風紀委員本部にあるＣＡＤのメンテナンスは、基本的に達也が任されている。一年の時は自分が風紀委員の一員だったのでまぁ納得はしていたが、生徒会に移籍した今でもメンテナンスをさせられるのは、些かおかしいのではないかと考えていた。
「何時も悪いね」
「本当にそう思ってるなら、自分たちでメンテナンスしたらどうだ」
「僕や北山さんもだけど、ＣＡＤは道具として見てるからね。こういう事はプロに任せて、僕たちはそのプロが組み上げてくれたものをうまく使うだけだ」
「俺はプロではないし、そもそも風紀委員の備品を使ってないだろうが」
「まぁ、魔法式をインストールさせるのも、達也に頼んだ方が確実だからね。わざわざ達也に設定を弄ってもらうのもあれだし、最初から自分のを使えばいいだけだからね」
「じゃあ何で俺にメンテナンスを頼むんだ。殆ど使われていないんだから、しっかりと保管しておけば問題ないだろ」
達也の言う通り、定期的にメンテナンスするからには、それなりに使われているはずなのだろうが、前に達也が確認したときのままのＣＡＤも多く、毎度毎度メンテナンスする理由は無さそうに思えるのだ。
「見回りで使う人もいるんだから、しっかりとチェックしておいてほしいんだ。自分のＣＡＤから起動式を移し替えて使ってる人も少なくないからね」
「まぁ、俺が初めて来た時よりかはきれいになってるし、ＣＡＤもちゃんと使われてるようだが……使われてないものの方が明らかに多いだろ。一度整理したらどうだ」
「そんなこと言われても、僕はＣＡＤに詳しくないし、整理するにしてもどれを捨てて良いのか分からないから」
「捨てるのはもったいないものもいくつかあるしな。ちゃんとしたところに持っていけば、かなりの値が付く物も少なくないだろう」
「えっ、そうなの？ そりゃ達也が細心の注意を払って整理するわけだね」
「別に俺個人の持ち物ではないのだから、俺に何らかの利益があるわけじゃない」
幹比古とそのような話をしていたら、来客を告げるチャイムが風紀委員会本部に鳴り響いた。
『吉田くん、いるー？』
「千代田先輩？ 今開けます」
元風紀委員長である花音が、律儀にチャイムを鳴らしてから本部へと足を踏み入れる。彼女一人なら自分のＩＤを使ってずかずかと部屋に入ってきただろうが、彼女の周りには婚約者の五十里や、元生徒会長のあずさ、そして元部活連会頭の服部と、そうそうたるメンバーが揃っていた。
「皆さんお揃いで……何かありましたか？」
「いや、私や服部君はそれほど興味ないんだけど、啓と中条さんが風紀委員会本部のＣＡＤを見てみたいって言いだして」
「あぁ、中条先輩はこの部屋に近づきませんでしたし、五十里先輩はこっちに来る間もなく千代田先輩が生徒会室に着てましたからね」
「なんだ、司波もいたのか」
「ええ、ちょっと幹比古に頼まれまして」
最後の一つをチェックし終えた達也は、珍しく話しかけてきた服部の相手をすることにした。
「お前がメンテナンスなどをしてるのか？」
「渡辺先輩から千代田先輩へ、そして幹比古へと何らかの連絡があったようで、風紀委員会本部のＣＡＤや周辺機器のメンテナンスは俺の仕事なんですよ」
「まぁ、中条や五十里が認める腕の持ち主だから、学校側としても司波に頼みたいんだろう」
「そんなものですかね」
業者に頼む金が浮く分、学園運営やらに使えるとでも思っているのかと、達也はため息を吐きたい思いに苛まれた。
「五十里くん、みてくださいこれ！」
「うわぁ、珍しいね。こんなのまであるんだ」
「……五十里は家柄的に仕方ないとはいえ、何で中条はあんなにＣＡＤが好きなんだ？」
「俺に聞かないで本人に聞けばいいじゃないですか」
「いや、何と言うか……中条の触れてはいけない部分なような気がいしてな……」
「七草先輩とかなら知っていたのではないのですか？」
「七草先輩も詳しい事情は知らなかったようだし、知っていたとしてもあの人が素直に教えてくれたとは思えないんだ」
「確かに」
服部の事をからかって遊んでいた真由美の事だから、恐らく真実を知っていたとしても服部にそれを教える事は無かっただろう。
「この仕上がり、さすが司波くんですね～」
「これで四葉家の跡取りだって言うんだから、もったいないよ」
「魔工技師として働けば、間違いなく日本を世界一のＣＡＤ大国に出来るんですけどね」
「まぁ、既にＦＬＴとかが世界に通用する事を証明してくれてるから、後は僕たちが頑張れば司波君がいなくても何とかなると思うよ」
そのＦＬＴが世界に出しているＣＡＤの殆どが達也考案の物なのだが、五十里はその事を知らないし、あずさも自分の中では確信しているが、証拠がないので誰かに言ったりはしていないのだ。
「司波、お前が入学して早々、俺と戦ったことがあったな」
「ええ、覚えています」
「あの時、お前は本来の力を封じられていたという事だな？」
「体術は使えましたが、魔法試合で蹴り飛ばすわけにもいきませんでしたので」
「そうか……あの波の合成は効いたぞ……」
「あの時点の俺では、他に服部先輩を倒す手立てがありませんでしたので」
実戦ならともかく、模擬戦で分解を使うわけにもいかなかったのであのような手段を用いたのだ。例え実戦であろうと、人前ではなるべく分解は使いたくないので、適当にあしらって蹴り飛ばしただろうが……
「今度、本気のお前と戦ってみたいものだ」
「勘弁してください」
そんなことを話している二人の視線は、ＣＡＤを楽しそうに見ている二人に注がれていた。幹比古も花音もだが、達也と服部もそんな二人を見て少し引き気味の笑みを浮かべていたのだった。
このコンビは知識もすごいですからね