劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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責められると弱い幹比古……


幹比古への訊問

 見回りを終え風紀委員会本部に戻ってきた幹比古は、留守番してたはずの雫がいないのを確認して、直通の階段を昇り生徒会室へ顔を出した。

 

「北山さん? 見回り終わったからそろそろ――っ!?」

 

 

 突如寒気に襲われた幹比古は、ついつい身構えてしまったが、ピクシーが幹比古を出迎え、そしてお茶を出され素直にそれを受け取り飲んだのだった。

 

「あら、吉田くん。どうかしましたか?」

 

「い、いえ……深雪さん、見回り終わりました。異常ありません」

 

「はい、確認しますね」

 

 

 幹比古から渡された資料に目を通し、確認の印を押し幹比古へ返す深雪。その表情は何時ものすべての人を魅了するようなものではなく、少し苛立ちが見て取れた。

 

「何かあったのですか?」

 

「いえ、何もありませんよ? それよりも、吉田くんは美月の事をどう思っているのです?」

 

「っ――えほえほ……い、いきなりなんですか」

 

「いえ、さっきエリカが人気のない場所で吉田くんと美月が逢引きしてたというものですから」

 

「エリカっ!」

 

「あたしはそこまで言ってないわよ」

 

 

 悪びれることも無く答えるエリカに、幹比古は頭を押さえた。本当に見回りの途中で会っただけなのに、誤解されては自分だけではなく美月にまで迷惑が掛かってしまうと考えたのか、幹比古は必死に弁明を始めた。

 

「あれは本当に見回りの途中でたまたま会っただけなんです。決してそんなつもりは無かったですし、柴田さんもたまたまだって言うはずですし、その……とにかく誤解なんです!」

 

「あらー? 誤解なら何でそんなに慌てるのかしら? 何かやましい気持ちがあったから慌てるんじゃないの?」

 

「エリカ! いい加減にしてくれ!」

 

「なら、ミキが美月の事どう想ってるのか教えてくれる? そうすれば勘弁してあげなくもないわよ?」

 

「何でそんなこと――あ、あの? 何で皆さん迫ってくるんですか?」

 

 

 自分たちの恋が順調に行っているからといえ、他人の色恋沙汰に興味が無いわけではない。何せこの場にいる殆どがそう言った話に興味津々なお年頃の女子なのだ。幹比古は唯一助けてくれそうな相手に視線を向けたが、残念な事に助けてもらえそうになかった。

 

「た、達也、助けて!」

 

「すまんな、こうなったエリカたちを止める事は出来ない。それは幹比古だって分かってるんだろ?」

 

「で、でも! 達也なら何とか出来るんじゃないのか!?」

 

「泉美、助けた方が良いと思うか?」

 

「いえ、この際ですし吉田先輩にははっきりと気持ちを仰っていただいた方がよろしいと思います」

 

「だそうだ。本人の耳に入るわけじゃないんだし、大人しくエリカたちの相手をするんだな」

 

「は、薄情者!」

 

 

 エリカと雫に両脇を抑えられ、風紀委員会本部に引き摺られて行く幹比古を、達也と泉美は見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が長を務める組織の本部だというのに、幹比古は非常に居心地の悪い思いをしていた。正面にエリカ、背後に深雪、側面にほのかと雫、四方を囲まれ逃げ場のない今、幹比古に出来る抵抗は無言を貫くことだけだった。

 

「さっさと白状した方が楽になれるわよ?」

 

「エリカ、随分と悪役が板についてるわね」

 

「訊問とかはあたしが一番でしょうしね。それで、美月と付き合いたいの?」

 

「え、エリカには関係ないだろ!」

 

「関係なくないわよ。美月はあたしの親友だし、アンタともそれなりに長い付き合いなんだから」

 

 

 もっともらしい事を言っているが、エリカの表情は実に楽しそうに幹比古には見えた。他人様の色恋に首を突っ込み、面白おかしくしてやろうという気が、エリカからはっきり伝わってきたのだった。

 

「だいたいさ~、アンタたち分かりやす過ぎるのよね~。自分たちは誤魔化してるつもりかもしれないけど、二人で話してる時の表情、すっごく楽しそうよ」

 

「それに、何かと二人でいる事が多い気がするし、吉田くんは美月の事を特に気に掛けてるのがバレバレ」

 

「アンタは達也くんが他の女子に囲まれてるのを見て嫉妬してたっぽいけど、アンタも周りから嫉妬されてたのよ、気付いてた?」

 

「いや……」

 

 

 自分は普通に美月と談笑してただけで、達也みたく複数の女子に囲まれ、好意を向けられていたわけではない。達也に嫉妬する男子生徒が大勢いるのは幹比古も知っているが、まさか自分も嫉妬される側だったとは知らなかったようだ。

 

「美月、結構人気ですものね」

 

「おっとりとしてるし、分け隔てなく優しいものね」

 

「おっとりって言うか、ぽやっとしてる感じがするけどね」

 

「それに、あの胸……」

 

 

 雫の一言で、場の空気が凍った。深雪もエリカもほのかも立派なものを持っているので特に気にしないが、雫は自分の物が小さいのを気にしているし、幹比古は特に意識してなかったが急に美月の身体の一部を思い浮かべ、顔を真っ赤にした。

 

「ほんと、男ってスケベね。ウチの馬鹿兄貴みたい」

 

「ち、違う! 僕はそういう意味で柴田さんを見てるわけじゃ……」

 

「じゃあ、どういう思いで見てるっていうのよ!」

 

「そ、それは……一人の女の子として見てるよ……エリカたちが思ってるような邪な想いじゃない」

 

「まぁ、そんなことは最初から分かってるけどね。ミキがそんなスケベ心で美月を見てるわけじゃないって」

 

「さすがエリカ、迫真の演技だったわよ」

 

 

 女子の反応を見て、自分は嵌められたのだと理解した幹比古は、ガックリと肩を落とし盛大にため息を吐いたのだった。




悪女が三人……

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