、深雪も一緒に生活するようになって沓子を認め始めたのだった。

 

「もちろん、四十九院さんが相応しくないと思えば、私たちは容赦なく達也さまにアタックしますので」

 

「それはかなり怖いのぅ。じゃが、わしじゃって簡単に隙を突かれるような事はせんからの」

 

「四十九院様、そろそろ完成する頃ですので」

 

「おぉ、そうじゃな。お喋りはまた後での」

 

 

 煮込んでる間はお喋りしていたが、調理再開となると沓子の表情は真剣そのものだった。人懐っこさや態度だけではなく、こうやって真剣に物事に取り組む姿勢に、深雪は沓子を応援しようと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司波家には空き部屋が無く、沓子は達也と同じ部屋で生活する事になっている。初日こそ緊張したが、達也がそういう事を強引に迫ってくるタイプではないと確信してからというもの、沓子は自分の部屋のように寛いでいた。

 

「のう、達也殿」

 

「どうした?」

 

「何時も忙しそうにしておるが、達也殿はいったい何をしておるのじゃ?」

 

「四葉家の仕事と、FLTでちょっとした会議、後は軍に顔を出したりと、まあ色々だな」

 

「婚約者としてわしも色々しておるが、やはり達也殿の方が忙しそうじゃの」

 

 

 沓子は家で出来る事だが、達也はそうはいかない。四葉家の仕事にしても、FLTの仕事にしても、軍の仕事にしてもその場に出向かなければいけないのだ。

 

「深雪嬢や水波嬢とは仲良くなれておるが、達也殿とはあまり距離感が変わっておらん気がするのじゃよ」

 

「そうか? こうして一緒に生活して、十分距離は詰まってるはずだが」

 

「そうじゃないのじゃ! こう……うまく表現出来んのじゃが、達也殿を好いておる女子は大勢おるのじゃし、何もないと信じておってもこう……不安になるのじゃ。巫女でもあるわしが言うのもあれじゃが、達也殿は婚前行為は善としておらんようじゃし、接吻もしてくれんし……わしに魅力が無いからかと心配なのじゃ」

 

 

 徐々に頭を垂れ、語尾が弱くなっていく沓子を見て、達也は作業していた手を止めて沓子の後ろに回り込んで抱きしめる。

 

「沓子がそんなことを考えているなんて知らなかったよ。悪かった」

 

「いや、わしが自分に自信を持てないのが悪いのじゃ。達也殿は何一つ悪くない」

 

「いや、沓子が深雪や水波と上手くやっているのを見て、俺は沓子なら大丈夫だと勝手に判断してしまった。そんなことを考えているなど知らずに、沓子の相手をまともにしてなかった」

 

「仕方なかろうて。達也殿は四葉の次期当主という立場だけでなく、世界的な技術者である我が国の切り札となる存在なのじゃ。わしが独占していい存在ではないのじゃ」

 

 

 首を左右に振りながら、自分の気持ちとは裏腹な言葉を放つ沓子。彼女の頬に一筋の涙が伝う。

 

「何故わしは泣いておるのじゃ……達也殿が忙しいのは仕方ない事じゃと分かっておるのに……」

 

「それが、感情ってやつなんじゃないか? 俺には良く分からないが、沓子が泣いているのを見て何も思わない程薄情ではないつもりだ」

 

 

 そう言って達也は沓子を一度離し、正面に回り込んで抱きしめる。達也の顔が目の前に来て、沓子は反射的に目を瞑った。

 

「ん……」

 

 

 唇に暖かい感触を受け、沓子は再び涙を流す。先ほどとは違う感情で流れる涙を、達也は指で掬い沓子を強く抱きしめた。

 

「苦しいのじゃ、達也殿……」

 

「じゃあ、沓子が力を緩めれば良い」

 

「嫌じゃ……もっと達也殿を感じていたいのじゃ……」

 

 

 抱きしめていたのは達也ではなく沓子であった。だが、達也は沓子の事を引きはがそうとはせず、沓子もまた、達也を離そうとはしなかったのだった。




口調難しかったな……
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