突如休みを言い渡され、若干の戸惑いを覚えながらも、水波は七草の双子と一緒に行動する事にした。
「司波先輩、いくらくらいくれたの?」
「えっと……十万入ってますね」
マネーカードの残高を見て、水波は絶句してしまった。彼女に一般的な女子高生の感覚は分からないが、少なくとも友人と遊ぶ額にしては多すぎるとは理解出来た。
「司波先輩の金銭感覚はどうなっているのでしょうか……」
「達也さまはいろいろと収入がありますので、これくらいで懐は痛まないのでしょうが、後で残りはお返ししなければ……」
「せっかくもらったんだし、次の機会に取っておけば?」
「ですが……」
「そもそも桜井さんって、ちゃんとお給料もらってるの?」
香澄の疑問に、水波はどう答えたものかと一瞬悩んだが、香澄と彼女の姉である真由美は達也の婚約者、いずれ四葉の闇の部分も知ることになるだろうと考え、今の段階で話せるだけを話してしまおうと決意したのだった。
「私はいろいろと四葉家に援助してもらっている身ですし、この身は生まれた時から四葉家の為に尽くすと決められていますからね。お給料とか、そういった概念はありません。衣食住揃っていますし、達也さまや深雪様は私にも優しく接してくださいますから、入用な際には経費として出してくれますので」
「ちょっと待って……今、生まれた時からって言った?」
「はい。私は四葉家の研究によって生み出された魔法師ですので、四葉の為に生き、必要とあらば躊躇なく命も投げ出します」
「それは……ウチも色々とあるけど、やっぱり四葉って怖いよ……」
「まぁ、達也さまや深雪様は、私に死ねと命じる事はないでしょうけどもね」
「深雪先輩がそのような事を言うはずはありませんわね。司波先輩も、いろいろと常識外れの力をお持ちですので大丈夫でしょうけど……先の暴漢に襲われた時も、司波先輩は深雪先輩と桜井さんを気遣ってましたし」
「泉美も助けてもらったんでしょ?」
その現場にいなかった香澄が、相槌感覚で泉美に問うと、その時の事を思い出して泉美の身体が震えだした。
「お、おい? そんなに暴漢に囲まれたのが怖かったのか?」
「いえ、そっちではなく……」
十師族・七草家の末娘として、それなりに修羅場は経験してきたし、殺気というものがどういうものなのかも経験してきた。だが、そんな経験など全く役に立たないくらい、達也の殺気は恐ろしいものであり、あれを敵に回したら全てが終わると一瞬で理解させられるほどの迫力だったのだ。
「あの時は達也さまの実力の半分も発揮されていませんよ」
「確かに、殆ど魔法は使われてなかったように見えましたし、体術だけで暴漢たちを撃退したと警察からも聞かされました」
「達也さまお得意の魔法は、軍事機密にも指定されるくらいですし、知られれば達也さまの自由がより無くなってしまいますからね」
「お姉ちゃんは知ってるみたいだったけどね」
「七草真由美様は、横浜事変の際に達也さまお得意の魔法をご覧になられたようですからね」
分解はマルチ・スコープで、再成は目の前で見せられ、真由美は達也の得意魔法を見た。その時は畏怖の情を抱いたが、すぐに「達也なら何でもありか」という考えに至ったのだった。
「僕も見てみたい気がするけどね」
「そのような軽い気持ちで言われて見せられるような魔法ではありませんし、下手をすれば七草さんが自信を失ってしまうくらいの力の差を見せつけられますよ」
「そんなになの? これでも僕は自分の力に自信があるんだけど」
「全ての魔法師の敵となれるのが達也さまですので、七草さん一人で――いえ、二人で挑んだとしても一瞬で消されますよ」
「そう言えば入学早々、七宝と戦った時、僕たちの魔法も、七宝の魔法も一瞬でかき消されたけど、あれって術式解体だったんだよね?」
「私はその場にいませんでしたので何とも言えませんが、恐らくナイトロゲン・ストームとミリオン・エッジを同時に無効化したのでしたら、術式解体ではないと思います」
「ですが、魔法式を吹き飛ばす魔法は、術式解体くらいしかないと思いますけど」
「一般的には知られていない魔法ですからね」
それ以上は説明出来ないと、水波は双子から視線を逸らして話題を打ち切った。
「謎が増えたけど、まぁ司波先輩なら何でもありっぽいし、お姉ちゃんも気にしてない様子だし僕も別に気にしないでおこうかな」
「そう…ですわね……恐らく聞いたところで教えてくださらないでしょうし、深雪先輩に聞いて嫌われたら嫌ですしね」
「泉美はその、百合思考どうにかならないの?」
「ゆ、百合じゃないです! この感情は憧れや尊敬であって、決してそういうものでは……」
「別にそういう世界があるのを否定はしないけど、司波先輩の婚約者になってるんだし、泉美の妄想とはいえ失礼だと思うけどな」
「そう言えば、七草さんは達也さまの事をお名前でお呼びしないのですか? 婚約者なのですから、変に遠慮する必要は無いと思うのですが」
「僕はちょっとね……そういうの緊張しちゃうし……そうだ、桜井さんも僕たちの事を名前で呼びなよ。お姉ちゃんの事をフルネームで呼んでたけど、大変じゃない?」
「そうですね。私たちも水波さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。では私も、香澄さん、泉美さんと呼ばせていただきますね」
将来的には主になる香澄や、十師族の直系である泉美に対してとる態度ではないかもしれないが、水波は二人の事を名前で呼ぶことにしたのだった。
意外としっくりくる組み合わせです