劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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珍しく個人になった……


IFリーナルート その1

 達也と二人きりで出かけると言う事で、リーナは妙に浮かれていた。クローゼットから自分が持っている服を全て引っ張り出し、どれが似合うかと一緒に住んでいるミアに尋ねる始末だ。

 

「もう! ミアってば似合うとしか言わないんだもん」

 

「しょうがないじゃないですか……本当に似合ってるんですから」

 

「それで、どれを着て行ったらいいかしらね?」

 

「数ヶ月一緒に住んで分かりましたが、達也様はあまり異性の服装にとやかく言うタイプではありませんので、リーナが着たい服を着ればいいのではないでしょうか? もちろん、昨年のような流行おくれの服装では、さすがに何か言われると思いますが」

 

 

 潜入捜査と言う事で、日本のファッションを一世紀遡って用意した服は、完全に周りから浮いていた。その事を思い出して、リーナは顔から火が出るような思いを再び味わっていた。

 

「嫌な事を思い出させないでよ。あれは仕方なかったんだから」

 

「仕方ないで済ませられない程のファッションでしたけどね……とりあえず、今手持ちの服ならば、流行おくれと言う事もありませんし、ご自身が着ていきたい服で大丈夫だと思いますよ」

 

「うぅ……四葉でしごかれたのか、ミアの毒舌が身に染みるわ」

 

「深雪様も水波さんも、これくらいの毒は普通に吐いてましたから」

 

 

 もちろん、達也の前では大人しいものだったが、達也がリビングからいなくなったりすれば、嫌味の一つや二つは当たり前に飛び交っていたのだ。

 

「ミユキが先にデートしてるってのが気に入らないけど、タツヤも漸くワタシと出かけられるって楽しみにしてくれてるのかしら」

 

「どうでしょうか……つい先日は他の女性とデートしていますし、デートなど飽き飽きしているのかもしれませんね」

 

「……やっぱり随分と腹の中に毒を溜め込んできたみたいね」

 

 

 婚約者は自分以外にも大勢いて、そのほとんどとデートを済ませている達也は、確かに飽きているかもしれない。あえてその事を考えなかったのに、ミアがその事を指摘してきたのを受けて、リーナはそんな感想を漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ流行のファッションで身を固めても、リーナは別の意味で目立ってしまう。深雪にも負けず劣らずと言われるくらいの見た目に、金色の長い髪がすれ違う男性を――たまに女性も――魅了し、どうしても視線を集めてしまっていた。

 

「なんか見られてる気がするわね……もしかして、また流行おくれだったのかしら?」

 

 

 待ち合わせ場所はもうすぐだというのに、リーナは今更ながらに自分の服装に自信が持てなくなり、引き返そうと踵を返した。だが、ここで逃げたら二度と二人きりなどというシチュエーションは無いかもしれないという考えが働き、そのままもう半回転して待ち合わせ場所へと向かう事にした。

 

「大丈夫。今回はミアも手伝ってくれたし、ちゃんと今風のファッション雑誌も見たんだから」

 

 

 鼓舞するように呟き、リーナは待ち合わせ場所へ歩みを進める。何やら人が多い気がしたが、日本では普通なのだろうという勘違いが働き、人が大勢いる理由を気にしなかった。

 

「ハイ、タツヤ。待たせたかしら?」

 

「いや、時間ピッタリだ」

 

 

 腕時計に目をやり、そう返す達也に、リーナは笑みを浮かべてさっそく腕を組んだ。

 

「随分と逡巡していたようだが、何を気にしてたんだ?」

 

「見えてたの!? って、タツヤなら何でもありよね……」

 

「あの距離なら普通に見えるだろ」

 

 

 達也の普通が普通ではないとツッコミたかったリーナではあるが、他人の耳がある場所で達也の特殊な眼の事を言うわけにはいかないと思い止まり、軽くため息を吐くだけにとどめた。

 

「それにしても、ワタシの順番遅すぎないかしら?」

 

「リーナは編入の手続きや、帰化の手続きなどで忙しかっただろ」

 

「そんなのは、九島の家がやってくれてたから、ワタシ自身は暇だったのよ」

 

 

 頬を膨らませて達也を睨むが、その程度で動揺するほど簡単な人物ではない。その事を十分に理解しているリーナは、すぐに機嫌を直して達也を引っ張り歩き出す。

 

「とりあえず何か食べましょ。緊張してて朝ごはん食べれなかったのよ」

 

「リーナの仕事内容を考えれば、これくらいで緊張するとは思えないんだが?」

 

「あっちはもう慣れてたからね。慣れたくなかったけど」

 

 

 達也の言う仕事内容がどんなことかは、リーナが一番理解していた。達也と違い感情があるリーナにとって、あの仕事は出来ればしたくないことだったのだ。

 

「ああいう場面の時だけは、タツヤが羨ましいと思うわ」

 

「別に好きでこういう感じになったわけではないんだがな」

 

 

 生まれつき強すぎる魔法力を暴走させないために、深雪と夕歌を使いそれを封じ、感情がトリガーにならないよう人造魔法師計画の被験者に生みの親である深夜が推薦したのだ。感情が抜け落ちたのは単なる結果論に過ぎないので、羨ましいと言われても達也にはそう答えるしかないのだ。

 

「それで、今はどのくらい制御出来るようになったの?」

 

「元々視ればその魔法がどのようなものか分かったし、解析も出来たからデータに起こすことは簡単だったが、それを二割ほど使えるくらいには慣れてきたかな」

 

「よくよく考えると、恐ろしい能力よね……見ただけで魔法を習得出来るってのは」

 

「一応練習はしなきゃ使えないんだが……」

 

 

 達也の当然のツッコミは、リーナに黙殺されたのだった。達也の言う練習が、普通の人間の半分以下の労力であることは、リーナも知っていたのでその反応もある意味当然だったのだから。




達也の特殊能力は次元が違う……

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