劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実際どうなんでしょうね……


惚れた理由

 達也から貰った小遣いでお茶をし、三人分の支払いを済ませた水波に、香澄は友好的に、泉美は申し訳なさそうにお礼を言った。

 

「ご馳走様、水波さん」

 

「あの、やっぱり自分たちの分は支払いますよ」

 

「いえ、恐らくですが、達也さまでもこうしたでしょうし、実際私も達也さまに奢っていただいたようなものですので」

 

「そうでしたね……では、司波先輩にご馳走様でしたとお伝えください」

 

「泉美、友達相手に口調が固すぎるよ。もう少しフレンドリーに出来ないの?」

 

「そう言われましても……香澄ちゃんのような態度は私には無理ですよ」

 

「別に僕みたいになれとは言わないし、泉美が僕みたいな喋り方になったら、それはそれで怖いけどさ……せっかく仲良くなれたんだから、気持ち頑張るくらいしてみようよ」

 

 

 香澄にいわれ泉美は少し戸惑いながらも、口調を崩そうと葛藤しているのが水波には見て取れた。

 

「無理に口調を変える必要はありませんよ。私だって、あまり友好的とは取れない口調ですし」

 

「水波さんはほら、昔から使用人として過ごしてきたわけだし、そういった口調が抜けきらないのは仕方ないけど、泉美は別に喋り方を強制されてたわけじゃないんだから」

 

「香澄ちゃんのようになるなと、兄さんから言われたことはありますけどね」

 

「えっ!? てか、兄さんは僕の口調なんて気にしてないんじゃないの?」

 

「前に一度だけ、香澄ちゃんが素の状態で話してるのを見たことがあるようでして、その後すぐに私にああはなるなと……」

 

「酷い……そんなに酷い喋り方なんてしてないのに……」

 

「複雑な家庭環境であるのは存じてますが、香澄さんたちのご兄妹は達也さまと深雪様の関係とは似ても似つかないのですね」

 

 

 感慨深そうに呟いた水波に、香澄と泉美が同時に反応して見せた。

 

「司波先輩たちの関係の方が異常なんだよ!」

 

「そうですわ! 深雪先輩たちの仲睦まじい関係など、普通の兄妹ではありえませんわ!」

 

「だいたい、司波先輩と司波会長は仲が良すぎるよ!」

 

「深雪先輩にあそこまで近づけるなど……司波先輩が妬ましい――じゃなかった、羨ましいですわ!」

 

「そ、そうなのですか? 四葉家の分家筋に当たる家にもご姉弟がいらっしゃいますが、そちらも仲がよろしいので、それが一般的な関係なのかと思っていました」

 

「そんな事ないって。桜井さんも知ってるところでは、千葉先輩の家だって兄妹の仲はそこまでいいわけじゃないし」

 

「長兄の寿和さんは千葉先輩をからかい過ぎて嫌われ、次兄の修次さんは、渡辺先輩とお付き合いを始められて気まずい感じになられたとか」

 

 

 交互に勘違いを正そうとしてくる双子相手に、水波は思わず距離を取ってしまう。

 

「私が勘違いしていたという事は分かりましたので、お二方どうか落ち着いてください」

 

 

 二人を落ち着かせてから、水波はこの際だからずっと聞いてみたいと思っていたことを二人に聞くことにした。

 

「お二人は七草真由美様が達也さまを気に入った理由をご存知ですか?」

 

「お姉ちゃんが司波先輩を?」

 

「服部先輩のようにからかおうとしていたのは知っていますが、返り討ちに遭ったとか」

 

「まぁ、服部先輩のような反応を司波先輩に求めたところで無駄だけどね」

 

「私も詳しくは知らないので、七草真由美様の妹であるお二人なら何か知っているかと思ったのですが……そうですか、お二人でも知らないのですか」

 

「案外、一目ぼれだったりして」

 

「お姉さまはそんなに簡単な人じゃないと思いますが……」

 

「でも、あって早々に男の人を名前で呼ぶなんて、からかい甲斐がある以外じゃ精々仇名だと思うんだけど。現に十文字さんだってずっと苗字で呼んでたわけだし」

 

「そう言われれば……十文字様とは入学前から面識はありましたし、それなりに親しかったわけですから名前で呼んでいても不思議はなかったですね……ですが、お姉さまは十文字様の事は苗字で呼び続けてました……服部先輩は嫌がらせも込めて名前で呼んでいましたが、司波先輩の場合、何故名前で呼んでいたのかが分かりませんね」

 

「でしょ? お姉ちゃんが名前で呼ぶなんて、渡辺さんくらいだったし。形式上ちゃんとしなきゃいけない時は中条先輩や市原さんの事も名前で呼んでたけど、基本的に仇名だったし」

 

 

 自分たちの姉の事で頭を悩ませ始めた双子に、水波は両手を振って二人の思考が深みにはまっていくのを止める事にした。

 

「とりあえずお二人でも分からないという事が分かりましたので、今日の所はこのくらいで大丈夫です。時間もありますし、何か食べましょうよ」

 

「うーん……まっ、そうだね。何か甘いものでも食べようよ」

 

「さっきのお店は軽食しかありませんでしたし、甘いものは私も食べたいです」

 

「それでは、何処かよさそうなお店を探しましょう」

 

「でも、水波さんは良いの? 買い食いなんてしたら怒られるんじゃ」

 

「達也さまも深雪様も、そのような事では怒ったりしませんよ。むしろ深雪様には感謝されるかもしれませんがね」

 

「「?」」

 

 

 水波の帰りが遅くなるという事は、それだけ達也との時間が増えるというわけで、深雪的には非常に嬉しい展開なのだ。現在ミアもリーナの手伝いで家を空けているので、二人きりになれば自然と深雪が達也の世話をする口実も出来るのだ。

 なんとなく他の婚約者に対して罪悪感を覚えながらも、水波は二人の友人と共に甘いものを食べるべく店を探したのだった。




一目ぼれなんでしょうかね……

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