劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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酒の力が効いてますね……


IF大人ルート その2

 酒も入り、だんだんと遥と怜美の様子がおかしくなってきていた。はじめの方は質問に遠慮が見られたのだが、徐々にその遠慮が消え、今はかなり踏み込んだ質問までしてくる始末である。

 

「それで~、夜はどっちから求めるのかしら~?」

 

「安宿先生、俺は学生ですのでそう言う事は」

 

「またまた~。司波君は学生だけど四葉家の次期当主なんでしょ~? 跡継ぎは作らなきゃいけないでしょうし、そう言う事は遅いより早い方が良いの。だから学生だからって躊躇ってたら駄目よ~」

 

「何でエレクトロン・ソーサリスは良くて、私は駄目なのかしら……」

 

「小野先生は立候補してませんでしたし」

 

「仕事が忙しかったのよ……そういう人だっているだろうから、もう一回だけ選んでくれないかな?」

 

「無理です。一度落ちた人たちがもう一度来たら、もう一度落とさなければいけないんですから」

 

「落とす事前提なのね……」

 

 

 達也の慈悲もない言葉に、遥は少し酔いが覚めた感覚に陥ったが、実際に覚めたわけではないので、遠慮なく達也に絡み続けた。

 

「私がいれば、司波君だって諜報活動に他の人を使う必要は無いのよ? 四葉家にとっても悪い話じゃないと思うんだけど」

 

「ですから、思う事があるのでしたら当主に――母上に直訴してくださいよ。俺はあくまでも次期当主であって、何の権力も持ってないんですから」

 

「自分のお嫁さんを決める話なのに、何で司波君自身に権限がないのよ!」

 

「家庭環境を考えれば、その答えは分かると思うのですが」

 

 

 一般的な魔法師の家系ではなく、十師族の頂点とも言われている四葉家の家庭事情だ。遥の当然の言い分も四葉相手には通用しない。

 

「なら、私がどれほど役に立つか四葉家に知らしめてやるんだから! それで、当主の四葉真夜は何処にいるのかしら?」

 

「ご自分で調べたらどうです? そうすれば母上にも小野先生の優秀さが伝わると思います」

 

「そうね! それじゃあ、私はこれで」

 

 

 自分が飲んだ分のお金が入ったマネーカードを置いて、遥は店から出て行ってしまった。

 

「司波君、止めなくて良かったの?」

 

「大丈夫ですよ。いくら小野先生が優秀とはいえ、四葉家の事を調べようとすればあの言葉を思い出すでしょうし」

 

「……だから止めなくていいのか聞いたのよ?」

 

 

 怜美も、四葉家に関する他国や他家が四葉家に手を出さない理由を知っている。

 

「酔いが覚めれば、小野先生も躊躇するでしょうし、躊躇した状態で調べられるほど、四葉真夜は簡単じゃありませんので」

 

「司波君がそういうなら大丈夫なのでしょうけども、私としても同僚を失うのは悲しいから」

 

「別に消しはしませんって」

 

 

 達也が『消す』という単語を発するのになんの躊躇いも見せなかった事に、怜美は一抹の不安を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怜美と別れ、達也と響子は用意された部屋でくつろぐことにした。遥と怜美がいた時は大人しくしていた響子ではあったが、内心はかなり面白くないと苛立っていた。

 

「達也君、私が誘ったから我慢してたけど、少しあの二人に気を許し過ぎじゃないかしら?」

 

「一応学校の先生ですからね。気を悪くされてある事ない事言われたら面倒なので」

 

「そんなこと言い出しても、達也君なら問題なく解決出来たでしょ? 最悪、消しちゃえばいいんだし」

 

「酔っぱらってるんですか、響子さん? 秘密裡にならともかく、堂々と消せるわけないじゃないですか」

 

 

 嫉妬からか表現が過激になっている響子に、達也は冷静な態度でツッコミを入れる。

 

「でも、ミズ・ファントムは本気で達也君の婚約者になろうとしてたし、あの安宿怜美って人も隙あらばって感じがしたわよ? 達也君が想われてるのは知ってたけど、婚約者の前で堂々と誘惑するなんて、少し頭がおかしいんじゃないかって疑ったわよ」

 

「響子さんでも嫉妬するんですね」

 

「当然でしょ! 私たちは結構苦労して達也君の婚約者として認めてもらったのに、特例を認めるわけにはいかないのよ」

 

「まぁ、小野先生が四葉家の逆鱗に触れない限り、好きにさせてあげましょう」

 

「……ぎゅってしてくれたら我慢する」

 

 

 それが最大限の譲歩であると理解した達也は、苦笑いを浮かべながら響子を抱きしめる。婚約者の中で響子だけが少し達也と年が離れているため、若干焦りは感じているのだ。

 

「さっき安宿先生に言われたことが気になっているんですよね」

 

「まぁね……私は達也君より大分年上だし、早く子供を産みたいと思ってるのは確かだもの」

 

「ですが、母上の前で高校を卒業するまではと言ってますし」

 

「そうなのよね……達也君、今からでも前言を撤回できないかな? ほら、真夜さんだって孫は早く見たいでしょうし。家としても優秀な跡取りが出来るなら文句ないしね」

 

「それは藤林家として、ですか? それとも、九島家の縁者として、ですか?」

 

「両方、かな……ほら、光宣君は色々と問題があるし」

 

 

 達也が調べた光宣の事情は、九島家の人間でもごく一部の人間しか知らないことであり、響子も達也に聞かされるまで知らなかった。その光宣が藤林家を継ぐ話も、本人のやる気はさておき色々と問題がある。

 

「だから、ね?」

 

「……他の婚約者には内緒ですよ?」

 

「ありがとう。頑張って元気な子を産むから」

 

「気が早すぎです」

 

 

 もう妊娠した気分になっている響子に、達也は冷めたツッコミを入れたのだった。




アンタッチャブルですからね……

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