劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あと数人で婚約者は終わりそうですね


婚約者IFルート その15

 司波家の地下室では今、達也ではない少女が新たな魔法を完成させるべくCADの調整を行っていた。

 

「えっと……これがこうなるから、そうするとこっちがこうなって……あれ? ダメ、最初から組み直さないと」

 

 

 婚約者として認めてもらう為にも、このCADだけは完成させなければならない。そのような脅迫概念にとらわれているかのように、千秋は必死になって研究を続けていた。

 

「平河さん、そろそろ休憩した方がよろしいのではないでしょうか?」

 

「そんな暇ないわよ。せっかく達也さんが新たな魔法理論を確立するっていうのに、それを実現させるためのCADが無きゃ意味が無いの。そして、それを作るのが私の使命なんだから」

 

「そうですか……」

 

 

 千秋の剣幕に、さすがの深雪も圧されてしまった。別に千秋がここまで必死にならなくても、牛山や第三課の人間が実用に耐えうるCADを作ってくれるだろうし、そこに達也が手を加えればすぐにでも新たな理論は実現するのを深雪は知っている。だが、千秋がここまで必死になっている理由も理解出来るので、不要な事は言わずに地下室を去る事にした。

 

「深雪様、やはりダメでしたか」

 

「ええ……鬼気迫るという表現がぴったりなくらい、平河さんは追い詰められてるみたい」

 

「平河様は元二科生で現状は魔工科生ですからね。四葉家の嫁としてのプレッシャーが重くのしかかっているのかもしれません」

 

 

 他の候補者たちに何か一つくらい勝てるものが無いと、という思考が千秋の中で働いているのか、深雪や水波が心配するほどに、千秋は休みなく研究を続けているのだ。

 

「達也さまは放っておけと仰っておりますが、あのままでは近いうちに倒れてしまうかもしれません」

 

「何か達也様には考えがお有りなのでしょうが、さすがにほぼ休み無しで研究を続けてるのはね……」

 

「やはり、平河様には『達也さまの婚約者』という地位は重かったのかもしれませんね」

 

「恐らく誰がなっても相応しいなんて思える人はいなかったと思うけど、平河さんは特に気にしているのかもしれないわね」

 

 

 達也がいる時は千秋も大人しく休んだりするが、達也が不在の時は本当に休むことなく研究を続けるのだ。達也が長期不在などになれば、千秋はぶっ倒れるまで研究を続けるのが目に見えている。深雪たちはそれが心配だったのだ。

 

「っ! 深雪様、地下室から警報です」

 

「確か達也様が新たに設置した、部屋の中で何か起こった時に鳴る……平河さんに何かあったのね」

 

 

 達也も千秋が休憩なしで研究を続けているのを知っていたので、万が一に備えて警報を付けていたのだが、本当に鳴るとは深雪も水波も思っていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは地下室ではなく達也の部屋だった。

 

「あれ、私……」

 

「目が覚めたか?」

 

「達也さん? ……私、地下室で研究してて……」

 

「倒れたらしいな」

 

 

 九重寺での修行を済ませた達也を、深雪と水波が普段と違う出迎えをしたので、達也はすぐに千秋をこの部屋に運び込んだのだった。

 

「ごめんなさい……少しでも達也さんの為になればって思って……」

 

「その気持ちは嬉しいが、無理をして倒れたら意味が無いだろ」

 

「はい……でも、私には他を圧倒する魔法力も無ければ、何かを一から生み出すような技術力も無い。だから、少しでも実績を上げないと、達也さんの婚約者だって言えないから……」

 

 

 よほど自分に自信が無いのか、千秋はふらつくからだで地下室を目指そうと歩き出す。だが、達也がそれを強引に引き留めてベッドへ放り投げた。

 

「な、なにするの!」

 

「一流の研究者は、自分の限界をしっかりと把握する。そんな身体で研究を続けても、いい結果など絶対に出ないぞ」

 

「そ、そんなの……」

 

 

 反論しかけて、千秋は言い返す言葉が見つからず押し黙ってしまった。達也は一流の研究者の中で働いている人間なのだから、自分のような三流が何を言っても響かないと自覚してしまったからだ。

 

「やっぱり、お姉ちゃんの方が相応しかったんだ……選ばれて浮かれてたけど、私にはこの重圧に耐えられる自信が無いよ……」

 

「重圧って、誰がそんなもの掛けてるんだ?」

 

「誰って……みんなそういう目で見てくるでしょ? 次期当主の婚約者は何一つ取り柄のない平均以下の魔法師だって」

 

「周りがどう思おうが関係ないだろ。千秋は厳正な審査を経て四葉家の嫁として迎え入れられたんだから」

 

 

 達也の言う通り、最終選考は真夜も同伴で行われたので、四葉家の意思として世間にも認められている。だから周りがどうこう言おうが、その決定は覆ることは無いのだ。

 

「それは私も分かってるんだけど、でもこの気持ちはどうしようもないんだよ……自分に自信が持てなくて、何とかしようとしても空回って……」

 

「少しずつでいいから、自分に自信を持てるようにならなければな。それから、千秋が組み立ててたCADだが、十分実用に耐えうるだけの成果は出てる。だから、あまり無理はしないように」

 

「何時の間に実験したのよ……」

 

「今何時だと思ってるんだ? 千秋は丸一日気を失ってたんだぞ」

 

 

 そう言われて時計を見ると、確かに日付が変わっている。

 

「私、そんなに無理してたんだ……」

 

「反省したなら、これからはしっかりと休むように」

 

「そうね……実用に耐えうるだけの結果は出てるんだし、後は改良だけだもんね」

 

 

 自分が組み立てたCADが実用に耐えうるだけの結果を出した事で自信が出たのか、千秋はその日からしっかりと休むようになったのだった。




その後は複数人を絡ませてみたり、また別のIFを考えています

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