部活に来たは良いが、集まりが悪く結局ろくに動けなかったエリカは、このまま帰るのもなんだなと思い、生徒会室を襲撃する事にした。
「――てな感じでミキのヤツがサボってたから、後で雫から言ってやってよ」
「何で私? 吉田くんが風紀委員長で、私は平の風紀委員なんだけど」
「だって、皆雫の事を『影の風紀委員長』って呼んでるよ」
「私は別に、裏で風紀委員を牛耳ってるわけじゃない」
「まぁまぁ、雫の事を尊敬してる人が多いって事で納得しておこうよ」
ほのかがフォローに回ったが、雫の機嫌はあまり良くならなかった。それどころか、ますます拗ねてしまったようで、無言で達也の膝の上に座り始めた。
「雫、作業し辛いんだが」
「………」
「雫? 達也様の膝の上に座るなんて、なんとも羨まし――いえ、羨ましい事をしているのかしら?」
「深雪様、表現が変わっておりません……」
本音を隠し切れなかった深雪に、水波が弱めのツッコミを入れるが、その程度で深雪の嫉妬の炎は消えなかった。
「雫は普段から達也様に頭を撫でてもらったり、膝の上に座ったりと抜け駆けが過ぎると思うのだけど」
「私より深雪の方がズルいでしょ? 一緒に住んでたり、毎日達也さんのご飯作ったり」
「私は別に、肉体的接触があるわけじゃないもの」
「しようと思えばいつでも出来る状況が羨ましいって事だよ」
「私は雫の行動力が羨ましいけどね」
互いに睨み合いながらも、何処か羨ましそうな空気を隠しきれていない。そんな空気が生徒会室に充満しているというのに、達也と、この件にまったく無関係な泉美は黙々と作業を続けていた。
「達也さん、そろそろ止めないとマズいと思うんですけど……」
「そうだな。深雪も雫も、そろそろ大人しくしないと閉門時間までに終わらないぞ」
「そうですわね。さすが達也様です」
「達也さんがそう言うなら」
「あ、あれ? それで大人しくなるの?」
ほのかからしてみれば、達也の仲裁は些か弱いような気がしていた。だが深雪も雫も大人しく退き、深雪に関していえば物凄いスピードで仕事を片付けている。
「いやー、さすが達也くんね。あんな一言で二人を大人しくさせるんだから」
「そもそもエリカ、生徒会室は関係者以外立ち入り禁止なんだが」
「細かい事はいいじゃない。あたしは、達也くんの関係者って事で。それに、雫だって入り浸ってるんだから今更だと思うけど」
「雫は風紀委員だから、まだ何とかなるんだよ。渡辺元委員長も入り浸ってたから、風紀委員は割かし生徒会に近いと思われてるからな」
「結構近いと思うわよ、部活連より」
エリカの一言に苦笑いを浮かべた達也ではあったが、実際生徒会とどちらが親密な関係かと聞かれれば、風紀委員と答えるだろう。直通の階段があったり、風紀委員長と生徒会書記長が友人だったり、影の風紀委員長が書記長の婚約者だったり、生徒会長の友人だったりと、個人の関係性が強く見られるのは風紀委員だ。
「部活連は、服部先輩がいたからね」
「それが?」
「あの人、七草先輩の事が好きだったでしょ? でも、達也くんに取られちゃったから」
「お姉さまは服部先輩の事をなんとも思ってませんでしたけどね」
自分の分の仕事を済ませた泉美が、達也とエリカの会話に割って入ってきた。
「まぁ、確かに遊ばれてるようにしか見えなかったけど、それでも服部先輩は幸せだったんじゃないかな」
「確かに、服部先輩はお姉さまに弄られてどこか幸せそうでしたが、あのような方にお姉さまの隣は似合いませんよ」
「確かにねぇ~。達也くんが隣に立ってたのを見たら、服部先輩じゃ力不足よね」
「悔しいですが、司波先輩なら大抵の人の隣にいても不思議ではありませんからね……本当に悔しいですが」
泉美は視線を深雪に向けており、エリカは何を悔しがってるのかを理解した。
「諦めなさいな。深雪の達也くんラブは揺らがないし、貴女じゃ達也くんに太刀打ち出来ないでしょ? 香澄の方は婚約者なんだから、得意魔法も使えないでしょうし」
「別に正面から魔法を撃ち合わなくても、陰でこっそり――」
「ダメダメ、達也くんに待ち伏せや闇討ちが効くわけないよ。ね?」
エリカに問われ、達也は苦笑いでそれに答える。存在を探ることが出来る達也にとって、待ち伏せも闇討ちも全く効果がない事をエリカは知っているが、泉美はその事を知らない。よって苦笑いを浮かべるにとどめたのだが、その会話にほのかも加わってきてしまったのだった。
「達也さんに仇成すのなら、泉美ちゃんでも容赦しませんから」
「ほのか、エリカのも泉美のも冗談だから本気にするな」
「ですが、達也さんの事を妬ましいと思っているようですし、わ、私だって達也さんの役に立ちたいんです」
「ほのかは役に立ってると思うけどね~。その美月にも負けてないもので」
「司波先輩、不潔です」
「泉美ちゃん?」
「じょ、冗談です、深雪先輩」
「あはは……あたしも冗談だったんだけどな……」
突如冬に逆戻りした生徒会室で、泉美とエリカの乾いた笑いが響いた。ほのかと雫は達也の背後に、水波は慣れた手つきで障壁を張り冷気の侵略を防ぎ、達也は深雪を指差し、そして深雪は我に返った。
「も、申し訳ありません、達也様」
「いや、今のはエリカと泉美の自爆という感じだったがな」
「ほのかや雫も、関係ないのにごめんなさいね」
「いいよ、気にしないで」
「こうして達也さんにしがみつけたから問題ない」
雫の一言に、再び冷気が漏れ出しかけたが、ぐっと我慢して仕事を終わらせることを優先した深雪であった。
甘えてる雫は可愛いな