劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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女王様が降臨召された……


極寒の生徒会室

 部活に来たは良いが、集まりが悪く結局ろくに動けなかったエリカは、このまま帰るのもなんだなと思い、生徒会室を襲撃する事にした。

 

「――てな感じでミキのヤツがサボってたから、後で雫から言ってやってよ」

 

「何で私? 吉田くんが風紀委員長で、私は平の風紀委員なんだけど」

 

「だって、皆雫の事を『影の風紀委員長』って呼んでるよ」

 

「私は別に、裏で風紀委員を牛耳ってるわけじゃない」

 

「まぁまぁ、雫の事を尊敬してる人が多いって事で納得しておこうよ」

 

 

 ほのかがフォローに回ったが、雫の機嫌はあまり良くならなかった。それどころか、ますます拗ねてしまったようで、無言で達也の膝の上に座り始めた。

 

「雫、作業し辛いんだが」

 

「………」

 

「雫? 達也様の膝の上に座るなんて、なんとも羨まし――いえ、羨ましい事をしているのかしら?」

 

「深雪様、表現が変わっておりません……」

 

 

 本音を隠し切れなかった深雪に、水波が弱めのツッコミを入れるが、その程度で深雪の嫉妬の炎は消えなかった。

 

「雫は普段から達也様に頭を撫でてもらったり、膝の上に座ったりと抜け駆けが過ぎると思うのだけど」

 

「私より深雪の方がズルいでしょ? 一緒に住んでたり、毎日達也さんのご飯作ったり」

 

「私は別に、肉体的接触があるわけじゃないもの」

 

「しようと思えばいつでも出来る状況が羨ましいって事だよ」

 

「私は雫の行動力が羨ましいけどね」

 

 

 互いに睨み合いながらも、何処か羨ましそうな空気を隠しきれていない。そんな空気が生徒会室に充満しているというのに、達也と、この件にまったく無関係な泉美は黙々と作業を続けていた。

 

「達也さん、そろそろ止めないとマズいと思うんですけど……」

 

「そうだな。深雪も雫も、そろそろ大人しくしないと閉門時間までに終わらないぞ」

 

「そうですわね。さすが達也様です」

 

「達也さんがそう言うなら」

 

「あ、あれ? それで大人しくなるの?」

 

 

 ほのかからしてみれば、達也の仲裁は些か弱いような気がしていた。だが深雪も雫も大人しく退き、深雪に関していえば物凄いスピードで仕事を片付けている。

 

「いやー、さすが達也くんね。あんな一言で二人を大人しくさせるんだから」

 

「そもそもエリカ、生徒会室は関係者以外立ち入り禁止なんだが」

 

「細かい事はいいじゃない。あたしは、達也くんの関係者って事で。それに、雫だって入り浸ってるんだから今更だと思うけど」

 

「雫は風紀委員だから、まだ何とかなるんだよ。渡辺元委員長も入り浸ってたから、風紀委員は割かし生徒会に近いと思われてるからな」

 

「結構近いと思うわよ、部活連より」

 

 

 エリカの一言に苦笑いを浮かべた達也ではあったが、実際生徒会とどちらが親密な関係かと聞かれれば、風紀委員と答えるだろう。直通の階段があったり、風紀委員長と生徒会書記長が友人だったり、影の風紀委員長が書記長の婚約者だったり、生徒会長の友人だったりと、個人の関係性が強く見られるのは風紀委員だ。

 

「部活連は、服部先輩がいたからね」

 

「それが?」

 

「あの人、七草先輩の事が好きだったでしょ? でも、達也くんに取られちゃったから」

 

「お姉さまは服部先輩の事をなんとも思ってませんでしたけどね」

 

 

 自分の分の仕事を済ませた泉美が、達也とエリカの会話に割って入ってきた。

 

「まぁ、確かに遊ばれてるようにしか見えなかったけど、それでも服部先輩は幸せだったんじゃないかな」

 

「確かに、服部先輩はお姉さまに弄られてどこか幸せそうでしたが、あのような方にお姉さまの隣は似合いませんよ」

 

「確かにねぇ~。達也くんが隣に立ってたのを見たら、服部先輩じゃ力不足よね」

 

「悔しいですが、司波先輩なら大抵の人の隣にいても不思議ではありませんからね……本当に悔しいですが」

 

 

 泉美は視線を深雪に向けており、エリカは何を悔しがってるのかを理解した。

 

「諦めなさいな。深雪の達也くんラブは揺らがないし、貴女じゃ達也くんに太刀打ち出来ないでしょ? 香澄の方は婚約者なんだから、得意魔法も使えないでしょうし」

 

「別に正面から魔法を撃ち合わなくても、陰でこっそり――」

 

「ダメダメ、達也くんに待ち伏せや闇討ちが効くわけないよ。ね?」

 

 

 エリカに問われ、達也は苦笑いでそれに答える。存在を探ることが出来る達也にとって、待ち伏せも闇討ちも全く効果がない事をエリカは知っているが、泉美はその事を知らない。よって苦笑いを浮かべるにとどめたのだが、その会話にほのかも加わってきてしまったのだった。

 

「達也さんに仇成すのなら、泉美ちゃんでも容赦しませんから」

 

「ほのか、エリカのも泉美のも冗談だから本気にするな」

 

「ですが、達也さんの事を妬ましいと思っているようですし、わ、私だって達也さんの役に立ちたいんです」

 

「ほのかは役に立ってると思うけどね~。その美月にも負けてないもので」

 

「司波先輩、不潔です」

 

「泉美ちゃん?」

 

「じょ、冗談です、深雪先輩」

 

「あはは……あたしも冗談だったんだけどな……」

 

 

 突如冬に逆戻りした生徒会室で、泉美とエリカの乾いた笑いが響いた。ほのかと雫は達也の背後に、水波は慣れた手つきで障壁を張り冷気の侵略を防ぎ、達也は深雪を指差し、そして深雪は我に返った。

 

「も、申し訳ありません、達也様」

 

「いや、今のはエリカと泉美の自爆という感じだったがな」

 

「ほのかや雫も、関係ないのにごめんなさいね」

 

「いいよ、気にしないで」

 

「こうして達也さんにしがみつけたから問題ない」

 

 

 雫の一言に、再び冷気が漏れ出しかけたが、ぐっと我慢して仕事を終わらせることを優先した深雪であった。




甘えてる雫は可愛いな

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