劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今度はこの二人です


IF剣士娘ルート その1

 千葉家の道場には今、二人の少女が互いに睨み合い下手に動けない状態で対峙していた。一人はこの家の末子である千葉エリカ、この道場のアイドルとも呼べるほどの人気と、それ以上の恐怖を以ってこの道場で稽古している弟子に対して絶対的な支持を得ている存在。そのエリカと対峙しているのは、数年前に全国女子剣道大会準優勝の壬生紗耶香である。

 

「エリカのヤツ、大分警戒してるようだね」

 

「壬生先輩の実力は、エリカも十分理解しているでしょうから」

 

「僕が割って入っても勝てないだろうね」

 

「渡辺先輩ですら、魔法無しでは勝てないと言っていましたから」

 

「摩利も十分強いんだけどね」

 

 

 エリカと紗耶香の試合を、達也の隣で見学している修次は、恋人贔屓か摩利の事をフォローした。だが、達也は客観的に見たら、摩利はあそこに入った途端にやられるだろうと思っている。もちろん、魔法を使えば紗耶香には勝てるかもしれないが、エリカには難しいだろうと。

 

「それにしても、あのエリカが賭け試合とはね」

 

「別に金品を賭けているわけじゃないですし、互いの実力を測るためにも丁度良かったのだと思いますよ」

 

「そうかな? 単純に、君を独占出来る時間を多く欲しかっただけなのかもしれないよ」

 

「次兄上、聞こえておりますよ」

 

「はい、すみません!」

 

 

 エリカの言葉に、千葉の麒麟児が竦みあがる。達也は一年の時の九校戦の時に思った「恐妹家」という単語を再び思い浮かべたのだった。

 

「それじゃあ、僕はこの辺で。機会があれば君と手合わせを願いたいね」

 

「俺が身につけているのは徒手格闘術です。剣術は専門外もいいところなのですが」

 

「謙遜は止めたまえ。これでも千葉の剣士として、君の実力を認めてるんだから」

 

 

 そう言い残し、修次は道場を後にする。恐らく、恋人であり近々婚約する摩利の許へ向かったのだろうと達也は思い、そしてそれ以上の興味を失ったのだった。

 

「達也くん、次兄上は?」

 

「つい先ほど何方かに向かわれたが、何か用事だったのか?」

 

「別に、そういうわけじゃないけど……」

 

「あーあ、負けちゃった。やっぱりエリちゃんは強いね」

 

「さーやだって、前に戦った時よりも強くなってるよ」

 

「そうだといいんだけどな」

 

 

 一瞬の隙を突き、エリカが紗耶香から一本取ったらしく、試合は達也がよそ見している間に終わっていたのだった。

 

「それじゃあ、今日はあたしが達也くんと出かけるから、さーやは道場の方お願いね」

 

「分かったけど、明日は私だからね」

 

「そういう決まりだし、分かってるって」

 

 

 そう言うや否や、エリカは達也の腕に自分の腕を絡ませ、離れへと連れて行く。

 

「着替えるから、少し待ってて」

 

「ああ、分かった」

 

「一応忠告しておくけど、覗いたらただじゃおかないんだからね」

 

 

 過去にレオに覗かれたことがある――故意ではなくエリカの姉の嫌がらせでだが――ので、エリカはそう釘を刺し汗を流しに風呂場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着替えを済ませ、エリカが先導の許街へ繰り出した達也だったが、エリカは特に行き先を決めていなかったのかぶらぶらと店を覗いては立ち去り、また覗いては立ち去りを繰り返すのだった。

 

「何か欲しいものでもあるのか?」

 

「んー、別に。それに、こんな女の子女の子してる服は、あたしには似合わないし。こういうのは深雪とか、ほのかや美月が着るような服でしょ?」

 

「エリカも十分女の子だと思うがな」

 

「何よそれ」

 

 

 不貞腐れた風を装い、エリカは達也から顔を逸らす。これが幹比古やレオだったら容赦なく叩くことが出来るのだが、相手が達也だとどうも調子が狂うようで、エリカは自分の顔が赤くなってるのを自覚し、それを見られないように逸らしたのだ。

 

「達也くんは、あたしがこんなフリフリがいっぱいの服を着て、本当に似合うと思ってるの?」

 

「可愛いとは思うぞ。だが、エリカのイメージは動きやすい服って感じだから、実際に見てみなければ似合うかどうかは分からん」

 

「……お世辞を言わないのが達也くんのいいところよね。万が一似合うとか言ったら、脛を蹴り上げて……」

 

「どうかしたのか?」

 

「ううん、達也くんの脛は固いんだったって思い出しただけ……昔蹴って痛い目に遭ったのはあたしだったとね」

 

 

 入学早々の新勧期間の時の事を思い出したのかと、達也は懐かしく思い笑みを浮かべたのだった。

 

「じゃあ、達也くんが見たいっていうなら試着してみようじゃないの。言っとくけど、似合わなかったからって笑わないでよね」

 

「大丈夫だ。エリカなら可愛いと思うぞ」

 

「もう!」

 

 

 慌てさせようにも、こうして素面で迎撃されてはさすがのエリカも退却を余儀なくされる。試着室に逃げ込み、顔の赤みが引くのを待ってから、エリカは達也に感想を求める為試着室の扉を開けた。

 

「……どう、かな?」

 

「可愛いぞ。普段そういう服を着てない分、より可愛く思える」

 

「お世辞でも嬉しい、ありがとう」

 

「お世辞ではなく本心なのだが」

 

「……バカ!」

 

 

 達也の賛辞に耐えられなくなり、エリカは慌てて試着室の扉を閉め、元着ていた服に着替え直したのだった。

 

「買うのか?」

 

「こんな服を買ったってバレたら、兄貴や行き遅れ陰険ババアに笑われちゃう」

 

「そうか? 可愛いんだから、気にすることは無いと思うんだが」

 

「うぅ~……じゃあ、買ってくれる?」

 

 

 上目遣いでおねだりするエリカに、達也は頷いてその服を購入するのだった。後日、寿和と修次はエリカのその服装を見て、自分たちはシスコンだったのかと自覚するのだった。




そう言えば、すっかり三高女子の事を忘れてたな……話、考えなきゃ……

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