劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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本編での出番、もうないのかな……


婚約者IFルート その12

 研究テーマが同じという強みから婚約者に選ばれたものだと、鈴音は考えていた。そうでなければ、自分のような数字落ちの家系の人間が、四葉家の次期当主の婚約者に選ばれるなどありえない、そう思っていた。

 

「(深雪さんや光井さん、北山さんなどの可愛らしい女性や、真由美さんや一色さんのように二十八家の女性に私が勝っているところなど、司波くんと同じ研究テーマであると言う事だけですからね)」

 

 

 その研究も、達也の方が数歩先を進んでいるので、鈴音としてはその研究の手伝いをする程度でしか役に立てないと思っている。

 

「(昨年の恒星炉のデータを見せてもらいましたが、あのような実験を思いつくだけでも素晴らしいのに、それを成功させるとは……司波くん一人でやったわけではないと分かってはいるのですが、どうしても劣等感を感じてしまうのは仕方ない事なのでしょうね……)」

 

 

 鈴音は、達也が二科生として入学した事を知っているし、今年の正月まで達也が強い魔法を使えなかった事も知っている。いくら実技と知識は別物だと理解していても、これだけ圧倒的な差を見せつけられれば、どうしても劣等感を抱いてしまっても仕方ないだろう。

 

「(真由美さんは特に気にする必要は無い、みたいなことを中条さんに言っていましたが、彼の実力を目の当たりにしたのなら、一科生や二科生などという括りを超越した存在だと思ってしまったはずです。まして彼は、力が制限された状態で一条家の跡取りに真正面からやり合って勝利したのですから)」

 

 

 達也が将輝に勝てた秘密を、鈴音は既に知らされている。だからある程度は納得出来たが、その理由を知らない他の人から見れば、達也は自分たちより高位な魔法師なのではないかという不安が付き纏う。千秋がはじめそう思い込んでいたように、他にもそう思ってる人がいても不思議ではないのだ。

 

「(今もこの部屋にあるPCのデータを見せてもらってますが、どれも私には考え付かないものばかりです)」

 

 

 FLTや軍の機密にあたるデータは、もちろん閲覧させてもらえないが、それ以外のデータは自由に見て良いと許可を貰っているので、鈴音は達也の研究データを閲覧している。普通なら他人に見せられるはずのないデータだが、鈴音は達也が他の人間にこのデータを理解する事が出来ないと確信しているからこそ、自分に見せてくれているのだと思っている。

 

「(同じ授業を履修したはずなのに、彼は私より遥かに高い知識を持ち合わせている……四葉家の人間だからとか、そんな理由で片づけられない程の差を、私はつけられているのですね)」

 

 

 閲覧した達也の研究データから、鈴音は自分の研究データがどれほど幼稚なものなのかを痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会の業務で家を空けていた達也が帰って来て、部屋に戻った途端にベッドで項垂れている鈴音が視界に飛び込んできた。

 

「どうかなさったのですか?」

 

「いえ、司波くんと私の差を痛感して、少し凹んでるだけです」

 

「はぁ……ところで、何時までその呼び方なのですか?」

 

「そうですね……司波くんが私の事を名前で呼んでくれれば私も考えますよ」

 

「そうですか」

 

 

 現状、達也は鈴音の事を「市原先輩」と呼び、鈴音は達也の事を「司波くん」と呼んでいる。真由美や摩利のように、出会ってすぐ名前で呼んできた先輩とは違い、鈴音はしっかりとした距離感を持って達也に接していたので、未だにこの呼び方が定着しているのだった。

 

「では鈴音さん、研究データを見てどう思いましたか?」

 

「どう思ったかと言われても……私は達也さんとは違い、新しい何かを生み出す能力に欠けていると……論文コンペの時は、達也さんと五十里君が手伝ってくれたからこそ、あの発表が出来たのだと再認識させられました」

 

「俺だって、あのすべてが一人で実現出来るなんて考えてませんし、鈴音さんさえ良ければ、手伝ってほしい、いや、共同研究として進めたいとすら思っています」

 

「共同ってほど、私は力になれませんよ?」

 

 

 鈴音の返事に、達也は首を横に振った。

 

「鈴音さんの冷静な分析力があれば、より効率よく出来るかもしれませんし、俺と違い魔力をコントロール出来ている鈴音さんがいれば、他の人間を呼ばなくても実験する事が出来ます」

 

「ですが、達也さんには四葉家の魔法師やFLTの研究者といった人たちが手伝ってくれるじゃないですか。私がいなくても十分研究は進みそうですが」

 

「確かに手伝ってくれる人は大勢います。ですが、鈴音さんのように理論を理解した上で研究を手伝ってもらえるのには、それなりの時間を割いて説明し、この実験がどのような意味を持っているかを理解してもらわなければいけません。その点から考えても、鈴音さんは最高のパートナーだと俺は思うのですが」

 

「研究のパートナー、ですか?」

 

 

 鈴音が不安に思っているのは、まさにそこだった。婚約者というのは、人生のパートナーとなる相手のはずだが、これだけ聞いていると、自分は研究パートナーとだけしか見られていないのではないかという点だった。

 

「そんなことありませんよ。鈴音さんは俺の研究を理解してくれてますし、手伝ってくれる。これだけ最高のパートナーはそういないと思っています。研究者としても、男としても」

 

「そう思っていただけているのでしたら、もっと相応しいパートナーとなれるよう、私も努力します。ですので、これからもよろしくお願いします、達也さん」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします、鈴音さん」

 

 

 改めて自分たちの関係を認識しあい、達也と鈴音は互いの顔を見て笑い合ったのだった。




リンちゃん、人気ないのでしょうか……

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