せっかくのデートだというのに、深雪は第三者の存在に辟易していた。
「水波ちゃん。貴女がガーディアンとしての任を大切に思っているのは分かるけど、今日くらいは気を利かせてくれてもいいんじゃないかしら」
「お二人の邪魔はしませんが、私もご当主様から直々に頼まれていますので、深雪様の命とはいえ承諾しかねます」
「別に水波がいても問題はないだろ」
「ですが達也様。せっかくのデートだというのに護衛付きというのは」
「昨日の亜夜子には吉見さんが付いていたし、四葉縁者というだけで狙われる可能性は高いからな。母上が心配するのも仕方ないだろう」
深雪にとって、達也がいれば他の護衛など必要ないと言い切れるだけの自信がある。もっと言うのであれば、大抵の護衛より自分の方が能力的に高いので、必要ないと突っぱねる事も可能だ。
だが水波に関していえば、護衛経験が浅いので、少しでも経験を積ませた方が良いのだと深雪も理解しているし、最近では本当の妹のように思っているので、余計に邪険に扱いづらいのだ。
「水波ちゃんが同行するのは受け入れますが、達也様は深雪だけを見てくださいね」
「それでお前が納得するなら、そうしよう」
「達也さま、私の事は気にせず深雪様とお楽しみください」
昨日の吉見よりは気配の消し方は上手い水波は、視界に入らない程度の距離を保ち、なおかつ深雪には気配を感じさせないくらいに気配を殺して同行する事になった。
「それでは達也様、何処に参りましょうか」
「お前が望むところ、何処でも良いぞ」
「何処でも、ですか……」
不意に深雪の顔が赤くなったが、達也は深雪が何を想像したのかに心当たりはない。それに、従兄妹と分かる前から深雪にはこういったことがあったので、達也は特に気にした様子もなく深雪の希望を待った。
「では、まずは小物などを見て回りましょう」
「何か欲しいモノでもあるのか?」
「いえ、特にこれといったものはありませんが、いわゆるウインドウショッピングですね」
「なるほど」
それなら時間も潰せるし、何か欲しいものがあったらすぐに買ってやれると考え、達也は深雪を連れて様々な店を渡り歩いたのだった。
深雪がお手洗いに行っている間、達也は水波にコーヒーを差し入れていた。
「随分と疲れているようだが、大丈夫か?」
「はい、問題ありません。ですが、お二人の幸せオーラに中てられて少しくらくらしています」
「そんなオーラを出してたつもりは無いんだが」
「常人には分からないでしょうし、達也さまにとっては日常茶飯事なので気にならないのでしょうが、深雪様からは尋常ではないくらいの幸せオーラが溢れております」
「そうなのか」
自分と一緒にいる時の深雪は常にそう言った雰囲気を醸し出しているので、達也は特別意識した事も無かったのだが、第三者から見れば大分すごいらしいと実感した瞬間だった。
「そろそろ深雪様がお戻りになられるでしょうから、達也さまもお戻りください」
「そうか。まだ当分は家に帰らないだろうから、水波も休める時に休んでおくように」
「かしこまりました」
ガーディアンとしての先輩からのアドバイスを受け、水波は背筋を伸ばして返事をしたのだった。
「お待たせしました、達也様」
「気にするな。ところで、その呼び方は決定なのか?」
「どうしても他の呼び方ではしっくりとこなかったもので……。あの日以来ずっと『お兄様』とお呼びしてきましたが、私たちの関係も変わりましたので『お兄様』のままではよくないと思ったまでは良かったのですが、『達也さん』と呼ぶのはどうしても納得出来ませんでしたので……」
深雪の中に譲れないものがあるのだと聞かされているので、達也は特に呼び方を強要する事はしない。だが、深雪まで様付けで呼んでくるのには、少なからず疑問を抱いていたのだった。亜夜子も夕歌も「達也さん」と呼んでいるので、深雪もそれでよかったのではないかと。
「ところで達也様、先ほどからちらちらと達也様を見ている輩がいるのですが、排除しますか?」
「別に敵意は無いから気にするな」
「敵意は確かにありませんが、私にとっては迷惑この上ないのです」
「そんなこと言ったら、深雪を見ている男どもの視線の方が多いと思うのだが」
「深雪は、達也様以外の視線になど興味ありませんので」
深雪はもちろんのこと、達也もそれなりに目立つ容姿をしているので、二人で外出する際には周囲の視線をシャットアウトしなければ落ち着いて出歩くことも出来ない。達也は害意に敏感に反応するように鍛えてあり、深雪は有象無象の視線を完全シャットアウトする境地に至っているので、普段は視線など気にすることは無かった。
だが今日だけは、深雪は達也に向けられる有象無象の視線が気になってしょうがなかったのだ。
「どれだけ視線を向けられようが、今日は深雪だけの為にここにいるんだ。だから気にするな」
「はい。深雪も達也様だけの為に生きています」
何やら致命的にズレたような気もしたが、ある意味いつも通りなので達也は特に指摘する事はしなかった。その後は深雪も完全に視線を気にしなくなったので、二人とも互いの事だけを意識して過ごしたのだった。
「良かった、どうやら私の事は忘れてくれたみたいですね」
ただ一人、水波の視線だけは達也は感じ取っていたが、最初から気にしていなかったので、水波も安心して護衛の任を全うしたのだった。
吉見さんより水波の方が自然について行けますからね