正式に深雪のガーディアンに任命されたとはいえ、いきなりすべてを一人でやれるわけではない。習い事などの送迎は達也に手伝ってもらっているし、深雪本人も自分より達也が護衛として一緒にいてくれる方が嬉しいのだと感じている。
「それでは深雪様、後程お迎えに参りますので」
「ええ、ありがとう、水波ちゃん」
美容室に用がある深雪の護衛として店まで送り届け、自分はその間の時間を使って何をしたものかと辺りを見回すと、見覚えのある双子が水波の視界内を通り過ぎた。
「あれは、七草家の双子……やはり仲がよろしいのですね」
自分にはそのような相手はいないが、仲よさそうに歩いている双子を見て、水波は自分の隣に誰かいたらと考えてしまった。
「私は四葉家のガーディアンとして一生を終える運命なのですから、そんなことを考えてる場合ではありませんね」
頭を振ってそのような甘い考えを思考の中から追いやったタイミングで、水波は自分の背後に誰か立っている事に気が付き、すぐに戦闘態勢を取った。
「おいおい、気付くの遅すぎじゃないか?」
「達也さまでしたか……いえ、少し考え事をしていましたので」
「まぁ、ミストレスがいないから別にいいが、常に周りに気を張っておかないと駄目だぞ」
「申し訳ありません。ところで、何故このような場所に達也さまが?」
辺りを見回しても、達也が個人的に来るような店は無い。誰かにプレゼントするために買いに来たとかなら納得出来るが、その場合は達也は相手を連れてくるはずだ。
「たまたまこの近くに用がありその帰りに見知った気配を感じ取っただけだ。特に何かを買いに来たとかではない」
「そうでしたか」
「それで、深雪が美容室に行ってる間、どうやって時間を潰そうか考えていたのか?」
「それもありますが、休日を共に過ごす相手がいるのは羨ましいなと思いまして」
水波の言葉に、達也は意外感を示した。何かきっかけが無ければ水波がそのような事を言いだすとは思ってないので、そのきっかけが気になったのだろうと水波は瞬時に理解し、説明を続けた。
「先ほど七草家の双子を見かけまして、休日でも一緒に出掛けるほど仲が良いのだなと思いまして」
「それで自分も誰かと出かけてみたいと思ったのか」
「その通りです。まぁ、私は四葉家の人間として、周りから距離を置かれていますがね」
達也と深雪が四葉家縁者として認識されてから、水波もその関係者として周りから警戒されている。水波本人にはそれほど力はないが、水波に何かしたら報復が怖いと勝手に思い込み距離を置かれてしまったのだ。
「七草さん――香澄さんの方はあまり気にしてない様子でしたがね」
「香澄も十師族の人間だから、周りからとやかく言われるのに慣れているのだろう」
「そんな様子でした」
「ところで、さっきから向こうで手を振ってるんだが」
「はい?」
達也にそう指摘され、水波は達也の視線を追いかけると、香澄が水波に向けて手を振っていた。
「こんにちは、桜井さん。こんなところで何してるの?」
「こんにちは、司波先輩」
「ああ、香澄も泉美も何してるんだ?」
「僕たちは普通に買い物に来ただけだよ」
「先輩がいるという事は深雪先輩もいらっしゃるんですよね? どちらに?」
「深雪様は現在、美容室にいらっしゃいます」
泉美の若干変態じみた質問に、水波はいつも通りの丁寧さを持って答えた。その答えに若干肩を落としながらも、それでもしっかりとした態度で泉美は水波と達也を眺めた。
「司波先輩と桜井さんはこんなところで何を?」
「私は深雪様の護衛としてご一緒し、深雪様の用事が終わるまでの間をどう過ごそうかと悩んでいただけです」
「司波先輩は?」
「俺はこの近くに用事があり、その帰りに水波を見かけたから声を掛けただけだ」
「じゃあさ、一緒に色々見て回ろうよ」
「ですが」
香澄の誘いに、水波は躊躇いを見せる。本音では一緒に行きたいが、深雪の事が気にかかり二人に気を遣わせてしまうのではないかと心配してしまったのだ。
「行ってくればいいじゃないか」
「ですが達也さま、深雪様の護衛は……」
「俺が引き継ごう。水波は今日一日、香澄と泉美と遊んで来ればいい」
そう言って達也は、使い捨てのマネーカードを取り出し水波に渡した。
「あの、これは?」
「小遣いだ。今日一日ゆっくりと、普通の高校生らしい日常を楽しんで来い」
「ですが、普通の日常と言われましても……」
「なんだ、司波先輩も一緒にと思ってたけど、抜け駆けはお姉ちゃんに怒られるかな」
「そうですね。最近司波先輩に会えてないと、お姉さまはイラついていらっしゃいましたし」
「この前会ったばかりなんだがな」
泉美から真由美の近況を聞かされ、達也は苦笑いを浮かべた。その間も水波は戸惑いを隠せずに美容室と双子に交互に視線を向けていた。
「それじゃあ司波先輩、桜井さんを借りていくからね」
「楽しんで来いよ」
達也にそう声を掛けられ、水波はぎこちなく一礼して香澄に手を引かれ美容室から遠ざかっていく。
「せっかく桜井さんも綺麗なんだから、お化粧とかおしゃれとかした方が良いよ?」
「いえ、私はあくまでも深雪様の護衛として一生を終える身分ですから」
「ガーディアン、でしたっけ? ですけど深雪先輩なら、守っていただく必要がないくらい強いと思うのですが」
「魔法師を相手にするとは限りませんし、最悪楯として私を使っていただく場合もありますから」
「まぁ、僕たちもかなり特殊な家の子だけど、四葉家はまた一段と特殊みたいだしね」
香澄と泉美も弁えているので、あまり深くは聞いてこなかった。既に意識が別の所に向いているのもあるのだろうが、水波は深く聞かれなくて助かったと、二人に見えないようにため息を吐いたのだった。
一ヶ月以上IFやってたら、ネタも尽きますよ……