達也の時間を無駄にしないために、二人ないしは三人で行動する事が多い事は聞いているし、実際姉たちも集団行動だったと聞いている。それは別に構わないのだが、何故この組み合わせなのかと、二人は少々疑問に思っていたのだった。
「えっと、貴女確か、七草先輩の妹さんの」
「七草香澄です。そういう先輩は確か、平河千秋さん、ですよね」
「ええ、よく知ってるわね」
「風紀委員の要警戒リストに名前がありましたから」
「もうテロ行為なんてしないわよ!」
過去に思い込みを利用され、テロの手助けをした過去のある千秋としては、風紀委員に警戒されていると言うことに辟易としていた。魔法技能の劣る二科生だった頃ならあまり警戒もされなかっただろうが、現在は魔工科生であるために、そういったものを作ることも容易くなったと判断されているのかもしれない。
「司波先輩はどう思いますか? 平河さんの事を警戒しておいた方が良いと、本当に思いますか?」
「千秋のあの行動は、周公瑾に利用されたことが原因だから、今はそれほど警戒する必要は無いだろう。だいたい、あのリストは千代田先輩が個人的に気に入らない相手も入っているから、あまり信用しない方が良いぞ。幹比古には捨てるように言っておいたのだが、まだあるのか?」
「吉田先輩では、誰が本当に注意するべきなのかを絞れないそうなので、近いうちに北山先輩が選別するとかしないとか聞きましたが」
「というか、あのリストに書かれてる生徒の大半は卒業生だろ、もう」
花音が作ったと言う事は、大抵が卒業生か、新三年生で構成されたリストであることは、容易に想像出来る。だからすべて処分しても構わないとは達也は思っているのだが、もう風紀委員ではないのであまり首を突っ込まないようにと考えたのだろう。
「そもそも、何で私が載ってるのよ! 千代田先輩に何かをしようとした覚えはないわよ」
「五十里先輩を巻き込もうとしたからじゃないか? あの人は五十里先輩第一だからな」
「今思うと、婚約者だからって理由でイチャイチャしてたのは、ちょっと問題だったんじゃ……それが許されるなら、僕だって」
「司波君は特殊だから、一人がイチャイチャし始めたら、授業どころじゃなくなると思うわよ? まぁ、婚約者で同じクラスなのは私だけだから、圧倒的有利ではあるんだけど」
「いや、そんなことが許されるようになったら、先輩たちの大半が魔工科に転籍するでしょうから、学校としても許したくないでしょうね」
「そもそも、もう進路希望は受け付けてないだろ」
この時期になって決まってない生徒はいないし、現状維持を望んでいて気持ちが変わったとしても、時すでに遅しである。真夜が婚約者の決定を春先にしたのはその意図もあったのかもしれない。
「ところで、今日は何処に行くんだ?」
「この先にあるカフェです」
「カフェ? すぐそこにもあるんだが」
「この先のカフェじゃなきゃ意味がないの!」
「そうか」
妙に連携のとれた二人に圧倒されたのか、達也はそれ以上目的地について問う事はしなかった。
二人に連れてこられたカフェで、達也は呆気に取られていた。噂には聞いたこともあったし、実際にそういう店が人気であるという話も聞いたことはあった。だが、自分がそういう店に入ることになるとは思ってもみなかったのだった。
「司波先輩、猫ですよ! あぁ、持って帰りたい……」
「司波君、この子可愛くない? 何でこんなに可愛いんだろう……」
「猫カフェなど、この街にあったんだな」
猫と戯れる二人を見ながら、達也はコーヒーを静かに飲んでいる。他の客の大半は猫と戯れる目的なのか、あまり飲み物に手を付けている人はいない。
「てか、こういう店は男子禁制になっていると聞いたが、俺がいて良いのか?」
「私たちと一緒ですから、特に問題はないですし、司波先輩はカメラを持ってませんから」
「こういう場所が男子禁制になっているのは、猫を撮るフリして無防備な女子を盗撮する変態が多いからだって聞いてる。でも、司波君にそんな趣味ないでしょ?」
「あぁ、まったくないな」
達也がはっきりと口にしたことに、周りの女性客は若干がっかりしたように見受けられたが、達也はその事に気付くことは無かった。
「それにしても、二人とも猫が好きだったんだな」
「ウチでは飼えないからね」
「自分で世話をすると大変だけど、こうやってたまに戯れる程度が丁度いいと思うんだよね」
「そんなものか」
香澄と千秋が猫と戯れるのを眺めながら、達也は残っていたコーヒーを飲み干す。するとそのタイミングで足元に寄ってきた猫が視界に入った。
「司波君って猫も魅了するんだ」
「文字通り、泥棒猫ですね」
「コイツオスだぞ?」
持ち上げて雌雄の確認をした達也がそういうと、香澄と千秋が纏っていた殺気は、きれいさっぱり霧散していったのだった。
「てか、今の殺気で猫たちが一斉に離れていってるんだが……」
「あぁ!? 大丈夫、怖くないよ」
「ほらほら、玩具があるよ~」
逃げて行った猫を追いかける二人を見ながら、達也は自分に懐いてきた猫を撫で、こういう日も悪くないのかもしれないと思い出していたのだった。
「お客様、店内を走るのはちょっと」
「「あっ、すみません……」」
店員に注意されている二人を見て、達也は頭痛を覚え始め、頭を押さえた手を猫が舐めたのだった。
一人組み合わせがいないことに気付き、どうしようかと考え中……一人でもいいんですがね