劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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完全マニュアル調整

 放課後、達也は言われた通りに部活連本部で開かれた九校戦準備会合に参加した。生徒会の都合の為に深雪は不参加だったが、その事以上に部活連本部内はピリピリした空気が漂っていた。

 深雪を見たかった男子生徒たちの苛立ちの半分は、何故達也が此処に居るんだと言う思いに摩り替えられ、残り半分は何故自分がイラついているのだろうと落ち着きを取り戻す事で達也の事を気にしないようにしていた。もちろん全員が達也の事を奇異の目で見ていた訳では無く、半分近くの人は友好的な目を向けていた。その内の大半が女子だったが……

 

「何故一年、しかも二科生のコイツがこの場に居るんですか!」

 

「司波は風紀委員として実績があるし、選ばれていてもおかしくは無いんじゃないのか?」

 

「いくら実績があろうと二科生である事には変らないだろ!」

 

 

 選手として選ばれたのでは無く、エンジニアとして選ばれてるのだが、この際文句を言いたい人たちはどちらでも構わなかったのだろう。兎に角二科生が選出されてるのが気に入らないのだ。

 

「要するに司波の腕前が分かれば良いんだな」

 

 

 揉めている人たちに克人が声を掛ける。重くのしかかるような声に、揉めていた人たちは一斉に黙った。

 

「司波、そう言う訳だから調整して見せてくれ」

 

「分かりました。しかし何方のCADを調整すれば良いのでしょうか?」

 

 

 調整しろと言われても、誰かが手伝ってくれなければ出来るものも出来ない。この場に深雪が居れば深雪のCADを調整すれば済んだ話なのだが、先に言ったようにこの場に深雪は居ないのだ。

 

「俺がやろう」

 

「達也君を推薦したのは私だから、此処は私が……」

 

「いえ、此処は私がやりますわ」

 

三十野(みその)さん!?」

 

 

 名乗り出たのは二年生の三十野巴、言うまでも無く一科生だ。

 

「おい三十野、此処は俺がやるから引っ込んでな」

 

「桐原君こそ下がってよ。私が実験台になるから」

 

「お前、司波兄を舐めてると驚くぞ。そんな気持ちなら止めておいたほうが良い」

 

 

 同じ剣術部の桐原と揉めている三十野を見て、達也はまた面倒な人が現れたものだと思っていた。

 

「桐原、三十野、揉めるならやはり俺がやるぞ」

 

「い、いえ! 会頭に任せるくらいなら俺がやりますって」

 

「……それじゃあ今回は桐原君に譲るわ」

 

 

 納得行かない風だったが、三十野は桐原に譲った。

 

「(そう言えばあの人、実験台とか言ってたな……)」

 

 

 二科生である自分の力を疑っているのだと今更ながらに気付いた達也は、誰にも気付かれないように苦笑いを浮かべた。

 

「課題は競技用CADに桐原先輩が普段から使っているCADの設定をコピーし、即時使用が可能な状態にする。ただし起動式には一切手を加えない…で間違いありませんね?」

 

「うん、それでお願い」

 

 

 確認した達也に、真由美が笑顔で頷いた。しかし達也は首を縦にでは無く横に振った。

 

「如何かしたの?」

 

「スペックの違うCADの設定をコピーするのは、あまりお勧め出来ないんですが……仕方ありませんね。安全第一で行きましょう」

 

「?」

 

 

 真由美をはじめ、複数人が首を傾げた。普段からCADの設定のコピーをしているので、何故達也が渋っているのかが分からなかったのだろう。

 しかしエンジニアとしてこの場に参加しているメンバーは頷いたり面白そうな表情を浮かべたりと反応は様々だった。

 

「それじゃあ桐原先輩、測定しますので手を置いて下さい」

 

「分かった」

 

 

 桐原のCADのデータを半自動的に抜き出し、競技用CADにコピーする……のではなく、達也は調整機に作業領域を作りそこに保存した。普通とは違う手順に今度はエンジニアのメンバーが首を傾げた。

 想子を計測して自動的にCADにそのデータが組み込まれて普通は終わりなのだが、此処からがエンジニアの腕の見せ所。自動調整に頼らずに精密な調整を行うのだ。

 

「ありがとうございます。もう外してもらって結構ですよ」

 

 

 桐原の想子波特性の計測が終わり、後は微調整を施せば終わりなのだが、何時まで経っても達也は作業を始めようとしない。測定結果が表示されているモニターをジッと見ている。

 周りで作業手順を忘れたのかとささやかれていたが、あずさにはそうは見えなかった。オロオロとしてるのではなく、怖いくらいに一点を見つめているのだ。

 そしてついに好奇心を抑えられなくなり、達也の肩口からひょっこりとモニターを覗き込んで……

 

「へっ!?」

 

 

 乙女には似つかわしくない声を出したのだった。そしてあずさの反応が気になったのか、真由美と摩利、克人に鈴音、桐原に三十野も背後からモニターを覗き込んで息をのんだ。

 普通計測結果はグラフ化されて表示されるのに、今モニターに表示されてるのは画面いっぱいに流れていく数字だったのだ。

 そしてその数字が今計測した桐原の想子データである事に気付いているのはあずさだけだった。

 数字のスクロールが終わると、達也は猛然とキーボードを叩き始める。開いては閉じていくウインドウを見て、あずさは感動していた。

 

「(完全マニュアル調整……これなら測定結果をデバイスのキャパが許す限り全て反映する事が出来る。この部屋に居る誰よりも、司波君のエンジニアとしての腕は優れている。事実安全第一の設定なのに、普段桐原君が使ってるのと遜色が無いくらいの調整が出来ている)」

 

 

 それが分かるのは、あずさがエンジニアとして優れた才能を有しているからなのだが、それ以外の人間は今時珍しいキーボードオンリーの調整方法とその速度に目を奪われていた。

 

「終わりました」

 

 

 達也に手渡されたCADを桐原が起動し、感触を確かめる。

 

「如何だ桐原」

 

「全く違和感が無いですね。何時も使ってるのと同じみたいです」

 

「確かに腕はあるようですけど、同じ結果なら我々にだって出来ますよ」

 

 

 頑として達也の実力を認めたくない人たちは、調整完了時間が普通だとか、珍しかったけど特筆すべき事は無いだとかあれこれ難癖をつけてきた。

 

「それじゃあやってみろ。司波は測定結果をグラフでは無く生データで調整していた。それがお前らに出来るんだな? 少なくとも俺には出来ん芸当だ」

 

「俺も十文字先輩の意見に賛成です。二科生だからとか前例が無いとか言ってる場合では無い状況で、司波は九校戦のメンバーに相応しい結果を見せてくれたと思います。桐原個人が使ってるCADは競技用のそれとはスペックがかなり違うのに、全く違和感が無いと言わせるだけの調整が出来るのなら十分だと思います」

 

「そうね、はんぞー君の言う通りね。ハイスペックなCADに勝るとも劣らない調整が出来るんだから、達也君の実力は申し分ないわね」

 

「あたしも賛成だ」

 

「私も桐原君のCADのスペックの高さは知ってますし、それに劣らない競技用CADなら本番でも使えると思います」

 

 

 一高の重役たちに続き、三十野までもが達也を推薦し始め、反対勢力の勢いは萎んでいった。その結果めでたく達也は九校戦メンバーに選ばれたのだった。




一応新キャラ出しましたけど、活躍するかは未定です

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