亜夜子、深雪とデートをし、トリを務めるのは三人の中の最年長、夕歌だ。四月から大学院に進学する夕歌は、達也と出かけるというシチュエーションにも特に慌てる事無く、時間通りに待ち合わせ場所にやってきた。
「お待たせ、さすが達也さん、時間前行動ね」
「性分ですので。夕歌さんも時間ピッタリですよ」
「早めに来た方が良いとは分かってるんだけど、こればっかりは私も性分だからね」
亜夜子や深雪とは違った雰囲気に、達也も自ずと大人相手の雰囲気を醸し出す。それが不自然に感じないのは、高校生としてどうなのかと疑問だが、達也も夕歌もその事を気にすることはしなかった。
「よくよく考えてみれば、達也さんとこうしてお出かけするのは初めてかもね」
「そうですね。付き合いはそれなりに長いですが、二人きりで出かけると言う事は無かったですね」
「子供の頃は、必要以上に達也さんに近づいちゃいけないって言われてたからね。それが誤って封印を解かないためだったとは、私も知らなかったわ」
「子供だからこそ、遊びでするかもと思われていたのでしょう」
達也の封印を解くには、接吻以上の粘膜接触が必要だったので、子供の頃から達也に気が合った夕歌は、必要以上に達也に接触する事を禁じられていたのだ。
その結果、彼女の中で達也に対する想いが次第に成長していき、婚約者候補としていち早く名乗りを上げる事に繋がったのだった。
「それで、今日は何処に行くんですか?」
「亜夜子ちゃんや深雪さんとはどこに行ったのかしら?」
「何処と言われましても、普通に買い物に出かけた感覚でしたので」
「亜夜子ちゃんも深雪さんも、達也さんからしてみれば妹って感じだものね」
「まぁ、ずっと妹や再従妹として付き合ってきましたからね」
「それじゃあ、今日は大人のデートと行きましょうか」
「はぁ……ですが、そのような事を期待されても、俺にはどうすればいいのか分かりませんが」
事情が事情なので、達也には今まで恋人がいたことは無い。それは夕歌も同じなので、大人のデート計画は、始まる前から挫折したのだった。
「家庭の事情で済ませるのもあれだけど、私もデートなんてした事なかったわ……」
「夕歌さんなら、そういうお誘いがあってもおかしくは無さそうですが?」
「確かに誘われたりしたけど、私は昔から達也さん一筋だったから」
「特に夕歌さんに好かれるようなことをした覚えはないのですがね」
「達也さん、昔から魔法知識に長けていたから、子供ながらに凄いって思って、それがいつの間にかカッコいいに変わってたのよね」
「そんなものですか」
「そんなものよ。それじゃあ、とりあえずご飯にしましょうか」
そう言って夕歌は、達也の腕に自分の腕を絡める。亜夜子や深雪はしたくても恥ずかしさが勝り手を繋ぐにとどまっていたが、夕歌は特に気にした様子もなくそのまま達也を引っ張っていく。
「達也さん、何か食べたいものある?」
「いえ、夕歌さんに合わせますよ」
「そうねぇ……美味しいイタリアンのお店が近くにあるから、そこにしましょう」
そこと決めたら夕歌の行動は早く、すぐに店に向けて歩き出す。達也も、何時までも引っ張られているのは具合が悪いと感じたのか、すぐに歩幅を合わせて夕歌の隣を歩く。その姿に、周りのカップルが自分の連れ添いと見比べてがっかりする、という光景がちらほらと見受けられたのだが、達也も夕歌もその事には気づかなかったのだった。
食事を済ませた二人は、その後、滅多に行かなかった映画館に向かい、夕歌のリクエストで恋愛映画を観たのだった。
「映画なんて久しぶりだったけど、結構面白かったわね」
「そうですね。でも、何で周りの人たちが泣いていたのか、俺には分からないですね」
「私もちょっと分からないけど、女優さんの演技が良かったからじゃないかな?」
「小和村真紀、ですか」
「達也さんでも知ってたのね」
「ええまぁ……ちょっとした因縁のある相手ですので」
「因縁?」
夕歌は昨年の四月にあった事件を知らない。事件と言っても、一高内のほんの数人を巻き込んだだけの小規模な事件なので、知らなくて当然なのだが。
達也は事の顛末を夕歌に伝え、その過程で小和村真紀と面識を持った事を説明した。
「なるほどね……でも、その話を聞く限り、小和村真紀は年下趣味っぽいわね」
「この間の反魔法師運動の際にも、七宝に助力を求められ危うく手を出しそうになったとか聞きましたし」
「誰から?」
「小和村真紀を監視している国防軍の人からです」
「藤林さんじゃないわよね?」
「いえ、中尉ではありませんが……何故中尉だとお思いになったのでしょう?」
「達也さんと親しくしている女性士官なんて、藤林さんくらいしか思いつかなかったから」
「別に親しくしてる相手から聞いたとは言ってませんが」
夕歌の勘違いを正した後、達也は夕歌が不安を感じていると言うことに気が付き、今度は自分から夕歌の腕に自分の腕を絡めた。
「達也さん?」
「婚約者が大勢いる自分が言っても説得力に欠けるかもしれませんが、俺は夕歌さんの事、ちゃんと好きですよ」
「そう思ってもらえてるだけで特別だと言う事が分かるから、すごくうれしいわね」
泣きそうな表情にも見える笑顔を浮かべて、夕歌は先ほど以上に達也に身体を密着させたのだった。
この組み合わせ、意外と好きなんですよね