それなりに楽しい時間を過ごしたリーナではあったが、どうしても気になることがあり、達也に尋ねる事にした。
「タツヤが前に言ってた『軍を抜けるなら力になれる』って、あれって四葉の力って事だったの?」
「それだけじゃないが、結果的には四葉の力でリーナは軍を抜けることが出来たんだ。それで納得してくれるならそれで構わない」
「何だか気になる言い方ね……まぁ、とりあえずもう同胞を手に掛けなくていいんだから、これで嫌な思いをすることも無いでしょうね」
「さて、どうだろうな」
「どういう事?」
達也の意味深な言い方に、リーナは首を傾げる。軍属ではないのだから、もう同胞を手に掛ける事はないと思っていたのだが、どうやらそういうわけにもいかない理由がありそうだった。
「USNAが日本に攻め込んできた場合、十師族の一員である俺や深雪は当然前線に駆り出されるだろう。そして、同じく十師族の血を引くリーナもまた、場合によっては前線に駆り出される可能性がある。俺の嫁なら尚更だろうが」
「USNAが日本に攻め入る理由がないと思うのだけど……一応同盟国なんだし、日本からは――というかFLTからは色々とCADを購入したりと関係を悪化させるとUSNAの方が不利益を被るわよ」
「その技術力、そして大亜連合に攻め入る際の拠点を手に入れるという名目で、攻め入ってくる可能性も少なからずあるだろう。まぁ、リーナの実力をよく知っているUSNA軍の人間が、侵攻を善とはしないだろうがな」
「色々と考えてるのね……本当に同い年なの?」
「リーナと違って、ただ命令に従っていればよかったわけじゃないからな。自分で考えて、最善の行動を取らなければ死んでいたかもしれないことだって、一度や二度じゃないんだ」
「わ、ワタシだって考えてたわよ!」
「とにかく、完全に同胞殺しから解放されたわけではないと言う事は覚えておけ」
「人の話を聞きなさい!」
リーナの言い訳には興味もないようで、達也はリーナを引きずるように歩いていく。
「ちょ、ちょっと!」
「リーナが腕を絡めたままなんだろ。俺は普通に歩いてるだけだ」
「もう! 少しはレディに気を遣いなさいよ」
口では文句を言いながらも、その表情は何処か嬉しそうだった。形はどうあれ、達也と腕を組んで歩いている事には変わりないので、リーナはその後もニコニコと笑みを浮かべながらデートを楽しんだのだった。
四葉家が用意してくれた部屋に戻り、リーナは先ほどとは一変して重苦しい表情を浮かべていた。
「お帰りなさい……デート、楽しくなかったのですか?」
「ミア……いえ、デート自体は楽しかったわよ。タツヤの意外な一面も見れた事だし」
「達也様の意外な一面……ですか?」
「小さな女の子がタツヤにぶつかっちゃってね。泣きそうになった子の相手をワタシに任せたのよ。後で理由を聞いたら、子供は苦手なんだってさ」
「下手に関わって、泣かれてしまったら困るからでしょうか」
「あんな無表情で大きい男の人に相手されたら、子供は泣いちゃうでしょうからね」
無理矢理明るい話題で気を紛らわせたリーナであったが、それなりに付き合いの長いミアに誤魔化しは効かない。
「それで、暗い顔をしていた理由はなんなのですか?」
「やっぱり誤魔化せないわね……タツヤから、同胞殺しから完全に解放されたわけじゃないって言われてね……その理由を聞いてちょっと」
「侵攻などがあれば、私たちは日本側の人間として戦わなければいけませんので、それは当然の事ではないのでしょうか」
「ミアはね……完全に身柄は日本が――というか四葉が引き取ってくれたからいいけど、ワタシの場合は裏取引もあっての立場だからね……タツヤがベン相手に取引するとは思ってなかったし、ワタシの身柄を大人しく引き渡すとも思ってなかったから余計に……」
「リーナは元々立場的に同胞殺しも仕事でしたからね……そして、戦略級魔法師でもあるリーナを、後方支援として置いておくほど、日本軍も馬鹿ではないでしょうしね」
「タツヤやミユキ、カツトがいればそれだけで勝てそうだけどね」
他にも十師族には力のある魔法師が大勢いる。それこそ、スターズが総攻撃を仕掛けたとしても、二、三人で返り討ちに遭いそうなくらいな実力者が。
「戦闘向きじゃないとはいえ、マユミも十分な実力者だし、エリカやミキだって一対一で戦って簡単に勝てるかと聞かれれば難しいし……何より、レオの頑丈さは異常よ。常人のレベルじゃないわ」
「私がパラサイトに支配されている時に襲った少年ですね」
「幽体? っていうのを抜き取られてたらしく、ミキが言うには起きてるのも不思議なくらいだったようよ。それを短時間で回復して、パラサイト撃退の際には何の問題なく動いていたのだから……一高の男子の丈夫さは世界一かもしれないわ」
「もう戦う事もないでしょうし、そこまで気にする必要は無いのでは? USNAだって、リーナが日本にいる事は知っているのですし」
「そうだといいのだけどね……タツヤの言葉に、妙な実感が籠ってたから気になるのよ……まぁ、気を抜き過ぎるなって事なのかもしれないけど」
達也からの忠告を胸に刻み、リーナは必要以上に油断しないようにと心掛けながら、日本での生活を満喫する事にしたのだった。
可能性はゼロではない……