劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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IF生存ルート その2

 達也が帰宅し、それを出迎えたのは良かったが、その後が結局何もすることが無かった二人は、とりあえずリビングで達也と一緒にお茶をすることになった。

 

「はい、達也君」

 

「ありがとうございます、穂波さん」

 

「気にしないで。達也君の身の回りの世話をするのが、私の存在理由みたいなものだから」

 

「大袈裟じゃないですか? 穂波さんなら、他にもすることがあるでしょうに」

 

「ガーディアンとしては失格の部類だし、とりあえずは達也君の愛人として身の回りの世話をするくらいしかないのよね」

 

「愛人も何も、俺はまだ結婚してないんですが」

 

 

 婚約者は大勢いる達也だが、まだ結婚はしていない。正式な妻を持つ前に愛人を作るのは、いったいどうなのだと首を傾げたが、真夜に逆らえるほど達也も地盤がしっかりしているわけではない。それに穂波と一緒にいられるのなら、その関係はどのようなものでもいいのだと考え始めていた。

 

「達也様、お食事にしますか? それともお風呂? もしよろしければ私でも……」

 

「一応そういう抜け駆けをしないようにとの監視も仰せつかってるから、例え深雪さんでもそれは見逃せないわね」

 

「穂波さんだって、愛人としてそういう行為の相手をする覚悟なんですよね? 私だって勇気を出して誘ったんですから、邪魔しないでください」

 

「もちろん、達也君が望めばいくらでも相手する覚悟ですけども、私は兎も角深雪さんはまだ高校生ですから、万が一懐妊したらどうするんですか? 生徒会長としての示しもつきませんし、下手をすれば退学処分になることだってあり得るのですから」

 

 

 穂波の言い分は確かにそうだと深雪も感じた。だが、それとこれとは話が別なのではないかとも感じていたので、妙に食い下がったのだった。

 

「達也様に愛していただけるのでしたら、深雪は他に何もいりません」

 

「その気持ちは分かるけども、達也君だって深雪さんに全てを捨ててほしいなんて思ってないわよね?」

 

 

 穂波の問いかけに、達也ははっきりと分かるように頷き、そして深雪に微笑みかける。

 

「深雪にはしっかりと学業を修めてもらいたいし、俺がそういう行為をすると、本気で思ってないだろ?」

 

「も、もちろんです。達也様がそこらへんの有象無象のように、女性の身体を嘗め回すように見ていないことは知っておりますし、そういった感情もない事も……ですが、達也様は次期四葉家当主ですし、跡継ぎを作るのは早い事に越したことはありません。他の婚約者を孕ませるのでしたら、まず真っ先に深雪を孕ませてください」

 

「深雪さんって、たまに淑女らしからぬ事を堂々と言い放つわよね」

 

「こんな事、達也様の前でしか言いませんし、穂波さんが言える事ではありませんよね」

 

「私は別に淑女としての教育は受けてないですし、家柄とかそう言う事も気にしなくていいですから」

 

 

 調整体として生まれた穂波に、気にするような家柄も親の面子も存在しない。だが深雪には家柄も面子も一応存在するのだから、発言には気を付けてほしいと穂波は思っていた。

 

「深夜様はお亡くなりになられましたが、深雪さんには龍郎さんがいるのですから」

 

「あの人の面子など、潰したいくらいですけどね。達也様が世界中から受けたであろう名声を奪い取り、自分たちの道具として使おうとしていたなど……万死に値します」

 

「その辺りは、真夜様も仰られていたけど、現状は達也君の方が発言力も高くなったんだし、龍郎さんも大人しくなると思うわよ」

 

「本来なら更迭物ですが、達也様が寛大な処分で済ませてくださったのです。感謝されて当然です」

 

 

 本部長を解任させろという意見もあったのだが、達也としては面倒事をそっちに押し付けられるからという理由で、そのままの地位を確約し、減俸と今まで第三課の業績を他の部署の業績だと偽っていた事への罰だけで済ませたのだった。

 

「牛山さんが本格的に課長に昇進したお陰で、今までの業績が第三課の物だという事を証言してくださいましたからね」

 

「そりゃ、自分の課の予算に関わることですから、牛山さんとしても問題視するわよね。知らない間に成果を奪われてたんだから」

 

「第三課にばかり予算を割り振れば、他の課も大人しくしてなかったでしょうから、本部長としてはその均衡を保つ面もあったのでしょうが、これからはそんなことをする必要も無くなりましたしね」

 

「達也様が一声かければ、他の課など大人しくなりますから」

 

「達也君も、私がいなかった数年で随分と出世したわよね」

 

「いえ、そんなことは」

 

 

 穂波に褒められて、達也が照れたように深雪には見えた。達也が照れるなどあるはずないと分かっているのにも関わらず、深雪は妙に心がざわつき、最近はしっかりと制御出来ていたはずの魔法が感情の爆発によって発動しかけてしまった。

 

「深雪、落ちつけ」

 

「も、申し訳ありませんでした。私ったらつい……」

 

「その癖も相変わらずなのね。でも、確かそれって達也君の魔法力制御に深雪さんの魔法力を当てていたからじゃなかったっけ? 今は達也君の魔法力の制御に深雪さんの魔法力を使ってないのに、まだその癖は直ってないのね」

 

「感情が高ぶるとつい……」

 

 

 俯きながら反省の弁を述べる深雪を見て、穂波は思わず吹き出してしまった。まるで怒られるのが怖くて泣きそうなのを我慢している少女のようで、穂波はそんな深雪を抱きしめたのだった。




深雪が……深雪が壊れかけてる……

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